りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

2020/10 Best 3

現代中国の小村、戦後のスペイン・バスク地方、19世紀の英国、平安時代の日本と、異なる時代の異なる国々を描いた作品が上位に並びました。どれも社会問題に鋭く切り込みつつ、ストーリー展開も楽しめる作品です。小説世界ではベルリンにも、スウェーデン…

逃亡小説集(吉田修一)

タイトル通りに「逃亡」をテーマとする4作の短篇を治めた小説集です。逃亡した先には破滅しか待っていないことがわかっていても、人はなぜ逃亡するのでしょう。 「逃げろ九州男児」 職を失い、年老いた母を抱えて途方に暮れる男は、生活保護を申請。市役所…

ベルリンは晴れているか(深緑野分)

1945年7月。ナチス・ドイツが戦争に敗れて4カ国統治下におかれたベルリンでは、英米ソの3首脳が集まって第二次世界大戦の戦後処理を決定するためのポツダム会談が開かれようとしていました。既にソ連と西側諸国の対立は鮮明であり、緊張感が高まる中…

サークル・ゲーム(マーガレット・アトウッド)

自分でいうのもなんですが、読書速度は速いほうだと思います。それと関係があるのかどうか、一語一語をじっくり味わうことが求められる「詩」は比較的苦手なのですが、現在ではカナダ文学界の巨匠となっている著者のデビュー作である本詩集は、後の作品との…

風かおる(葉室麟)

福岡黒田藩において将来を嘱望されていた佐十郎の人生は、10年前に大きく変わってしまいました。妻が不義を働いて駆け落ちしたことで、藩籍を離れて妻敵討ちの旅に出ることになってしまったのです。それが全て奸計であったと知った佐十郎は、真の敵と果し…

カブールの園(宮内悠介)

言語を介さないとコミュニケーションは成り立たないものなのでしょうか。本書に収録されている2編の中編はどちらもアメリカを舞台にしており、日系人と言語の問題が取り扱われています。そしてそこには、4歳から12歳までニューヨークで暮らしたという著…

うさぎ通り丸亀不動産(堀川アサコ)

うさぎ通り商店街の老舗「丸亀不動産」のただ1人の社員である美波は、「視えるひと」でした。「鬼平」と呼ばれる女社長の二瓶が、可愛らしい容姿をしているものの全く仕事ができない美波を雇っている理由はただひとつ。幽霊が出るという事故物件に送り込ん…

アコーディオン弾きの息子(ベルナルド・アチャガ)

スペインのバスク地方と言うと、内戦時代のゲルニカ無差別爆撃や近年まで続いた独立武装紛争のイメージが強く、地域全体が「反フランコ・反スペイン」という印象を持ってしまいます。しかしそこには多種多様な主義主張が入り乱れているのです。「クレスト・…

ミレニアム6 死すべき女(ダヴィド・ラーゲルクランツ)

スウェーデンが生んだ世界的ヒット作『ミレニアム3部作』の著者スティーグ・ラーソンの死後、新たな3部作を書き継いだ著者による「新3部作」が完了。新シリーズでリスベットの敵役を務めた、邪悪な双子の妹カミラとの死闘にもついに決着が付けられます。…

新しい人生(オルハン・パムク)

トルコ初のノーベル文学賞受賞者である著者が1994年に発表した第5長編である本書は、トルコでは社会現象となったほど爆発的に売れたとのこと。ちょっと初期の村上春樹作品に似た雰囲気も感じますが、本書は決してわかりやすい作品ではありません。タイ…

約束された移動(小川洋子)

街の片隅でつましく生きている人々も、豊穣で魔術的な人生を楽しんでいるのかもしれません。著者独特の静謐な物語世界が詰まった作品です。 「約束された移動」 ホテルのロイヤルスイートを担当する客室係の女性は、有名なハリウッド俳優が滞在するたびにリ…

アルジェリア、シャラ通りの小さな書店(カウテル・アディミ)

1936年のアルジェで、21歳の若さで書店兼出版社を開き、その後30年以上にわたって多くの優れた文学書を世に出した出版人とはどのような人物なのでしょう。アルジェリア出身でパリ在住の若い女性作家が、エドモン・シャルロという一般にはあまり知ら…

絡新婦の理(京極夏彦)

著者の「百句夜行シリーズ」を読むのは3冊目。多重人格者が犯人であった『姑獲鳥の夏』は良かったのですが、猟奇的な『魍魎の匣』を読んで嫌になってしまったのです。久しぶりに手に取ってみたのは、ライトバージョンである「今昔百鬼拾遺シリーズ」が面白…

