りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アンダードッグス(長浦京)

2021年1月期の直木賞候補となった国際アクションストーリーですが、その後の著者の作品と比較するとまだ洗練度が不足していたように感じました。当時の選考委員の選評にも「せわしない」とか「登場人物が多すぎる」とか「深みが読み取れない」とかの言葉が並びましたが、スケールが大きくスピード感は感じられます。

 

時代は1997年。主人公は官庁ぐるみの裏金作りのスケープゴートとされて全てを失った元官僚の古葉慶太。彼がイタリア人大富豪マッシモから突然スカウトを受けた計画とは、中国に返還される香港の銀行から運び出される重要書類を奪い取ること。そこにはアメリカ政府と財界が秘密裏に行ってきた不法行為が記録されており、彼らによって息子を自殺に追い込まれたマッシモの目的は復讐だというのです。しかし元官僚にすぎない古葉がなぜそんな計画に選ばれたのでしょう。しかも彼の役割は、国籍もバラバラな「負け犬チーム」のリーダーだというのです。「成功の鍵は計画を忠実に遂行することだ」とのマッシモの言葉は真実なのでしょうか。

 

やむなく計画に巻き込まれた古葉に、たちまち試練が襲いかかります。アメリカ、イギリス、ロシア、中国の諜報機関からも接触される中で、マッシモが計画遂行前に殺害されてしまうのです。しかもチームは4組もあり、どうやら古葉チームの役割は最後に全ての責任を被せられることのようです。さらにチームメンバーの中にも、各国の諜報機関と組んだ裏切り者が複数潜んでいる模様。もはや後に引くこともできなくなった古葉は、マッシモが遺した計画を捨て身で遂行するのですが・・。

 

思いもよらない敵や味方が登場しては入り乱れる中で、登場人物が次々と殺害されていきます。そんなハードアクションワールドの中で古葉が最後の勝利者となる展開には、さすがに荒唐無稽かな。2018年になって古葉の養女であった瑛美が、義父と自分自身の真の姿を「発見」する20年後の物語は美しいのですが、ラストもハッピーエンド過ぎるようです。

 

2024/3