りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2019-11-01から1ヶ月間の記事一覧

2019/11 Best 3

10月には今年2度目の引越しがあったため、読書量が減っています。今年春の長距離移動と比較すると、市内移動で済んだ今回はまだ楽だったのですが、新居内での片付け作業量は一緒ですね。それに加えて実家の水害。ごみ捨て作業が果てしなかった・・。そん…

ピュリティ(ジョナサン・フランゼン)

高額の奨学金ローンに苦しめられながら意に染まない仕事についている23歳の女性、ピップ・タイラーが本書の主人公。といっても彼女が中心になっているのは821ページの作品の中で30%程度。残りの70%は、彼女の出生と関わりがあった人物たちの物語…

ナイトフライヤー(ジョージ・R・R・マーティン)

近年になってアメリカで作品がTVドラマ化され、人気を博している著者ですが、1941年生まれで古参のSF作家です。本書は、ドラマ化された表題作を含め、いずれも1970年代に綴られた短編集。ホラー風味すら感じ取れるSF作品ですが、根底にはヒュ…

魔法使ひ(堀川アサコ)

戦後間もない青森市。焼野原からの復興に向かって人々が逞しく生き始めた町には「魔法使ひ」と呼ばれる不思議な人物がいたのです。闇市のバラックに住んで闇物資を運ぶ担ぎ屋ながら、金次第で死体や幽霊までも調達できるという「魔法使ひ」とは、どのような…

陰陽師 女蛇ノ巻(夢枕獏)

稀代の陰陽師・安倍晴明と心優しき笛の名手・源博雅の名コンビが活躍する「陰陽師シリーズ」は、本書で第16巻にあたるようです。初めのころは、悪役陰陽師の芦屋道満との対決や、博雅が鬼から名笛「葉二(はふはつ)」を入手するエピソードなどの動きもあ…

パレード(吉田修一)

都内の2LDKマンションで共同生活を営む4人の男女。息子を私立大へ進学させるために無理を重ねた両親を愛している21歳の学生の良介。人気俳優とつきあうために上京してきた23歳で無職の琴美。イラストレーターで雑貨店長で嫌味な女を自称する24歳…

秋霜(葉室麟)

豊後羽根藩シリーズの第4作にあたる本書は、前作『春雷』の直接の続編にあたります。かつて「鬼隼人」と呼ばれて苛烈な改革を断行し、死をもって藩主を諫めた前家老・多聞隼人にゆかりある人々に、またも災難が襲い掛かってきます。 前藩主に虫けらのように…

古典の細道(白洲正子)

独特の感性で古典を読み解き、ゆかりの地を歩き回った著者が、倭建命、在原業平、小野小町、建礼門院、平維盛、花山院、世阿弥、蝉丸、継体天皇、惟喬親王らの「正史に載らない姿」を描き出していきます。もちろん検証など不可能であり、むしろ創作に近い解…

回復する人間(ハンガン)

後書きで「この本はほかの読み方をすることが困難なほどはっきりしている。それは『傷と回復』だ」と評されています。痛みを抱えて絶望の淵でうずくまる人たちは、どのようにして一筋の光を見出していくのでしょう。アジア人初のマン・ブッカー国際賞を受賞…

まんまこと7 かわたれどき(畠中恵)

時が止まったような「しゃばけシリーズ」と異なり、こちらのシリーズではどんどん時間が流れていきます。神田町名主の跡取り息子の麻之助は、愛妻と娘を失った痛みから癒えつつあるようですが、ついに再婚話が登場。「噂」をテーマとする本書の6編の中でも…

チンギス紀 4(北方謙三)

それぞれ強大な隣国であるケレイトとメルキトの本格的な戦闘がついに始まりました。ケレイトのトオリル・カンに連なる娘を妻に迎えたジャムカは、テムジンとともにケレイト軍の先鋒を担い、メルキト軍に痛撃を与えます。しかし2人が戦場を去った後、ケレイ…

紅霞後宮物語 第9幕(雪村花菜)

中国史に関する豊富な知識をもとに書き著わされた軽妙なシリーズも、なんと9作目になりました。さらに本編開始前の「ヤング小玉編」にあたる『第0幕』も既に3作発行されているので、全部では12作。登場人物も増えてきたので、本巻からは人物紹介や相関…

アメリカの鱒釣り(リチャード・ブローティガン)

柴田元幸氏が「翻訳史上の革命的事件だった」と述べている、藤本和子訳が発刊されたのは、1975年のこと。しかし革命的なのは翻訳だけではありません。氏によれば「その後の村上春樹作品ですら、本書なくしては考えられない」というほどの歴史的名作なの…

三人屋(原田ひ香)

フランス語で「1日」という意味の「ル・ジュール」という店名なのに、街の人から「三人屋」と呼ばれているのには理由があります。この店は、朝はしっかり者の三女の朝日が営む喫茶店、昼は責任感の強い次女のまひるがを振るううどん屋、夜はセクシーな長女…

王様のためのホログラム(デイヴ・エガーズ)

サウジアラビア国王の名を冠した建設中の大都市にホログラム技術を売り込むために、アメリカのソフトウェア会社から送り込まれたアラン。自転車製造会社で敏腕営業マンだった彼の任務は、国王に対して直接プレゼンを行うこと。しかし国王の来訪予定は判明せ…

千里伝(仁木英之)

中国唐代。征東大将軍の高承簡と、もとは上半身は絶世の美女ながら下半身は猛禽という姿をしていた異類の母親・紅葉の間に生まれた少年・千里は、18歳になっても外見は幼児のままでした。しかしこの少年は、人類と異類のいずれを大地の支配者とするかを定…

赤い人(吉村昭)

明治14年、政府は石狩川上流に樺戸集治監の設置を決定し、終身懲役囚に赤い獄衣を着せて押送します。かくして地の果てにおける絶望的な監獄生活が開始させられました。夏は虻と蚊、冬は極寒に苦しめられる中で、まずは自らが収監される獄舎を建設。次いで…

五つ星をつけてよ(奥田亜希子)

等身大の人物の日常の中には、いかに多くの思いが込められているのでしょうか。日常生活を包んでいるフィルターが剥ぎ取られた時に、人は何を思うのでしょう。この著者の作品を初めて読みましたが、観察眼の鋭い方ですね。 「キャンディ・イン・ポケット」 …

イモータル(萩耿介)

インドで消息を絶った兄が残した「智慧の書」とはどのような力を宿していたのでしょう。物語は「智慧のの書」が誕生し、現代へと引き継がれてきた経緯に遡っていきます。 はじめにあったのはサンスクリット語で書かれたヒンドゥー語の根本経典『ウパニシャッ…

草を結びて環を銜えん(ケン・リュウ)

中国SF界に颯爽と現れた著者の第2短編集『母の記憶に』から7編を収録した作品です。従って全作品が既読だったのですが、新たな発見も多く予想外に楽しく読めました。 「烏蘇里羆(ウスリーヒグマ)」 1907年の満州。帝国陸軍の命で恐るべき巨大熊を捕…

宗教が往く(松尾スズキ)

演劇界の鬼才による初の長編小説は、醜悪さの中に純愛を潜ませた作品でした。主人公は、生まれつき頭が異常に大きなフクスケという人物。地方の名家に生まれながら、下女によって弄ばれたあげくに妊娠させてしまい、15歳にして上京。やがて没落した生家に…