りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009-10-01から1ヶ月間の記事一覧

ハイペリオン(ダン・シモンズ)

長い長い「ハイペリオン4部作」に、ついに手を出してしまいました。 後の『イリアム』と『オリュンポス』の2部作が、シェークスピアをモチーフにした世界を描いていたのに対し、このシリーズは19世紀イギリスの詩人ジョン・キーツの未完の詩篇に着想を得…

光源(桐野夏生)

失敗に終わる映画制作現場を舞台にした小説です。プロデューサーとしての名声を得るため、私財を投げ打って映画制作に全てを賭けた玉置優子が集めたメンバーは、現場のことを何も知らないのに自分が天才だと信じる新人監督に、かつて優子の恋人だった腕のい…

楊令伝10(北方謙三)

前巻の梁山泊との戦いで童貫元帥を失った宋国は、既に国家の支柱を失っています。金軍の再度の攻撃によって開封は陥落し、徽宗・欽宗を北方に連れ去られてた宋はここに滅亡。金は、漢民族国家の直接統治は無理と判断して傀儡政権を立てますが、青連寺は江南…

パン屋再襲撃(村上春樹)

『ねじまき鳥クロニクル』のもとになった「ねじまき鳥と火曜日の女たち」が含まれているので読んでみたのですが、まだ長編で描かれることになるテーマには到達していないように思えました。 本書に含まれる6編は、1985年に発表されたものですから、長編…

海辺のカフカ(村上春樹)

村上春樹さんの長編を再読する個人企画も、ついに最後の一冊になりました。 家を出て「世界で一番タフな15歳の少年」になる必要がある田村カフカ少年と、終戦前の不思議な体験で「空っぽな存在」になってしまったナカタさんの物語はこれまでの作品にも増し…

出世花(高田郁)

最近注目している時代小説作家、高田郁さんのデビュー作です。江戸時代の下落合にある死者を弔う墓寺を舞台とした少女の成長物語というと意味不明でしょうが、この物語全体に説得力を持たせている導入部が、まず見事。 男と出奔した妻を追い、幼い娘を連れて…

テロルの季節(佐伯泰英)

独裁者フランコの死を目前にした1973年に、スペイン親善訪問中の皇太子夫妻を巻き込んだテロに失敗して死んだはずの殺人鬼「梟」こと小磯が生きていた? 前作『ユダの季節』から15年後の1988年。欧州統合を控えたヨーロッパ各地で起きている残酷な…

最後の物たちの国で(ポール・オースター)

人々が絶望と貧困の中に暮らし、記憶や言葉さえもが失われていく「街」。ふと気付くと、部屋や家だけでなく、街区こと失われてしまうような「街」。住居も食物もなく、盗みや強姦や殺人は既に犯罪ですらないほど治安は乱れ、そこから逃れる唯一の手段である…

老人と宇宙3 最後の星戦(ジョン・スコルジー)

シリーズ第3作で完結編。 地球から飛び出て宇宙に殖民を開始した人類が遭遇したのは、敵意に満ちた異種族たち。75歳以上の老人を寡り、若返って強化されたクローン肉体を与えて戦闘要員とするという「戦士の体験」を描いたのが第1巻。(これはかなり面白…

ハチはなぜ大量死したのか(ローワン・ジェイコブセン)

2006年以降、北半球に棲息するセイヨウミツバチの1/4が消滅しています。女王や幼虫を残したまま、突然働きバチが失踪して、コロニーが崩壊していくのです。著者は、「蜂群崩壊症候群(CCD)」と名づけられたこの現象に、多面的に挑みます。 そもそ…

倒壊する巨塔-アルカイダと「9・11」への道(ローレンス・ライト)

昨年の「ニューヨーク・タイムズ最優秀図書」であり「ピュリツァー賞」受賞作品。「アルカイダ」の思想的背景からその誕生、そして「9.11テロ」に至る軌跡を丹念に追いかけて、彼らの「実像」を伝えるノンフィクション作品です。 そもそも、同じイスラム…

少年少女飛行倶楽部(加納朋子)

加納さんというと「ミステリ作家」の印象が強く、「アリスもの」の1冊を読みかけて興味を持てずに途中でやめたという接点しかなかったのですが、本書は楽しめました。あとがきで「底抜けに明るい、青春物語が書きたくなりました」と言っていますが、成功し…

