りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2021-01-01から1年間の記事一覧

2021 My Best Books

2021年に読んだ本は287作品。まあまあ読んだ方ですが、諸事情あって11月以降の読書量は落ちているので、来年は減ってしまうかもしれません。超大作を一夜で読みきるようなことも減ってきているように思います。重要なのは量より質であることは論を…

2021/12 Best 3

1.FACTFULNESS(ハンス・ロスリング) 世界の貧困は改善されていないのか。人口は果てしなく増え続けるのか。今なお女性は迫害を受け続けているのか。このような問いに対する正解率は、チンパンジーがランダムに回答した場合より低い10%程度…

チンギス紀 10(北方謙三)

西方の大国であったナイマンを倒し、長年のライバルであったジャムカを葬ったチンギスは、文字通りの草原の覇者となりました。かろうじて独立を保っていたメルキトのアインガも、ついにチンギスへの臣従を決意します。広大な草原は、チンギス直轄領を中心と…

けむたい後輩(柚木麻子)

2010年にデビューした著者が2012年に著した第4作ですから、まだまだ初々しさが残る作品です。しかしそれだけに、小説家となった著者が書きたいテーマがストレートに伝わってくるようです。 横浜の名門女子大に入学した世間知らずのお嬢様・真実子は…

みをつくし料理帖 特別巻 花だより(高田郁)

「みをつくし料理帖シリーズ」本編の後日談を収録した短編集です。澪が大阪に戻ってから4年、懐かしい人々はどのように暮らしているのでしょう。 「花だより」 74歳になってつる屋店主・種市は、高名な占師に余命1年と告げられて覚悟を決めました。最後…

エレジーは流れない(三浦しをん)

物語の舞台となっている「餅湯温泉」は、明らかに熱海温泉ですね。海と山に囲まれて新幹線は止まるものの、団体旅行客で賑わっていたかつての面影はなく、今はちょっと寂れてしまった温泉町。ここで暮らしている高校2年生の穂積怜には父親がいない代わりに…

俺と師匠とブルーボーイとストリッパー(桜木紫乃)

まさか1975年の釧路の物語が、我が家の近所で終わるとは思いませんでした。「ピンク色の施設」と書かれた建物の外壁の色を、自宅の窓から確認できるような場所なのです。 キャバレーで働く20歳の章介は、博打に溺れていた父親が死んでも、父親の遺骨を…

FACTFULNESS(ハンス・ロスリング)

まずはイントロダクションにある12問の三択クイズにトライしてみてください。 1.低所得国に暮らす女子が初等教育を修了する割合は?(A20%、B40%、C60%) 2.世界で最も多くの人が住んでいるのは?(A低所得国、B中所得国、C高所得国) …

ムーンライト・イン(中島京子)

職を失って当てのない自転車旅行に出た栗田拓海は、夜の高原で激しい雨に降られてペンション風の家に飛び込みます。そこは世代の違う四人の男女がシェアハウスとしている場所でした。かつてそこでペンション経営をしていた高齢の中林虹之助。彼の友人で未亡…

この本を盗む者は(深緑野分)

全国に名の知れた書物蒐集家であった御蔵嘉市のコレクションは、稀覯本の盗難に激高した娘たまきによって閉鎖され、盗難者に対する呪いがかけられました。「この本を盗む者は」・・どのようなことになってしまうのでしょう。 時は過ぎてたまきも亡くなり、現…

52ヘルツのクジラたち(町田そのこ)

2021年度の本屋大賞受賞作です。タイトルの「52ヘルツのクジラ」とは、他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラのこと。たくさんの仲間がいるはずなのに何も届かず、何も届けられず、広い大海で誰とも出会うことのない孤独なク…

ふたりぐらし(桜木紫乃)

北国に暮らす頑張り屋の女性とダメ男の壮絶な関係を描いてきた著者にしては珍しく、心穏やかになる作品でした。看護師で35歳の紗弓と、元映写技師で現在は映画脚本家の夢を追い続けているものの定職のない40歳の信好という夫婦の関係は、他の作品のよう…

日没(桐野夏生)

現代日本と地続きの近未来で展開される「表現の不自由」の物語。エンタメ小説家である中年女性のマッツ夢井のもとに届いた手紙は、「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状でした。出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと収容…

スコルタの太陽(ロラン・ゴデ)

「長靴に例えられるイタリア半島のかかとにあたるプーリア地方のスコルタに生きた、宿命の一族の5世代に渡る物語」というと、いかにも地元に愛着を持った人物の作品のようですが、本書の著者はフランス人です。ギリシャや中東やアフリカなどを思わせる不条…

クイーンズ・ギャンビット(ウォルター・テヴィス)

2020年にネットフリックスから配信されて人気を博したドラマの原作ですが、本書が書かれたのは今から40年近く前の1983年のこと。やはり著者の原作による映画「ハスラー」や「ハスラー2」は、老いた男性の再起が描かれましたが、本書の主人公は若…

