りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2013-12-01から1ヶ月間の記事一覧

2013 My Best Books

今年も最後に、1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみようと思います。 長編小説部門(海外) エコー・メイカー(リチャード・パワーズ) 最近の著者が描く人間心理は、大脳生理学研究の進展と真っ向から向き合っているようです。著者が提示する文学的な…

2013/12 六条御息所源氏がたり(林真理子)

小説というものの幅の広さを改めて感じさせられました。『源氏物語』から『屍者の帝国』までが、「小説」というひとつのジャンルに入っているのですから。森鴎外の名作を生んだ史実を追う六草さんの労作ですら、一種の「小説」のように思えてきます。ミラン…

サエズリ図書館のワルツさん 2(紅玉いづき)

シリーズ第2巻は、就職活動に全敗して自身を失い、「サエズリ図書館」にボランティアとして飛び込んできたチドリさんが、彼女にとっての天職を見出すまでの物語が中心となっています。 それは「図書修復師」。図書館の特別探索司書であるワルツさんの父親と…

サエズリ図書館のワルツさん 1(紅玉いづき)

電子書籍の普及だけでなく、厳しく変化した社会情勢の中で、「紙の本」が絶滅寸前になっている未来の世界。そんな中で奇跡的に膨大な「紙の本」を所蔵して、無償で普通に貸し出している「サエズリ図書館」と「特別探索司書のワルツさん」を中心にした物語。…

三月(大島真寿美)

短大を卒業してから20年。40代となった6人の女性たちが旧交を温めあう物語は、人生において大切なものの存在を浮かび上がらせてくれるようです。それは、3.11の大災害を背景としているからだけではありません。著者が大切に思っていることが丁寧に…

ヘミングウェイの妻(ポーラ・マクレイン)

原題は『パリの妻』。生涯4人の妻をもった作家ヘミングウェイと最初の妻ハドリーのパリでの日々を、遺作となった『移動祝祭日』に基づきつつも、妻の視点から再構築したノンフィクション小説です。 心身ともに傷を負って第1次大戦から帰国した21歳のヘミ…

屍者の帝国(伊藤計劃/円城塔)

2009年に34歳の若さで亡くなった伊藤計劃の遺したプロローグを、円城塔が引き継いで完成させた小説は、「奇書」の名にふさわしい大作です。 本書における19世紀末は一種の「スチームパンク世界」です。蒸気を動力としたディファレンス・エンジンによ…

十二国記 8.丕緒の鳥(小野不由美)

このシリーズの枠組みは既に、古代中国思想をベースとしてかっちりと決められています。図案のような地図、麒麟によって見出される国王、胎果がもたらす生命、昇仙して不死となる国王や役人、国王の不在や為政の乱れが引き起こす災害・・。まるで箱庭のよう…

ルパン、最後の恋(モーリス・ルブラン)

ルブラン没後70年にして発見された未発表の遺稿が、2012年に出版されたのが本書です。物語は完結しているが推敲不足であることや、他の作品との齟齬が見られること(ルパンの年齢など)が指摘されていますが、ファンとしては純粋に楽しみましょう。 ル…

岳飛伝 4(北方謙三)

この巻は、梁山泊と講和して30万の大軍で南進を開始した金軍と、岳飛軍との戦闘が大半を占めています。ともに楊令に敗れたことでひとまわり成長した兀朮(ウジュ)と岳飛の戦いは壮絶ですが、対騎馬戦の新兵器である長刀を備えた岳飛が金軍を押し返します…

ぼくのともだち(エマニュエル・ボーヴ)

1924年の作品ですから、第一次大戦後のパリ。戦争で負傷して傷痍軍人年金で暮らしている主人公のヴィクトール・バトンには友人がいません。「孤独がぼくを押し潰す」と感じて「ともだちのためには、自分のすべてを投げ出してもいい」とまで思い、日々街…

それからのエリス(六草いちか)

前作『鴎外の恋 舞姫エリスの真実』で『舞姫』のヒロインの氏名、生誕地、職業などを、公的記録からつきとめた著者が、鴎外と別れてからのエリス(本名:エリーゼ・マリー・カロリーネ・ヴィーゲルト)の後半生をたどります。 鴎外を追って来日したものの帰…

日曜日のピッチ(ジム・ホワイト)

「父と子のフットボール物語」との副題がついた本書は、イギリスでスポーツライターといて活躍している著者が、地域の少年サッカーチームの監督としての活動を描いたノンフィクション的な作品です。 息子が参加しているサッカー・クラブに顔を出していただけ…

