りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

デイゴ・レッド(ジョン・ファンテ)

「ディゴ」とはアメリカにおけるイタリア系移民に対する蔑称であり、「デイゴ・レッド」とは彼らが飲む低級赤ワインのこと。1909年にイタリア系移民2世としてデンバーに生まれた著者は、「犬、黒人、イタリア人お断り」との張り紙を見て育った世代です…

サンセット・パーク(ポール・オースター)

自罰的な理由で人生を投げ捨てた28歳のマイルズは、フロリダで空き家の残存物撤去という半端仕事に就いています。生まれた直後に実母から捨てられた過去を持つマイルズは、今度は実父と養母を捨てて家を出てきたわけです。彼はピラールという未成年の女性…

首里の馬(高山羽根子)

「記録すること」や「保存すること」は、基本的に孤独な作業なのでしょうか。順さんという老女の民俗学者が収集した雑多な記録を保存している資料館は、彼女の生とともにその役割を終えようとしています。中学生の頃からそこで資料整理を手伝っている未名子…

海と山のオムレツ(カルミネ・アバーテ)

15世紀から18世紀にかけてオスマン帝国の圧政から逃れてきたアルバニア移民が築いた、アルバレシュと呼ばれる村々が、南イタリアのカラブリア州に多く点在しています。そこでは独自の言語や文化が大切に守られているのですが、料理も例外ではありません…

もののふの国(天野純希)

「螺旋プロジェクト」の中世・近世篇は、平将門の乱から西南戦争まで続いた「武士の時代」を、海族と山族の対立の歴史として捉えます。千年近くもの間、国家の支配をめぐる大きな戦いが断続的に起こっていたわけですから、対立関係を描き出すのに、これほど…

【罪人を召し出せ(ヒラリー・マンテル)

ヘンリー8世の時代を、秘書官として裏から支えたトマス・クロムウェルの視点から描くシリーズの第2作。前作『ウルフ・ホール』ではアン・ブーリンの王妃即位とエリザべス誕生までが扱われましたが、。本書ではアンの凋落が描かれます。 イギリスの教会をロ…

十二国記 9.白銀の墟 玄の月(4)小野不由美

長い物語に決着がつこうとしています。北方の文州で叛王・阿選に対する抵抗勢力を糾合しつつあった李斎は、ついに驍宗と再会。文州城を拠点とすべく攻略を試みるとともに、王の名のもとに隣国・雁への救援を求めようとします。王宮に軟禁されていた泰麒は、…

十二国記 9.白銀の墟 玄の月(3)小野不由美

王宮に軟禁状態で置かれている泰麒のもとに、耶利という不思議な少女が派遣されてきます。彼女は後に、この世界における流浪の民である黄朱であることが判明します。蓬山を囲む妖魔の棲家である黄海を故郷とし、王に支配されず天帝の意もすり抜ける妖魔の民…

十二国記 9.白銀の墟 玄の月(2)小野不由美

大逆を犯して王の座を奪い取った阿選と会った泰麒は、危害こそ与えられなかったものの体のいい軟禁状態に置かれます。もとよりそんなことは覚悟の内ですが、不思議なのは仮王として権力を掌握したはずの阿選が、ほとんど全ての政務を小物の内宰に委ねたまま…

十二国記 9.白銀の墟 玄の月(1)小野不由美

このシリーズを代表する人物は第1部『月の影 影の海』の主人公で、普通の女子高生から慶国の景王となる陽子でしょう。でも一番多く書かれている人物は、戴国の麒麟である泰麒です。第2部『風の海 迷宮の岸』は、生来の麒麟である自覚を持てずにいた10歳…

掃除婦のための手引き書(ルシア・ベルリン)

はじめて名前を聞きましたが、邦訳されているのは本書だけなので、それも当然でしょう。数奇な人生を歩んだ作家です。鉱山技師だった父親の仕事の関係で1936年にアラスカで生まれた後も、アメリカ各地の鉱山町を転々としながら育ち、父親が第2次大戦に…

2021/4 Best 3

1.アウグストゥス(ジョン・ウィリアムズ) 養父カエサルを継いで地中海世界を統一し、ローマ帝国初代皇帝となったオクタウィウスに贈られた尊称がアウグストゥス。偉大な名前と若い友人たちしか持っていなかった18歳の青年はどのようにして、カエサルの…

スミソン氏の遺骨(リチャード・T・コンロイ)

1927年にテネシーで生まれた著者は、原子力研究所、海外領事館勤務の外交局職員、国務省職員などを経験した後で、スンソニアン博物館に長く務めた経歴を持っています。本書の主人公であるヘンリー・スラッグズは、42歳で国務省からスミソニアンに出向…

寒椿(宮尾登美子)

高知の芸妓子方屋の娘である悦子が、同じ家で姉妹のように暮らした4人の芸妓たちの生きざまを語ります。50歳を過ぎて作家となっている悦子はもちろん著者の分身であり、女衒あがりの実父と素人出身の養母が営む子方屋も、自伝的小説『櫂』にある通り。4…

架空の王国(高野史緒)

デビュー作『ムジカ・マキーナ』と第2作『カント・アンジェリコ』はともに、「音楽をテーマとするスチームパンクSF」というユニークな作品でした。本書は先の2作品で鍵となる役割を果たした、ボーヴァル王国という架空の国家を主役に据えた物語。 フラン…

夢も定かに(澤田瞳子)

