りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

裸の大地 第1部 狩りと漂泊(角幡唯介)

1日中漆黒の帳に閉ざされたグリーランド北部の北極圏を単独で走破した『極夜行』の後に、著者が選んだのは「狩と漂泊」でした。あらかじめ計画を立てた直線的な目標型の登山ではなく、地図も食料も持たずに、狩猟による食料調達を前提とする漂泊する旅。とはいえ徒手空拳で未知の極地を彷徨うことは死を意味します。45日分の食料を持って90日程度の漂泊という漠然とした目算で、『極夜行』の際に知った兎や麝香牛の生息地から、さらに先を目指すというのが大まかな計画。もちろん「連れ」は相棒犬のウヤミリック。

 

幸先よくイングルフィールドランドで麝香牛を1頭仕留めたものの当てにしていた兎は見つからず、フンボルト氷河内湾では何度も海豹狩に失敗。不毛のワシントンランドでは食料不足に怯え、体力の限界を感じながら帰路につくことにしたのが北緯81度12分の地点。しかしこの時著者には、次の旅のイメージが湧いていたのでした。それは狩猟のために機動力を高めた犬橇の旅。狩猟能力を高めないことには、「帰りの食料を持たないまま先に進む」という「見えない一線」を超えることはできないと自覚したのです。

 

本書には、「著者以外の人には無意味ではあるが、著者にとっては命にも等しい」地図が付録としてついています。自分の旅の経験を通じて獲得した、自分で見つけた土地の特徴が書きこまれた地図が、範囲を広げ、細部情報が加筆されていくことになるのでしょうか。「人はなぜ他人の冒険記を読むのか」という問題は差し置いて、第2部にも期待してしまいます。

 

2023/10