路(ルウ)吉田修一

商社入社4年目の多田春香の視点を中心に据えて、台湾新幹線の受注から開業までの7年間を描いた作品ですが、「プロジェクトX」のような本格企業小説ではありません。商社員、台湾生れの老人、建築家、車両整備員など多くの者の人生ドラマを通じて、日本と…

火星ダークバラード(上田早夕里)

小松左京賞を受賞した、著者の初長編SFです。火星治安管理局の水島は、凶悪犯を列車で護送中に奇妙な現象に巻き込まれて意識を失います。その間に同僚は射殺され、犯人は逃走。上層部の妨害と脅迫をかえりみず単独捜査を開始した水島は、不思議な少女アデ…

リリエンタールの末裔(上田早夕里)

「バイオSF」のイメージが強い著者ですが、文学的な香りを漂わせた作品になっています。もちろんどれも、ジャンル分けするとSFとされてしまうのでしょうが、科学技術の進歩が人と社会にもたらす影響を丁寧に描いた作品集です。 「リリエンタールの末裔」…

ケルベロスの肖像(海道尊)

「バチスタシリーズ完結編」とのことで、田口・白鳥のみならずこれまで登場した人物が多く出演。東城大学医学部付属病院と桜宮病院の30年に渡る確執に決着がつくと同時に、著者の主張である「死亡時画像診断(AI)」の普及を確信するようなエンディング…

シャーロック・ホームズ アメリカの冒険(ローレン・D.エスルマン他)

「シャーロック・ホームズ」パスティーシュですが、全て19世紀末のアメリカを舞台とした作品になっています。一番の問題は、「正典」の隙間をついてホームズのアメリカ訪問の時間を作ることですね。やはり『緋色の研究』の直後か、モリアーティと相打ちと…

カーテン(ミラン・クンデラ)

ミラン・クンデラの「小説論」ですが、これはなかなか手厳しい。世界の予備解釈である「カーテン」を引き裂いて、人間の本質と不可分の喜劇性や未知の実存や謎を明るみに出すのが小説家のモラルだというのです。つまり、人生という散文を欺瞞的に覆い隠して…

魚舟・獣舟(上田早夕里)

『華竜の宮』で2010年度の日本SF大賞を受賞した著者の短編集です。 「魚舟・獣船」 『華竜の宮』に先立って同書の世界観を形作った短編です。世界の大半が海に沈んだ未来世界で生き延びるべく遺伝子改良された海洋民は、魚舟と呼ばれる巨大な魚の背中…

豆腐小僧双六道中おやすみ(京極夏彦)

『豆腐小僧双六道中ふりだし』の続編にあたります。まずは、豆腐をイメージさせる正方形の装丁が嬉しいですね。 妖怪とは「人間の想念が拵えた非存在の概念にすぎない」はずなのに、豆腐小僧はなぜ消えないのか。それを疑問に思い続ける滑稽達磨と化け猫の三…

都市と都市(チャイナ・ミエヴィル)

東欧の架空の都市国家「ベジェル」と「ウル・コーマ」を舞台にしたミステリ仕立ての小説ですが、この2つの都市の関係こそが本書のテーマそのものです。2つの都市は地理的にほぼ同じ場所にあって入り組んだ境界を持ち、たとえば隣人が異国人だったりしてい…

六条御息所源氏がたり3.空の章(林真理子)

光源氏の生涯も「若菜」を境にして、ついに下り坂に入っていきます。皮肉なことに、朱雀院の娘である女三の宮の降嫁という「頂点」が「下降」の始まりでした。あまりにも幼稚な皇女に失望したものの、正妻の座を追われた紫の上の落胆と失望はもう取り返せま…

六条御息所源氏がたり2.華の章(林真理子)

20代後半の光源氏が失脚した原因は、艶やかで奔放なイケイケ・ガールの朧月夜との不倫でした。彼女は、アンチ光源氏の筆頭である右大臣が入内させようとしていた愛娘だったのです。でも自ら謹慎した先の須磨・明石で地元の女性と関係を持ってしまうのです…

六条御息所源氏がたり1.光の章(林真理子)

「私の名を、どうか聞いてくださいますな」と語り始めたのは六条御息所です。林真理子版の源氏物語が幕を開けます。ダメ男に厳しく、不倫女にはもっと厳しく、嫉妬の感情を書かせたら天下一品の林さんが、光源氏をどう描くのか。嫉妬心から生霊にまでなった…

カエサルを撃て(佐藤賢一)

紀元前52年に起きたガリア反乱を題材とした作品です。現存する唯一の資料である『ガリア戦記』を「勝者の記録」として退け、ガリア総督のカエサルと反乱者ウェルキンゲトリクスを対称的な人物として描き分け、2人の指導者の人間性の対決として史実を再構…