りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018-01-01から1年間の記事一覧

鯖猫長屋ふしぎ草紙 2(田牧大和)

かつての義賊「黒ひょっとこ」で今は画描きの青井亭拾楽が、鯖縞模様が美しいオス三毛猫サバと移ってきた長屋を舞台とする、ちょっと不思議なお江戸ミステリ。『前巻』で永代橋の崩落を予見して、長屋の面々を救ったサバは、長屋で一番偉い地位を獲得してい…

虐殺器官(伊藤計劃)

近未来、サラエボで発生した核爆弾テロを契機として、先進国は徹底した個人情報管理体制を構築してテロの一掃に成功したものの、後進諸国においては内戦や大規模虐殺が急激に増加。事態を重視したアメリカは、戦争犯罪人の暗殺を可能とする情報軍を新設する…

川の名前(川端裕人)

多摩川の支流が流れる地域に住む、小学5年生の少年たちのひと夏の物語。 両親が離婚した後、世界中を飛び回る有名な自然写真家の父に育てられた脩は、海外暮らしや転校が多かったことで、周囲からは羨ましがられるものの自分の居場所がないことを悩んでいま…

おまじない(西加奈子)

著者10年ぶりの短編集には、さまざまな人生の転機に思い悩む女性たちの背中をそっと押してくれる魔法のひとことを「おまじない」と呼んで、言葉の持つ力を再認識させてくれる作品が並んでいます。 「燃やす」 可愛い恰好をして性被害にあった少女に、母が…

どちらでもいい(アゴタ・クリストフ)

ハンガリー動乱の際にオーストリアに脱出し、スイスに定住しながらフランス語で、自己の体験を反映した名作『『悪童日記』』を現した著者の初期短編集です。 本書は著者が1970年代から1990年代前半にノートに綴った掌編、短編を25編集めた作品集で…

昨日(アゴタ・クリストフ)

「悪童日記3部作」の著者による第4の長編は、新たな変奏曲ともいうべき作品でした。これまでの作品が、リュカ/クラウスという双子の片割れが西側へと亡命する物語であったのに対し、本書は亡命先での物語。かつて「私は次には、自分の亡命体験を語れるの…

グーニーズ(ジェームズ・カーン)

スピルバーグが1985年に製作した同名映画の原作かと思ったら、映画のノヴェライズ本でした。映画が先だったわけです。 ゴルフ場開発計画によって、貧しい住民たちが追い出されそうになっている海辺の田舎町。「グーニーズ」と自称する少年たちは家族や仲…

この世の春 下(宮部みゆき)

現代でいう所の多重人格証を発症して実の父親である先代藩主を殺害した、前藩主の北見重興が藩主の別荘である五香苑に監監され、治療を受けていることは『上巻』で述べました。 重興の内に潜む人格は、彼自身の少年時代を体現するような怯える少年、彼があり…

この世の春 上(宮部みゆき)

下野北見藩の若き第六代藩主・北見重興が重病により隠居。しかしその実態は、多重人格症という心の病であり、重興は藩主の別荘である五香苑に監禁されることになりました。しかも藩政改革を推し進めて名君とよばれていた先代藩主は、息子の重興に殺害されて…

ヒトラーの描いた薔薇(ハーラン・エリスン)

今年の6月に亡くなった著者は、1934年にオハイオで生まれ、1960年代から70年代に欠けて実験的なSF作品を生み出したニューウェーブ運動を代表する作家であった一方で、当時のTVドラマの脚本も数多く手掛けた人物です。著者の作品を初めて読み…

これはこの世のことならず(堀川アサコ)

昭和初期の青森弘前を舞台にして、盲目のイタコの千歳と、東京モダンガールで元娼婦の幸代のコンビが、奇怪な事件の謎を解き明かしていく『たましくる 』の続編です。前作よりもオカルト度合はアップしていますね。 「魔所」 盲目の千歳に縁談が舞い込んでき…

たましくる(堀川アサコ)

タイトルの「たましくる」とは「魂来る」のこと。時代は昭和6年。都会では昭和モダンが昭和恐慌によって終止符を打たれようとしている頃ですが、青森弘前にはまだ前時代の雰囲気が漂っています。 情夫と無理心中を遂げた双子の姉が、以前交際していた男性・…

おとなしいアメリカ人(グレアム・グリーン)

まだフランス軍がベトナムに駐留しており、アメリカの介入が始まる前の1950年代のはじめ、ひとりのアメリカ人青年が無残な水死体となって発見されます。引退間際のイギリス人記者ファウラーは、その青年パイルと、美しい地元娘フウオングを争っていたも…

2018/9 かがみの孤城(辻村深月)

8月に引き続いて、9月もSFやファンタジー的な作品が多めでした。暑いときにはSFに限るのです。とはいえ本格ハードSFは『シルトの梯子』だけで、辻村深月さん、川上弘美さん、堀川アサコさん、ル=グィンさんらの作品は、ファンタジー的な要素が強め…

戦時の音楽(レベッカ・マカーイ)

本書に収録された17編の短編は、必ずしも戦時の物語というわけでも、音楽をテーマとしている作品というわけでもありません。著者は、悲惨な運命や権力に抗うための力を「戦時の音楽」と名付けているようです。戦争の不寛容さを淡々と綴る冒頭の掌編「歌う…

カレーソーセージをめぐるレーナの物語(ウーヴェ・ティム)