聖武天皇の時代。まだ藤原4兄弟と長屋王らとの権力闘争も、藤原氏の安宿媛(後の光明子)と県犬飼氏の広刀自の皇后争いにも決着がついていない頃の物語。官女として働くために阿波国から上京してきた若子は、伊勢出身で才能ある笠女や、稲葉出身で美女の春…

ゴーストハント3 乙女ノ祈リ(小野不由美)

ごく普通の女子高生にすぎない谷山麻衣のバイト先は、なんと心霊現象の調査をする渋谷サイキックリサーチ。そこの所長はまだ17歳の青年に過ぎない渋谷一也であり、あとは謎めいた助手のリンさんがいるだけなのですが、これまで学校に憑りついた悪霊や呪わ…

ウルフ・ホール 下(ヒラリー・マンテル)

ヘンリー8世の側近として英国宗教改革の法律的な礎を築いたトマス・クロムウェルの活躍は、下巻に入って加速していきます。クロムウェルが中心になって成立させた宗教改革法案(上告禁止法と国王至上法)では、イングランドが教皇庁から独立した帝国である…

ウルフ・ホール 上(ヒラリー・マンテル)

英国国教会を生み出し、次々と6人の妻を娶ったヘンリー8世の時代は、小説や映画の題材に取り上げられることが多いのです。近年では『ブーリン家の姉妹(フィリッパ・グレゴリー)』がヒットしています。 本書の主人公は、ヘンリー8世に側近として仕えて英…

かきあげ家族(中島たい子)

B級コメディ映画ばかり撮り続けてきた老映画監督の中井戸八郎は、最近では仕事のオファーにも見放された状態。元女優の妻がチョイ役で現役復帰を試みているのはともかく、長男は家族に無断で仕事を辞め、次男はひきこもったままで、性転換して女性になった…

仏像破壊の日本史(古川順弘)

まずは冒頭に収められた数枚の写真が衝撃的です。阿修羅像や無著・世親像などの国宝級の仏像群が留置場に転用されて荒れ果てた興福寺中金堂の床に乱雑に配置された写真。首を落とされた仏像が積み重ねられた興福寺東金堂の写真。明治維新という政治的・社会…

アウグストゥス(ジョン・ウィリアムズ)

1972年に出版された本書は、生涯に4冊の小説しか創作しなかった著者の最後の小説であり、翌年に全米図書賞を受賞しています。しかし当時の売れ行きは鈍かったようで、邦訳されたのはなんと2020年になってから。第3作の『ストーナー』が再評価され…

江戸の夢びらき(松井今朝子)

1600年頃の慶長時代に出雲阿国が始めたとされる「かぶき踊」が、江戸初期の「遊女歌舞伎」や「若衆歌舞伎」を経て、演劇を中心とする現代の姿に近いものにまで発展したのは、元禄時代を中心とする17世紀後半のこと。歌舞伎興行を許された江戸四座もこ…

陽暉楼(宮尾登美子)

自らの幼少期をモデルにしたデビュー作『櫂』に続く第2作は、やはり生い立ちと関係が深かった実在の土佐の遊郭の芸妓を主人公とする作品でした。 ストーリーはシンプルです。12歳の時に親に売られて芸の世界に身を置くことになった桃若こと房子が、土佐で…

偉大なる時のモザイク(カルミネ・アバーテ)

15世紀にオスマントルコの支配を逃れてイタリアに移住したアルバニア人が創った村が、イタリアの南方には点在しているとのこと。これらの土地では現在でも、古アルバニア語に近いアルバレシュという言語が話され、ギリシャ正教の影響を受けた独自の文化や…

カント・アンジェリコ(高野史緒)

デビュー作『ムジカ・マキーナ』で「音楽スチームパンク」という新しい地平を切り開いた著者の第2作は、やはり音楽をテーマとする歴史改変SFでした。 ルイ14世の治世も末期を迎えた1710年代のパリ。極彩色の電飾で光り輝くルーブル宮。真空管と電話…

流人道中記(浅田次郎)

7年前の『一路』と同様、19歳の新米武士が初任務として旅路に臨むロードストーリー。『一路』の小野寺一路は真冬の中山道を江戸に向かう参勤道中を仕切るはめに陥りましたが、本書の新米与力・石川乙次郎は夏の奥州街道を、終点の津軽・三厩まで罪人を押…

密林の夢(アン・パチェット)

ペルーの日本大使館人質事件を題材にとって、死にゆく少年ゲリラたちに寄り添った『ベルカント』の著者の第6長編とのことですが、日本での翻訳はまだ2作。もっと紹介して欲しい作家のひとりです。 本書はアマゾンの奥地でひとりの女性が再生する物語。アメ…

レンブラントの身震い(マーカス・デュ・ソートイ)

イギリス王立協会フェローとして啓蒙活動に熱心な数学者である著者が、素数論(『素数の音楽』)、群論(『シンメトリーの地図帳』)、知の最前線(『知の果てへの旅』)に次いでテーマにあげたのは、AI進化の最前線でした。深層学習によってボトムアップ…

うどんキツネつきの(高山羽根子)

本書のタイトル作品が2009年に第1回創元SF短編賞を受賞したことも、2020年には『首里の馬』で芥川賞を受賞した作家ということも知ってはいましたが、このタイトルに引いてしまっていました。1月にEテレで放送された「第2回世界SF作家会議」で…