ジニのパズル(崔実)チェ・シル

在日朝鮮人三世の少女にとって、彼女を取り巻く世界が不条理に満ちているであろうことは想像に難くありません。それは日本、韓国、北朝鮮という3カ国の狭間に産み落とされた存在なのですから。生徒の大半が韓国籍であることを選択した者なのに、朝鮮学校で…

卍どもえ(辻原登)

社会的に成功した2組の中年夫婦が転落していったきっかけは、ネイルサロンでの隠微なささやきでした。青山にデザイン事務所を構える瓜生甫の妻ちづるは、年下のネイリスト可奈子に誘われて女性同士の性的な関係を結びます。さらに瓜生と旧知でフィリピンと…

越境者(C・J・ボックス)

ワイオミングの心優しい猟区管理官ジョー・ピケットを主人公とするシリーズの第14弾。このシリーズの中心テーマが自然保護であることは間違いないのですが、内容的にはミステリとアクションの間くらいでしょうか。 前作『発火点』で連邦政府の不合理な要請…

ホール(ピョン・ヘヨン)

先に読んだ短編集『モンスーン』では現代韓国におけるカフカ的な不条理を感じましたが、著者の4冊目の長編であるという本書にも同じ匂いが感じられます。そもそも「交通事故で全身不随となった主人公」という設定が、カフカの『変身』を思わるのです。 いき…

仁淀川(宮尾登美子)

自身の分身である綾子を主人公とする自伝的小説の第4部にあたります。幼少期から少女時代を描いた『櫂』、思春期から結婚までを描いた『春燈』、満州での厳しい1年半を描いた『朱夏』に続く本書は、夫の実家である仁淀川の畔の農村で暮らした時代の物語。 …

さようなら、ギャングたち(高橋源一郎)

1981年に「群像新人長編小説賞」の優秀作となり、著者のデビュー作となったのが本書です。「従来の小説の枠から軽やかに抜け出した」との好意的な評があった一方で、「お手上げ」とか「残り少ない時間の余生が惜しい」という手厳しい選者もいたとのこと…

スギハラ・サバイバル(手嶋龍一)

北朝鮮が関わる偽札と核開発疑惑に踏み込んだインテリジェンス小説『ウルトラ・ダラー』の続編は、第2次大戦下のリトアニアに端を発するマネーゲームを題材としています。前巻に続いて、英国情報部員スティーブンと米国特別捜査官マイケルのコンビが活躍。 …

2021/11 Best 3

1.息吹(テッド・チャン) 第1短編集『あなたの人生の物語』以来17年ぶりの第2短編集というから、寡作にもほどがあります。しかし2年に1編という短編発表にもかかわらず、彼の作品は多くのSF賞を受賞し、映画化されてヒットし、オバマ前大統領から…

大西洋の海草のように(ファトゥ・ディオム)

2002年の日韓ワールドカップでかつての宗主国フランスを破るという大金星をあげたセネガルは、ベスト8にまで進出して大きな話題になりました。その試合をクライマックスとする本書は、1968年にセネガルの離島に生まれ、現在はフランスに住んでいる…

春の宵(クォン・ヨソン)

この短編集の原題は『アンニョン、酔っぱらい』だそうです。著者はあとがきで自身の飲酒遍歴を語り、「決して自分からお開きとは言えない人間らしい」と語っています。「絶望と救いを同時に歌った詩のような小説」が生み出された背景には、著者の体験もある…

Yの木(辻原登)

1945年生まれの著者は、本書が出版された2015年時点で70歳。失礼ながら0代半ば頃の『許されざる者』から『冬の旅』あたりがピークではないかと危惧していたのですが、まだまだそんなことはありませんね。本書は短編4作ですが「ある一瞬」に向け…

鞠子はすてきな役立たず(山崎ナオコーラ)

新聞に連載されていた時と単行本で出版された時には『趣味で腹いっぱい』というタイトルだったのが、文庫化の際に改題されたとのこと。当初のタイトルではエッセイと勘違いされそうという理由だそうですが、このタイトルもなんだか意味不明ですね。しかし本…

地上で僕らはつかの間きらめく(オーシャン・ヴオン)

離れて暮らす母親に宛てた手紙に、祖母と母と自分自身の人生を綴り続ける青年・・というと高村薫さんの『晴子情歌』のようですが、これらの手紙が出されることはありません。幼い息子と祖母を抱えて、戦後の混乱が 続くベトナムからアメリカへと渡った母親は…

もらい泣き(冲方丁)

著者が2009年6月から2012年2月まで「小説すばる」に連載したコラムは、「泣き」をテーマとしたショ-トストーリー集でした。はじめは「怒り」のほうに意識が向いていたとのことですが、直前に考えを変えたとのこと。「怒り」を持続させたり、他人の…

優しい噓(キム・リョリョン)

書肆侃侃房が出版している「韓国女性文学シリーズ」の第2作です。韓国で80万部のベストセラーとなり、映画化もされています。本書が扱っているのは、日本でも深刻な女子中学生のイジメ問題。 物語は、中学1年生のチョンジが、赤い糸で編んだ長い紐で首を…