りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2024-03-01から1ヶ月間の記事一覧

2024/3 Best 3

1.チンギス紀 17(北方謙三) 著者渾身のライフワークである「大水滸シリーズ」がついに完結。「水滸伝19巻」、「楊令伝15巻」、「岳飛伝17巻」に続く「チンギス紀17巻」ですから、全部で68巻。気の遠くなるようなページ数です。著者は直木賞…

狐花火(今村翔吾)

江代中期の火消たちの活躍を描く「羽州ぼろ鳶組シリーズ」第7巻は、過去の忌まわしい事件の記憶が蘇ってくる物語。バックドラフト、粉塵爆発、ガス火災、自然発火などの悪魔的な仕掛けを用いた連続放火事件の手口は、2年前に愛娘と愛妻を失った悲しみから…

赦しへの四つの道(ル=グィン)

まさか2018年に亡くなったル=グィンさんの新訳、しかも1960年代から70年代にかけて綴られた「ハイニッシュ・ユニバース・シリーズ」の続編を読むことができるとは思ってもいませんでした。本書に収録さえているのは1990年代に書かれた4作であ…

ドゥルガーの島(篠田節子)

大手ゼネコン勤務の加茂川一正は、ダイビングのために訪れたインドネシアの小島で海中に聳え立つ仏塔を発見します。まるでボロブドゥールのストゥーパのような仏塔は、11世紀にアラビア人が島に上陸する前の文明の遺物なのでしょうか。かつてボロブドゥー…

しゃばけ22 いつまで(畠中恵)

「しゃばけシリーズ」の第22作は、17年ぶりとなる長編でした。前巻で登場した一太郎の新たな主治医・火幻の正体が明らかになります。彼は平安時代の葬送地であった鳥辺野で焚死した僧の亡霊だったのですね。通常、妖とは生まれ出た土地に縛られるものな…

しゃばけ21 こいごころ(畠中恵)

このシリーズも第21巻となりました。開始直後のマンネリは、命に限りある者たちの生死観を深く掘り下げることで回避しましたが、再び停滞気味に感じているのは私だけでしょうか。もっともこれだけ続くと「偉大なるマンネリ」の域に近づいているのかもしれ…

大仏ホテルの幽霊(カン・ファギル)

名門幼稚園に渦巻く階級意識と悪意を描いた短編「ニコラ幼稚園(短編集『大丈夫な人』収録」の執筆に取り掛かったものの1行も書けなくなった著者が、母の親友の故郷・仁川で感じた女性の霊とは何だったのでしょう。そこは日本占領時代に建てられた西洋式「…

播磨国妖綺譚(上田早夕里)

『華竜の宮』や『ブラック・アゲート』などのハードSFでデビューした著者ですが、近年はジャンルにこだわらずさまざまな分野の作品を書くようになっています。本書は室町時代の陰陽師の兄弟を主人公に据えた、完成度の高い作品です。著者もこの作品が気に…

思い出すこと(ジュンパ・ラヒリ)

コルカタ出身の両親のもとでロンドンで生まれ、アメリカで育って英語で小説を書いていた著者が、ローマに移住してイタリア語で作品を書き始めた時には驚きました。エッセイ『べつの言葉で』と長編小説『わたしのいるところ』に続く3作目のイタリア語作品で…

最後のライオニ(キム・チョヨプほか)

コロナ禍の出口が見えなかった2020年9月に出版された本書は、ずばりバンデミックをテーマとする韓国SF作家たちの競作です。 「最後のライオニ(キム・チョヨプ)」 人類が感染症で絶滅して機械が支配する惑星の探査を命じられた女性は、なぜか彼女を…

マイ・シスター、シリアルキラー(オインカン・ブレイスウェイト)

ナイジェリアの若い女性作家によるかなり危ないミステリは、私たちがナイジェリアという国に抱くイメージを軽々と覆してくれました。首都ラゴスのアッパーミドル階級に属する若い姉妹は、最新流行のファッションをまとってパーティに興じ、SNSで見栄を張…

チンギス紀 17(北方謙三)

著者渾身のライフワークである「大水滸シリーズ」がついに完結。「水滸伝19巻」、「楊令伝15巻」、「岳飛伝17巻」に続く「チンギス紀17巻」ですから、全部で68巻。気の遠くなるようなページ数です。著者は直木賞選考委員を退任した際に「最後の長…

チンギス紀 16(北方謙三)

ホラズム国との戦闘が終わろうとしています。大軍を率いた国王アラーウッディーンはカラ・クム砂漠で大敗を喫し、カスピ海の孤島で無念の死を迎えます。精強な傭兵軍を率いたトルケン太后も囚われて力を失いました。後継者となった皇子ジャラールッディーン…

僕は、そして僕たちはどう生きるか(梨木香歩)

昨年ジブリ映画のタイトルとなって注目された『君たちはどう生きるか(吉野源三郎)』へのオマージュとして、2007年から2009年にかけて連載された作品です。 日中戦争の最中に書かれた吉野源三郎作品の主人公と同様に、コペルニクスにちなんで「コペ…

その丘が黄金ならば(C・パム・ジャン)

19世紀後半、ゴールドラッシュが終わった後のアメリカ西部で、両親を失った後に安住の地を捜して旅をする中国系移民の姉妹の物語が、時代を超えた神話のように描かれていきます。時代設定は「xx62年」などとされ、「スウィートウォーター」という架空の…

李の花は散っても(深沢潮)

在日韓国人の家庭に生まれ、後に日本に帰化した著者の作品には、国家間の悲劇に抗いながら日韓融和を模索し続けた2人の女性の半生が描かれています。本書には「長く染み付いている男性中心の語りや価値観に少しでも抗いたい」という、著者の願いが込められ…

夢胡蝶(今村翔吾)

江代中期の火消たちの活躍を描く「羽州ぼろ鳶組シリーズ」の第6巻の舞台は吉原でした。吉原火消は「武家火消」でも「町火消」でもなく、各妓楼が抱えている「店火消」の集合体なんですね。妓楼が焼ければ廓外で無税の臨時営業ができるという「燃えれば儲か…

アンダードッグス(長浦京)

2021年1月期の直木賞候補となった国際アクションストーリーですが、その後の著者の作品と比較するとまだ洗練度が不足していたように感じました。当時の選考委員の選評にも「せわしない」とか「登場人物が多すぎる」とか「深みが読み取れない」とかの言…

ある犬の飼い主の一日(サンダー・コラールト)

人生に絶望しかけた中年男性が生きる喜びを取り戻していく1日をつぶさに描いた本書は、コロナ禍に見舞われたオランダで多くの人を慰めたベストセラーとなりました。 本好きの中年男ヘンクは、離婚して老犬スフルクと暮らすICUのベテラン看護師。ある朝、…

ガラム・マサラ(ラーフル・ライナ)

インドのデリーに生まれ育ち、現在はイギリスとインドの2拠点でビジネスや教師をしている著者のデビュー作です。『ぼくと1ルピーの神様(ヴィカス・スワラップ)』を彷彿とさせる、スラム街に生まれた少年が成功者として成りあがっていくジェットコースタ…