後藤さんのこと(円城塔)

『オブ・ザ・ベースボール』に続く第2短編集である本書では、時間についてのさまざまな考察を主題にしているようです。ただし超絶技巧を用いた言語遊戯がいきすぎて、悪ふざけにしか思えない作品もあるのです。 「後藤さんのこと」 粒子でも波動でもあり、…

業平(高樹のぶ子)

在原業平の一代記と言われる『伊勢物語』は、きちんと体系だった業平の物語というわけではありません。数年前に新訳を起こした川上弘美さんも「全体を読むと、これは確かに一人の「男」の人生なのだと感じられる」と述べている程度。著者は本書を書くに際し…

光と風と夢・わが西遊記(中島敦)

タイトル作の「光と風と夢」は、サモアに移り住んだ『宝島』の作者スティーヴンスンの晩年を、書簡をもとに日記体で再生させた作品です。当初は「ツシタラの死」というタイトルで発表された作品であり、ツシタラとはサモア語で「物語の語り手」という意味だ…

チンギス紀 6(北方謙三)

タタールが金国から離反したことで、これまで金と西遼それぞれの北方政策に操られてきた草原のパワーバランスに変化が訪れます。金に与すると宣言したチンギスとケレイトの助力で、タタールは完膚なきまでに叩きのめされます。金から王の名称を下賜されたト…

チンギス紀 5(北方謙三)

ようやくタイチウト氏族との決戦に臨んだチンギス。兵力の上では3500騎対1万5000騎と劣勢ですが、鉄製のひじりによって飛距離の延びた矢、豊富な替え馬による速さの確保、新編成によって集散自在な百人隊などの事前準備によって、軍としての質が根…

今昔百鬼拾遺 天狗(京極夏彦)

「百鬼夜行シリーズ」のライトバージョンで、本編の主人公である京極堂こと中禅寺秋彦の妹の敦子が、女子高生の呉美由紀をバディ役として活躍する「井今昔百鬼拾遺シリーズ」の第3弾です。 挨拶に訪れた薔薇十字探偵社で美由紀が出会ったのは、失踪人捜索の…

今昔百鬼拾遺 河童(京極夏彦)

「百鬼夜行シリーズ」のライトバージョンで、本編の主人公である京極堂こと中禅寺秋彦の妹の敦子が、女子高生の呉美由紀をバディ役として活躍する「井今昔百鬼拾遺シリーズ」の第2弾です。 浅草界隈で横行する男性を狙った覗き魔事件は、河童が狙う尻子玉と…

今昔百鬼拾遺 鬼(京極夏彦)

著者のビカレスクロマンである「巷説百物語シリーズ」は大好きなのですが、猟奇的な事件を扱う「百鬼夜行シリーズ」は苦手で、今まで数冊しか読んでいませんでした。今般新たに3つの異なる出版社からほぼ同時に発売された「今昔百鬼拾遺シリーズ」は、京極…

べらぼうくん(万城目学)

著者は、「おもしろいエッセイとは人がうまくいっていない話について書かれたもの」という価値観を持っているとのこと。出版社からエッセイ連載を依頼され、「作家としてそこそこうまくいっている日常」をおくっているという著者が思いついたのは「青春期」…

ジェーン・スティールの告白(リンジー・フェイ)

19世紀の英文学を代表する『ジェーン・エア』は、恵まれない少女時代を過ごした孤児が、家庭教師として雇われた屋敷の主と紆余曲折の末に結ばれる物語です。かなり地味なヒロインですが、当時としては自立した女性像を描いたものとして頑迷な男尊主義者か…

定家明月記私抄 続編(堀田善衞)

出世が遅れていた定家ですが、50歳を過ぎてようやく公卿に相当する正三位に昇格。もっとも歌人としての業績を認められたからではなく、姉の九条尼が当時権勢を誇っていた藤原兼子に荘園を寄贈するなどの猟官運動の成果であるので、あまり威張れたものでは…

定家明月記私抄(堀田善衞)

『明月記』とは、新古今和歌集」や「小倉百人一首」の撰者として高名な藤原定家はが記した日記のこと。著者は、戦時中にこれを読んで「紅旗征戎我が事に非ず」の一文に愕然としたそうです。1162年から1241年にかけての定家の生涯は、源平合戦から承…

丁庄の夢(閻連科 エン・レンカ)

中国河南省の小村である丁庄村は死の匂いに満ちていました。10年前に政府の売血政策に乗って富を得ようとした結果、不衛生な採血によってエイズが蔓延してしまったのです。村人たちがひとりひとり、木の葉が風でハラリと落ちるように、灯が消えるように死…