スプートニクの恋人(村上春樹)

この本は商業的にはヒットしなかったようですが、個人的には一番好きな作品です。村上さんの描く女性もステキでしたし。まずは、冒頭の一文を紹介いたしましょう。 22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような…

ヴェネツィアの宿(須賀敦子)

『ミラノ 霧の風景』と『トリエステの坂道』に続く須賀さんの3作目の著作は、自伝的な色彩が濃いものでした。ヴェネツィアの宿に泊まった夜。通りを超えてフェニーチェ劇場から流れてくるアリアに身を委ねながら、著者の思いは過去に向かいます。 ヴェネツ…

僕僕先生3 胡蝶の失くし物(仁木英之)

『僕僕先生』シリーズの第3弾です。美少女の姿をした仙人の「僕僕先生」と、彼女(?)に惚れ、一方でなぜか彼女からも気に入られて、玄宗皇帝時代の大唐帝国内を一緒に漫遊している気の弱い薬師の王弁クン。 第1巻から登場している仙馬・吉良や、ペットと…

パパママムスメの10日間(五十嵐貴久)

会社員の父親と高校生の娘の心が入れ替わってしまった『パパとムスメの7日間』から2年後、またも川原家の家族に「入れ替わり」が起こってしまいます。しかも今度は、「パパ→ママ」、「ママ→ムスメ」、「ムスメ→パパ」の3者シャッフル! 一度「入れ替わり…

ケンブリッジ・クインテット(ジョン・L.キャスティ)

1949年のある日。政府の科学顧問を務めている物理学者スノウの呼びかけに応じ、4人の「知の巨匠」たちがケンブリッジに集まり、ディナーをともにします。実はこのディナー、英国政府に対して「人工知能の可能性」を答申することになったスノウが有識者…

イオニアの風(光原百合)

ギリシャ神話に想を得た、テレマコスとナウシカアの物語。トロイ戦争を舞台にした、先行する2つの物語は「長い序章」的な位置づけですね。 プロメテウスから「意思」を授かったものの、戦争を繰り広げてきた人間たちから「意思」を取り上げるべきかどうかの…

秘密の花園(三浦しをん)

「女子高生」・・少女から女性へと変わっていく多感な年頃。自分の高校時代なんて、今になって思い返すと、恥ずかしいことがいっぱい。できれば忘れてしまいたいような時期。しかしそれだけに、「自分の秘密を繰り返し書き続ける人種」である作家としては魅…

ねじまき鳥クロニクル(村上春樹)

会社を辞めて専業主夫状態にある30歳の「僕」と、編集者として働く妻「クミコ」の生活のバランスが猫の失跡をきっかけにして狂いはじめ、ついに妻が失踪してしまう。 妻は何か邪悪なものに汚されてしまって、そこから脱出できないでいるようなのですが、妻…

国境の南、太陽の西(村上春樹)

『ねじまき鳥クロニクル』は妻が失踪したところから始まりますが、本書はその「前史」とでもいうべき作品であり、幼年から中年に至るまでの主人公の人生を丁寧に追っています。 1951年に生まれたハジメは、当時は珍しかった一人っ子であり、そのためか何…

素数たちの孤独(パオロ・ジョルダーノ)

イタリアの若い物理学者が著したストレーガ賞受賞作、かつこんなタイトルなので、かなり硬い内容の本を期待していたのですが、エゴイストの男女の悲恋物語でした。 これ、そのまま「いまどきのTVドラマ」になりそう・・と思ったところで、3ヶ月ごとに乱造…

地獄のコウモリ軍団(バリー・ハナ)

クレストシリーズの中でも異彩を放つ異様なタイトルで、しかもこの表紙。前から気になっていましたが、手を出せずにいた本です。 「南部的ブラックジョーク」とでもいうのでしょうか。老い、死、犯罪、差別、ホモ、セックス・・ダークなワード満載。悲惨な人…

2009/9 ミスター・ピップ(ロイド・ジョーンズ)

あらためて村上春樹さんの長編を、はじめから読み返しています。2度めでもおもしろいし、2度めでも難解。『1Q84』にあった言葉を思い出してしまいます。「説明しなければ理解できないのなら、説明しても理解できない」^^; 村上さんの小説は再読でも…