りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アカシアは花咲く(デボラ・フォーゲル)

あらゆる意味でマイノリティ小説家であった著者が知られるようになったのは、2000年代に入ってからのことだそうです。彼女が1942年にナチスのユダヤ人ゲットーで射殺されてから60年以上もたってからのこと。 彼女のマイノリティ性は比類がありませ…

金木犀とメテオラ(安壇美緒)

「少女たちの挫折と成長と友情の物語」などと評してしまうとありきたりに思えますが、優れた作品は読者の心に響くのです。少女たちの内面に深く迫ることができるのかがポイントなのでしょう。 12歳の春。2年前に母親を亡くして娘の成長や教育に無関心な父…

2022/11 Best 3

1.走る赤(武甜静 ウー・テンジン編) 現在最前線で活躍している中国の女性SF作家14人の傑作短篇集です。VR世界を疾走する昏睡状態の少女。人類の科学発展を見守るネコ族。異種族コンビによるSF「西遊記」。架空言語研究者の母を持つ少年の「母語…

心淋し川(西條奈加)

日本ファンタジー大賞を受賞した破天荒な物語『金春屋ゴメス』でデビューした著者は、本格時代小説の書き手として大成するに至りました。谷根千あたりのうら寂しい長屋を舞台とする連作小説である本書は、2020年下半期の直木賞受賞作です。人生という川…

春秋山伏記(藤沢周平)

著者の故郷であり、多くの作品の舞台である海坂藩の舞台でもある鶴岡に旅行して「藤沢周平記念館」を訪問したこともあり、未読であった本書を手に取ってみました。本書ともかかわりの深い羽黒山にも行ってきましたので。 本書の舞台は、鶴岡市街の南方で庄内…

少女を埋める(桜庭一樹)

2021年から2022年にかけての「現在」における著者の体験を基に書かれた、自伝的要素を多分に含む小説は、著者の原点を実感させてくれる作品でした。 2021年2月、小説家の冬子は、7年ぶりに声を聞く母の電話で父の危篤を知らされます。父の最期…

ザルツブルクの小枝(大岡昇平)

太平洋戦争時にフィリピンで俘虜となった体験を基にした『俘虜記』や『野火』で文学賞を受賞した著者が、1953年にロックフェラー財団の奨学金を得て1年間欧米を見聞した際の旅行記です。この時著者は44歳。俘虜生活で身に着けた英語や、京都大学で学…

走る赤(武甜静 ウー・テンジン)編

最近、中国SFの沼に嵌まっています。本書は「現在最前線で活躍している中国の女性SF作家14人の傑作短篇集」なのですが、なぜわざわざ「女性」と銘打ったのかについては、少々違和感がありました。ただしこれは既に40%近い中国SF作家の男女比を意…

獅子の門8 鬼神編(夢枕獏)

格闘家世界一を決定する総合格闘技大会において命懸けの死闘が繰り広げられ、一人、また一人と、選手たちがリングに身を沈めていきます。麻生も、マリオも、ヒョードルも、赤石も、室戸も、岩神も姿を消していく中で、最後に勝ち残ったのは誰だったのでしょ…

獅子の門7 人狼編(夢枕獏)

新たな総合格闘技大会の開催が決定。NKトーナメントで優勝した武林館の麻生や、若手の大会で優勝した室戸武志、ブラジリアン柔術の第一人者マリオに敗れて武者修行を繰り返してきたプロレスラーの赤石元一らの出場は決定していますが、それを不服とする鳴…

獅子の門6 雲竜編(夢枕獏)

「スーパーバイオレンス格闘小説」の第6巻では、若手格闘家たちが結集した武林館トーナメントが、佳境に入っていきます。武林館期待の若手・加倉文平を倒した巨漢・室戸武志と決勝戦を戦うことになるのは、刃物のような志村礼二と、無尽蔵のスタミナを有す…

竹光始末(藤沢周平)

著者初期の時代小説6作からなる短編集の内訳は、武家ものが4作と市井ものが2作。武家もののうちの2作の舞台が海坂藩であり、表題作は映画「「たそがれ清兵衛」にも使われたエピソードです。鶴岡市に行く機会があったので直前に読んだのですが、あまり参…

まっとうな人生(絲山秋子)

塩野七海さんの「小説イタリアルネサンス」の28年後の続編にも驚きましたが、本書にも驚きました。著者初期の傑作『逃亡くそたわけ』の17年ぶりの続編なのです。 かつて名古屋出身の「なごやん」と一緒に精神病院を脱走し、九州を縦断する逃走劇を繰り広…

小説イタリア・ルネサンス4.再び、ヴェネツィア(塩野七生)

まさか1990年前後に出版された「小説イタリア・ルネサンス3部作」の続編が、30年近くたってから書かれるとは思ってもいませんでした。しかも『ローマ人の物語』以降は歴史ノンフィクションばかり執筆してきた著者の年齢は、80歳を大きく超えている…

小説イタリア・ルネサンス3.黄金のローマ(塩野七生)

16世紀ヴェネティアの青年外交官マルコ・ダンドロを主人公とするシリーズ第3作の舞台がローマとなるのは当然ですね。ルネッサンスの文人でもあった教皇パウルス3世が、ミケランジェロに命じてシスティーナ礼拝堂に「最後の審判」を描かせ、カンピドリオ…

