りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

2023/10 Best 3

1.ひとりの双子(ブリット・ベネット) アメリカで先祖に黒人を持つ者は、白人のような見かけであっても「黒人」と見なされてしまいます。そんな者たちが白人になりすます「パッシング」を題材とした作品です。矛盾に満ちた混血者たちの町から逃亡した後、…

奇跡の大地(ヤア・ジャシ)

奴隷貿易が盛んだった18世紀のゴールドコースト(現ガーナ)。イギリス人に協力するファンティ族と抵抗するアシャンティ族が対立を深める中で、互いに存在を知らないまま生き別れとなった異父姉妹。姉のエフィアはイギリス人の現地妻となる一方で、妹のエ…

機械仕掛けの太陽(知念実希人)

人類の新型コロナウィルスとの戦いにはまだ終わりは見えていません。新たな変異株が流行する兆しもあるようです。しかし2020年初頭から続いてきた未知のウィルスへの不安感はかなり収まり、「日常」への復帰も始まっています。ただしそれは「新しい日常…

ひとりの双子(ブリット・ベネット)

アメリカ南部にあったという肌の色の薄い黒人ばかりが住む小さな町は、矛盾に満ちた場所でした。白人に憧れながらも、決して白人になれないことを知っている者たちが、人種の超越を夢想していたのです。そんな町から自由を求めて都会を目指した、白い肌を持…

ダッハウの仕立て師(メアリー・チェンバレン)

第二次大戦時のドイツでは、戦争捕虜となった民間人を工場や病院で奴隷労働に従事させており、中には一般家庭で働かせた例もあったそうです。フランスの尼僧であった著者の叔母も、老人介護労働をさせられていたとのこと。ただし歴史学者である著者は、本書…

愚かな薔薇(恩田陸)

恩田陸バージョンの『地球幼年期の終わり』とでもいえる作品です。少年少女たちが新人類へと進化を遂げていく物語。ただし時代設定は無茶苦茶です。1万数千年後に地球が太陽に飲み込まれるというのに、どこかノスタルジックな雰囲気を漂わせているのですが…

フローリングのお手入れ法(ウィル・ワイルズ)

ロンドンでしがない物書きをしている主人公が向かったのは、かつてナチスとソ連に蹂躙された東欧のどこかの国。彼は、神経質で完璧主義の音楽家である学生時代の友人オスカーから、1週間の留守番を頼まれたのです。それは、高級インテリアを備えたスタイリ…

さよならの儀式(宮部みゆき)

著者が2010年から2018年にかけて綴ったSF短編小説をまとめた作品です。時代小説やミステリ、ファンタジーやホラーなど万能作家である宮部さんにはジャンル分けなど不要なのでしょうが、どちらかというとファンタジー寄りのSFというところでしょ…

マイ・リトル・ヒーロー(冲方丁)

主人公は、人に騙され続けて両親の遺産も失い、妻に離婚を宣告され、子供の養育権も失ってしまった中年男性のノブ。狭い中古アパートに住んで半端仕事をしながら、中2の息子リンや、小3の娘アカリと会話できるオンラインゲームだけを楽しみにしている日々…

クルーゾー(ルッツ・ザイラー)

1989年夏の東ドイツ。大学で文学を学ぶエドは、恋人を事故で亡くして絶望し、人生からの逃亡を決意。彼が向かったのはバルト海に浮かぶ小さな島、ヒッデンゼー。「隠者亭」なるホテルで皿洗いの職に就いたエドは、ここが「クルーゾー」というカリスマ的…

夜が明ける(西加奈子)

15歳の時、主人公の「俺」が高校で出会った暁(あきら)ことアキは、唯一の肉親である母親にネグレクトされており、巨漢で吃音のためにクラスで無視されていた少年でした。190cmを超える長身と奇妙な風貌から、フィンランドのマイナーな個性派俳優ア…

裸の大地 第1部 狩りと漂泊(角幡唯介)

1日中漆黒の帳に閉ざされたグリーランド北部の北極圏を単独で走破した『極夜行』の後に、著者が選んだのは「狩と漂泊」でした。あらかじめ計画を立てた直線的な目標型の登山ではなく、地図も食料も持たずに、狩猟による食料調達を前提とする漂泊する旅。と…

9歳の人生(ウィ・ギチョル)

おそらく1970年代のソウル。まだ整地しにくい急勾配の斜面に「山の町」と呼ばれる貧民街が存在していたころ、9歳のヨミンは家族とともに山のてっぺんの家に引っ越してきました。もちろん貧しい生活ですが、元チンピラながら心を入れ替えた頼もしい父親…

二十四の瞳(壷井栄)

