りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2024-01-01から1ヶ月間の記事一覧

2024/1 Best 3

1.フリアとシナリオライター(マリオ・バルガス=リョサ) ラテンアメリカを代表するノーベル文学賞受賞作家が1977年に発表した本書は、半自伝的な青春小説であるとともに、スラップスティック濃度の濃いコメディタッチの作品です。まだ大学生の身であ…

古地図で大江戸おさんぽマップ(山本博文)

時代小説の中で圧倒的に多いのは江戸を舞台にする作品です。江戸の地図が頭に入っているとわかりやすいことも多いのですが、そんな目的にぴったりの一冊です。各章の図解に附属している浮世絵も楽しめます。ただ各章の見出しに「!」が多すぎる! 「序章」 …

皇妃エリザベートのしくじり人生やりなおし(江本マシメサ)

1898年に60歳で暗殺者の凶刃に倒れたオーストリア皇妃エリザベートは、「民衆に慕われた皇后」との伝説を遺しました。ウィーンのホーフブルク宮殿の一画が、彼女の生涯をたどる「シシィ博物館」となっているほど、今でも人気の高い人物です。しかし義…

やさしい共犯、無欲な泥棒(光原百合)

尾道に生まれ育ち少女の頃から「ミステリ」と「メルヘン」を愛した著者は、やがて英文学研究者となり、故郷の大学で教鞭をとりながら創作を続けました。ケルト伝説に想を得た『銀の犬』も、ホメロス世界を描き直した『イオニアの風』も、尾道で起こった小さ…

わるいうさぎ(中島さなえ)

ラボから脱走したうさぎが、野たぬきの犯罪団とともに押し入った牛舎で饒舌なねずみや自分本位な犬と出会う中で愛する者の存在に気付いて、まだラボに捉えられているメスうさぎを救いにいくという寓話です。はじめにうさぎによって語られる物語が、さまざま…

ルクレツィアの肖像(マギー・オファーレル)

イタリア・ルネサンス期のルクレツィアというと、マキャベリの「君主論」のモデルとなったチェーザレ・ボルジアの妹を想起する人が多いでしょう。ローマ教皇アレクサンデル6世となった父親や兄の政治的陰謀に巻き込まれたとされるファム・ファタールです。…

メゲるときも、すこやかなるときも(堀川アサコ)

「幻想シリーズ」をはじめとする不思議な物語を得意としてきた著者ですが、最近は不思議を封印した作品も多いようです。ジャンルもの作家から脱却しつつあるのでしょうか。 新型コロナ蔓延による緊急事態宣言が発令された日、乃亜は夫のユキオに失踪されてし…

女だてら(諸田玲子)

江戸時代後期に活躍した女性漢詩人の原采蘋は、秋月藩の高名な儒学者・原古処の娘であり、男装で旅をしていたとのこと。葉室麟の『秋月記』にも脇役として登場しています。著者は采蘋の旅日記が秋月から江戸を目指す途中で途絶えていたことと、この時期に秋…

ばけもの厭ふ中将(瀬川貴次)

シリーズ化されている『ばけもの好む中将』のスピンオフ作品です。本編の主人公である左近衛中将宣能は、ばけものとの出会いを待ち望みつつ都の怪事件を追い続けるものの、実際は人為的な策略か錯覚ばかり。しかし本書の主人公である「今源氏」と噂される色…

かげゑ歌麿(高橋克彦)

浮世絵研究の第一人者である牧野健太郎氏の『浮世絵の解剖図鑑』を読み、講演も聞いたところで、浮世絵関係の作品を読みたくなりました。牧野氏に歌麿は滅法いい男だったとのことですが、本書ではそれに加えて剣の遣い手でもあったとされています。そのあた…

フリアとシナリオライター(マリオ・バルガス=リョサ)

ラテンアメリカを代表するノーベル文学賞受賞作家が1977年に発表した本書は、半自伝的な青春小説であるとともに、スラップスティック濃度の濃いコメディタッチの作品です。 著者の分身である主人公マリオが18歳ですから、本書で描かれた時代は1950…

ツインスター・サイクロン・ランナウェイ3(小川一水)

人類が星々へと拡散した遠未来。女性同士の恋愛が許されない故郷の巨大ガス惑星を飛び出した2人の少女は銀河の文明圏を目指します。厳密には密航状態の2人が予想外のトラブルや生活の課題に次々と見舞われるのは当然として、安住の地を目指すテラとどこま…

ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2(小川一水)

遠い未来。宇宙に進出した人類の中でもとりわけ辺境のガス惑星FBBで暮らす人々は周回者と呼ばれ、特殊な方法で生計を立てつつも古典的な風習を守り続けていました。巨大ロケットで巨大宇宙魚を捕獲する宇宙漁技術を編み出したものの、その船を操れるのは…

ニューヨーク市貯水場(E・L・ドクトロウ)

南北戦争後1871年のニューヨークは、活気と混乱に満ちた大都会でした。ヨーロッパ各地からの移民が急増する中で、『ギャング・オブ・ニューヨーク』にも登場する悪徳政治家ビル・トゥイードが贈収賄と暴力で市政を牛耳っていた時代だったのです。 そんな…

数学が見つける近道(マーカス・デュ・ソートイ)

『素数の音楽』や『シンメトリーの地図帳』で数学への興味を沸かせてくれ、『知の果てへの旅』で現代知識の最前線を、『レンブラントの身震い』でAIの到達点について解説してくれた著者の新刊のテーマは「近道術」でした。膨大な総当たり計算を瞬時にこな…

財布は踊る(原田ひ香)

次々と持ち主を変える「ルイ・ヴィトンの高級財布」を巡って、お金に踊らされる人たちの姿を描いていく連作小説です。そんな説明だとありがちな趣向に思えてしまいますが、本書はよくできています。『三千円の使いかた(未読)』を大ヒットさせた著者の力量…

蒸気駆動の男(吉良佳奈江/訳)

1392年から1910年まで続いた李氏朝鮮王朝を舞台とする、歴史改変スチームパンク年代記は、5人の韓国SF作家による連作です。歴史の転換期で暗躍する謎の回回人都老(トロ)の基本設定と、巻末に付された年表作成者は、あみだくじで決められたとの…

人間(又吉直樹)

芥川賞受賞作『火花』と第2作『劇場』はいずれも中編でした。第3作の本書は新聞に連載された著者初の長編小説ですが、過去2作のような密度を保ち続けることには成功しています。ただし、長編で密度を高く保ち続けることの是非は、また別の問題です。 視点…

世の中に悪い人はいない(ウォン・ジェフン)

小説とは「満を持してようやく少しだけ書ける小さくて素朴な物語」だという韓国の作家が、手のひらに書かいてみたようなシンプルな単語を原型として紡ぎあげた掌編集です。そこに書かれているのは、「絶望的で悲しい社会現象である暴食、爆笑、暴力の時代を…