小説イタリア・ルネサンス2.銀色のフィレンツェ(塩野七生)

16世紀ヴェネティアの青年外交官マルコ・ダンドロを主人公とするシリーズ第2作の舞台は、フィレンツェへと移ります。ローマの女スパイであったオリンピアとの関係を問題にされて、3年間の公職追放処分となったマルコは、そこでメディチ家内部の暗闘に巻…

小説イタリア・ルネサンス1.緋色のヴェネツィア(塩野七生)

著者が『海の都の物語』や『東地中海三部作』に続いて1990年前後に著したのが、本書にはじまる「小説イタリア・ルネサンス」シリーズです。長らく3部作でしたが、2020年に第4部となる『再び、ヴェネツィア』が書下ろし新作として出版されたのを機…

興亡の世界史12.インカとスペイン帝国の交錯(青柳正規編/網野徹哉著)

インカというと、中世期におけるアンデスの支配者であり、スペインによって征服された先住民族王朝とのイメージが一般的でしょう。しかし文字を有さなかったインカの歴史は、征服者であったスペインのみならず、被征服者であったインカの末裔によっても創作…

中国・アメリカ謎SF(柴田元幸・小島敬太/編訳)

近年盛況である中国SF界は、ケン・リュウ、劉慈欣、郝景芳などのスター作家を生み出しましたが、その裾野は広く、多くの「無名作家」による謎めいた作品も数多く生み出されているとのこと。そしてこれらの「謎SF」の中には、本格SFを凌駕する作品もあ…

京都伏見のあやかし甘味帖 7(柏てん)

30歳を前にして仕事も婚約者も失い、京都伏見で人生休憩中だった小薄れんげ。民泊の家主であった8歳年下の虎太郎と、晴れて恋人同士という関係になったものの、まだ気持ちも暮らしも落ち着きません。大学卒業を控えた虎太郎はデパートの甘味バイヤーを目…

興亡の世界史11.東南アジア多文明世界の発見(青柳正規編/石澤良昭著)

「東南アジア」という名称は19世紀前半になってから生まれたものだそうです。それまでひとつの地理区分として認知されていなかったのは、東南アジアの各地が、それぞれ異なる世界の辺境だったからなのでしょう。中国に接するベトナムは「華南以南」であり…

大丈夫な人(カン・ファギル)

訳者の後書きの冒頭に「女性の日常はスリラーである」という読者の声が紹介されています。平凡な暮らしが突然にして暴力的な世界に変わってしまう恐怖感。そして加害者は愛する者なのかもしれないのです。韓国のフェミニズム小説ですが、このような事件は日…

マルドゥック・アノニマス 7(冲方丁)

シリーズの舞台となっている「マルドゥック・シティ」の地図がついています。さまざまな勢力の抗争が複雑になってきたことが理由でしょう。地区の配置はかなり異なっているのですが、イメージはニューヨークですね。 冒頭いきなり葬儀の場面です。バロットと…

中国・SF・革命(ケン・リュウほか)

近年になって躍進著しい中国SFですが、本書はいわゆる「中華圏SF」のアンソロジーです。ケン・リュウ、郝景芳(ハオ・ジンファン)、閻連科(エン・レンカ)らの中国作家のみならず、イーユン・リーなどの中国系アメリカ人作家の作品や、中国を題材にし…

ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし(エステルハージ・ペーテル)

著者は、ハンガリーの名門大貴族エステルナージ家の末裔だそうです。ハプスブルク家に忠誠を近いことで地位と財産を築いたエステルナージ家は数多くの著名人を輩出し、著者の祖父はハンガリーの首相を務めた人物だとのこと。共産主義政権下では差別や迫害を…

興亡の世界史9.モンゴル帝国と長いその後(青柳正規編/杉山正明著)

16世紀の「大航海時代」に先立つこと250年、13世紀に中華から東ヨーロッパに至るユーラシア大陸の大半を緩やかに統合した「大モンゴル国」は、史上はじめて「世界統一」をはたした国家でした。それまで互いに意識する必要もなかった東アジアとヨーロ…

逆ソクラテス(伊坂幸太郎)

著者は「子供を主人公とする小説は難しい」と述べています。子供を語り手とすることで使える言葉や表現に限界があるうえに、懐古的・教訓的・綺麗事に引き寄せられがちだというのです。著者自身の中にいる夢想家とリアリストのどちらも満足させる「少年たち…

リボルバー(原田マハ)

パリ大学で美術史の修士号を取得した高遠冴は、パリの小さなオークション会社に勤務する傍ら、ゴッホとゴーギャンをテーマに博士論文を執筆中。日頃は二流以下の出品物しか扱えない会社に、ある日錆びついた一丁のリボルバーが持ち込まれてきます。持ち主の…

2022/10 Best 3

1.夏(アリ・スミス) イギリスのEU離脱を契機に書き始められた「四季シリーズ」が、本書で完結。既刊3冊『秋』、『冬』、『春』は独立して読める小説ですが、本書では人物の再登場があり、残されていた4作すべてに登場する100歳の老人ダニエルが夢…

キンドレッド(オクテイヴィア・E・バトラー)

1979年に書かれた作品ですが、今なおリアリティを失ってはいません。物語はタイムスリップというSFファンタジー形式をとっていますが、根底にあるのは現在に至るまで解決していない人種差別問題です。 1976年当時の「現代」、カリフォルニアで白人…