木下惠介監督、高峰秀子主演の1954年の映画で内容は知っているのですが、原作は未読でした。小豆島の「二十四の瞳映画村」を訪れたことをきっかけに、映画村内の壷井栄記念館で文庫を購入しました。 昭和3年、新卒の大石先生が赴任してきた「瀬戸内海べ…

吹上奇譚4 ミモザ(吉本ばなな)

かつて異世界に通じていたという海と山に囲まれた吹上町に生まれた、不思議な能力を持つ者たちの物語は、この巻で完結。全4巻を通じて語り手であったミミは、夢見と屍使いの能力を持つ双子の姉妹の姉ですが、幸か不幸か、本人も嫌がっている屍使いの技を使…

吹上奇譚3 ざしきわらし(吉本ばなな)

異世界の伝説がある海と山に囲まれた吹上町の「うっすらとしたモデル」は千葉県の館山だそうです。そう言われると崖観音や那古寺のあたりや、城山公園の裏手あたりには、ほんの少し異世界感も漂っているように思えてきます。 黒美鈴の魂を身を挺して救った美…

吹上奇譚2 どんぶり(吉本ばなな)

異世界伝説のある海と山に囲まれた吹上町で育った双子の姉妹ミミとこだちには、どうやら異世界人の血が 流れているようです。前巻でずっと眠り続けていた母をこちらの世界に取り戻してきたこだちはひっそりと、異世界研究を続けている大地主で、全身けむくじ…

吹上奇譚1 ミミとこだち(吉本ばなな)

ミミとこだちは「海と山に囲まれた孤島」のような吹上町で育った双子の姉妹。交通事故で父を失い、母が寝たきりになってから、2人で支え合いながら生きてきました。しかしある日、こだちが失踪してしまいます。思い余って謎めいた少女と老婆の占師に相談し…

福を届けよ(永井紗耶子)

2023年7月に直木賞を受賞した著者のことは、候補にあがるまで全く知りませんでした。受賞作は予約がいっぱいなのでまだ読めていませんが、気がつけばもう4作目。本書は、著者の第2作『旅立ち寿ぎ申し候』を文庫化に際して改題した「幕末青春ビジネス…

ブック・オブ・ダスト1.美しき野生(フィリップ・プルマン)

世界の運命を背負う少女の大冒険を描いたハイ・ファンタジー『ライラの冒険3部作』の10年前の物語。「ロードオブザリング」に対する「ホビットの冒険」や、「ハリー・ポッター」に対する「ファンタスティック・ビースト」のような位置づけですね。 オクス…

ハイ・フィデリティ(ニック・ホーンビィ)

1990年代前半のロンドン。35歳になったさえないレコードショップの店主ロブは、恋人のローラに振られたばかり。もちろん彼が悪いのですが、「君は過去につきあった女性たちほど屈辱と傷心を与えてくれなかった」と強がりを言うのです。しかもその言い…

女人入眼(永井紗耶子)

昨年「鎌倉殿の13人」を見たばかりなので、鎌倉幕府成立直後のわかりにくいゴタゴタは強く印象に残っています。そして源頼朝と北条政子の娘である大姫が入内を前にして自殺した事件も。本書は、大胆な野望を抱いて目的のためには手段を選ばない政子と、繊…

別れの色彩(ベルンハルト・シュリンク)

1995年の『朗読者』以来、次々とベストセラーを産み出している著者の短編小説集です。タイトルから予想できるように、さまざまな別れが鮮やかに描かれていますが、どの作品も等身大の著者の回想や後悔であるかのように思えてきます。 「人工知能」 かつ…

夜の語り部(ラフィク・シャミ)

シリアに生まれてドイツに移住し、後に作家となった著者による寓話的な作品です。長編大河小説である『愛の裏側は闇』も傑作でしたが、著者の本領はこういう作品にあるのでしょう。 まだ馬車による長距離移動も一般的だった1950年代のダマスカス。乗客を…

アホウドリの迷信(岸本佐知子・柴田元幸/編訳)

「日本にまだあまり紹介されていない英語圏の作家」という条件で、岸本佐知子と柴田元幸が自由に選んだ短編小説集。2人とも「端っこの変なところを偏愛する」と自称するだけあって、どの作品も奇妙に心に残る場面を含んでいます。2人が対談する「競訳余話…

火星へ(メアリ・ロビネット・コワル)

1952年に巨大隕石が落下したことで存亡の危機を認識した人類が、本格的な宇宙進出を目指したという歴史改変SFシリーズの第2部にあたります。第1部『宇宙(そら)へ』で、一介の計算士から初の宇宙飛行士の一員となって月へと向かった「レディ・アス…