りぼんの読書ノート

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おまじない(西加奈子)

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著者10年ぶりの短編集には、さまざまな人生の転機に思い悩む女性たちの背中をそっと押してくれる魔法のひとことを「おまじない」と呼んで、言葉の持つ力を再認識させてくれる作品が並んでいます。

「燃やす」
可愛い恰好をして性被害にあった少女に、母が投げかけた「ほらね」の言葉は呪いでした。それを解いてくれたのは、いつも焼却炉で何かを燃やしている用務員のおじさんの「あなたは悪くないんです」という言葉だったのです。

「いちご」
憧れのファッションモデルとなったものの行き詰った女性を癒してくれたのは、イチゴ栽培一筋の親戚筋のおじさんの言葉でした。「東京ちうたら、とちおとめとあまおうがしのぎを削ってるとこじゃな」

「孫係」
ファザコン気味の母が故郷の祖父を長期間招いたので、娘は気づまりでなりません。しかし祖父は「私たちは、この世界で役割を与えられた係なんだ」と、それぞれの役割を演じ切るよう励ましてくれるのです。2人だけのところでは、自由に愚痴や悪口を言い合えるというのがポイントですね。

「あねご」
ずっと三枚目を演じてきた売れないキャバ嬢だって、ずっと深く傷ついていたのです。死のうと思った時に、もっと冴えない男からかけられた「あなたがいてくれて、本当に楽しいです」の言葉が彼女を救いました。

「オーロラ」
2人で待ったオーロラは見ることができなかったけれど、地元の老猟師からの「戻ってくるのはあんただよ」の言葉で、彼女には一人で生きていく覚悟が生れたようです。

「マタニティ」
結婚目当てと思われやしないか。自分はちゃんとした母親になれないのではないか。彼女を救ったのは、TVに出ていた叩かれ役のダメ芸人の一言でした。「弱いことってそんないけないことですか」。

ドブロブニク
ずっと劇団に尽くして来た女性は、フィンランドの小劇場で自主映画を上映するという初老の男性にかけた「おめでとう」の言葉を、そのまま返されたときに泣いてしまいます。今まではずっと、その言葉を言う側でしかなかったのですから。

「ドラゴン・スープレックス
迷信深い曾祖母、逮捕歴のある左派論客家の祖母、外人好きのヤンキー母親。まるでバラバラな家族の影響を受け続けてきた少女に自立心を授けたのは、曾祖母の知り合いのおっさんからの言葉だったようです。「お前がお前やと思うお前が、そのお前だけが、お前やねん」。

2018/10