ドイツと言えばソーセージですが、地名を冠したテューリンガー、ニュルンベルガー、フランクフルターや、製法や材料に由来するヴァイスヴルスト、レバーブルスト、ブルートブルストなどと比べると、北部で人気のカレーソーセージというのは、ちょっと格が落…

呉漢(宮城谷昌光)

6【呉漢(宮城谷昌光)】 王莽の簒奪によって前漢が紀元8年に滅亡した後、光武帝・劉秀が後漢皇帝として即位したのが紀元25年のこと。しかし当初は各地に自称皇帝が乱立しており、中国統一が実現したのは紀元36年です。実に30年もの間戦国時代が続い…

かがみの孤城(辻村深月)

2018年度の本屋大賞受賞作です。心を打ち砕かれて不登校となっている7人の中学生が、望みを叶えるために心を通わせていく、ファンタジー仕立ての物語。 集団的なイジメにあって学校に通えなくなってしまった、中学1年生の少女こころ。不登校になった原…

すべての見えない光(アンソニー・ドーア)

1944年8月。ノルマンジー海岸で最後までドイツ軍に占領されていたサン・マロに、連合軍の攻撃が開始されます。激しい爆撃と放火の中で出会ったのは、パリから移ってきていた16歳の盲目の少女マリー・ロールと、18歳のドイツ軍技術兵ヴェルナー。物…

レ・コスミコミケ(イタロ・カルヴィーノ)

タイトルの「コスミコミケ」とは「宇宙をテーマとする笑い話」程度の意味なのでしょう。Qfwfqと名乗る存在を語り手とする12編の短編はどれも、宇宙や科学の理論から連想されたホラ話なのです。ホラ話といえば『ビッグフィッシュ(ダニエル・ウォレス)』が…

シルトの梯子(グレッグ・イーガン)

2017年の出版ですが、原著は2002年の作品です。それ以前の『ディアスポラ』や『ひとりっ子』の延長線上にあり、『白熱光』や『直交3部作』との橋渡し的な位置づけにある作品と言えるでしょう。 2万年後の遠未来。人類は既に宇宙に拡散しており、自…

光の軌跡(エリザベス・ロズナー)

それぞれに忌まわしい記憶を背負った3人の男女の再生物語と言ってしまうと、いまどき目新しいテーマでもないのですが、詩人でもある著者によって、詩情あふれた美しい作品に仕上がっています。 腕に数字の入れ墨を持つユダヤ人の父親はアメリカに移住して、…

世界の誕生日(ル=グィン)

「エクーメン」なる緩やかな文明共同体の構成員が、ひとたびは宇宙全域に植民したものの滅び去ったハイニッシュ人の残滓を再発見していく、宇宙文化人類史的な「ハイニッシュ・ユニヴァース」シリーズ6作を含む短編集です。2002年の『言の葉の樹』以来…

燃焼のための習作(堀江敏幸)

運河沿いの雑居ビルで探偵事務所を構える中年男性の枕木。その事務所に雇われながら枕木の世話も見ている郷子さん。事務所を訪れた熊埜御堂という珍しい名を持つ中小工場の経営者。時ならぬ雷雨に降り込められた3人が、とりとめのない会話を交わすだけの作…

天子蒙塵 第3巻(浅田次郎)

「蒼穹の昴シリーズ」の第5部にあたる「天子蒙塵」の第3巻です。ともに天子たる資格を有しながら、中華の地から逃亡した2人の貴人の運命は、ここに来て大きく分かれていきます。 清朝滅亡後日本租界に匿われていた溥儀は、日本軍が独立させた満州国の皇帝…

レディ・ヴィクトリア 1(篠田真由美)

現在では超高級住宅街となっているロンドンのチェルシーですが、ヴィクトリア時代には下町であり、貴族が住む地域ではなかったようです。そんなチェルシーに住むレディ・ヴィクトリア(ヴィタ)は、先代シーモア子爵が晩年に再婚したアメリカ生まれの、まだ…

アメリカにおける秋山真之(島田謹二)

名著『ロシヤにおける広瀬武夫』の著者は、日本海海戦の参謀であった秋山真之の研究を先に始めたとのことです。しかしながら、広瀬武夫の研究の際に巡り合った宝の山のような資料を得ることができなかったため、本書のほうが後になったとのこと。奇しくも本…

怒りの葡萄(ジョン・スタインベック)

1939年に出版された本書は、大恐慌と自然災害によって流浪の民となったオクラホマ農民の苦難を描いて大ベストセラーとなる一方で、当時のアメリカ社会を告発する内容であったため、保守層からの非難も招いた作品です。しかし本書が不朽の名作であること…

水中少女(堀川アサコ)

『竜宮電車』の続編にあたる本書では、前巻のラストに登場した神様が大活躍。流行らない神社に祀られており、霊験も薄く、自分の食い扶持を稼ぐために人間に交じってバイトをしている、あの神様です。 人間には入れない神社本殿に侵入し、見えないはずの神を…

竜宮電車(堀川アサコ)

ちょっと不思議な内容の3編の小説が、不思議な繋がりを有している連作短編集です。 「竜宮電車」 27歳のシステムエンジニアがよく見る夢は、上手くいかない現実をなんとかしてくれるという竜宮電車に乗ろうとしても、切符がなくて乗せてもらえないという…