2010-07-01から1ヶ月間の記事一覧
1892~93年にかけて米国「ストランド」誌に連載された作品を集めた、『シャーロック・ホームズの冒険』に続く第2短編集で、シリーズ4作め。 白銀号事件:カップの本命馬である白銀号が失踪し、調教師が死体で発見されます。犯人は、その晩厩舎を訪れ…
1962年のイギリス。「性の開放」も、「ビートルズ革命」も、まだ訪れる前のこと。新婚の2人が、不安の中で迎えた初夜の物語。歴史学者を目指すエドワードと若きバイオリニストのフローレンスは恋に落ち、互いの家族からも祝福されて幸福な結婚式をあげ…
姉妹作『ジーン・ワルツ』と『マドンナ・ヴェルデ』で生まれた双子の片割れで、世界的なゲーム理論学者の父親に引き取られたのが、本書の主人公・曽根崎薫クン。 天才的な両親に似ず、ごく普通の中学生にすぎない薫クンは、ひょんなことから「日本一の天才少…
1978年の北京。フランスからの女性留学生であった主人公は、映画「ラストエンペラー」の製作会議に通訳として雇われて、歴史学者・唐粱(タン・リー)と出会い、清朝皇室に伝えられた古代語で書かれた仏典にまつわる物語を聞き出します。 ゴビ砂漠に埋も…
少年ジョニーの家庭は、双子の妹アリッサが誘拐されて崩壊してしまいました。優しく逞しい父は謎の失踪。美しい母は薬物に溺れるようになってしまったのです。13歳の少年ジョニーは家庭の再生を信じて、ひとりで妹の行方を捜し続けます。 一方で、この事件…
『信長の棺』、『秀吉の枷』、『明智左馬助の恋』の3部作は、衝撃的でした。なにしろ信長が、自ら天皇の地位を望んだことが「最後の一線を越えた」とされて、「山の民」の出身である秀吉の陰謀によって殺害されてしまったというのですから。 「山の民」とは…
『ストリート・キッズ』シリーズの最終作です。シリーズに決着をつけるためのエピローグのような作品ですね。 結婚を控えて、無性に子どもを欲しがるカレンに戸惑っているニールのもとに、父親代わりとなってニールを育て、探偵として鍛え上げてくれたグレア…
満州国の誕生から滅亡まで(?)を描く船戸さん渾身の大河小説は、全8巻の構想とのこと。今のところ、第5巻まで出版されています。第1巻で描かれるのは、張作霖爆殺事件の前後の1928年から1929年にかけて。 主人公となるのは、麻布の名家に生まれな…
『千年の祈り』の著者が中国で実際に起きた事件を題材に書いた、初の長編です。文革時代に紅衛兵として知識人の弾圧を行なっていた少女が、ボーイフレンドへの手紙に記した毛沢東主席への疑問を密告されて逮捕され、10年間の投獄生活の末、1979年3月…
1975年の大晦日、メキシコで前衛詩グループを率いるアルトゥーロ・ベラーノとウリセス・リマは、1920年代に実在したとされる謎の女流詩人セサレアの足跡を追って、メキシコ北部のソノラ砂漠に旅立ちますが、それは20年に渡る世界各地の放浪の始ま…
美少女姿の仙人に惹かれて共に旅する王弁クンの物語『僕僕先生』のシリーズ4作めは長編でした。 前作『胡蝶の失くし物』に登場した「蚕姿のツンデレ娘」の故郷は、中原から遠い辺境の地。巫女の掟を破って蚕の姿にされてしまった蚕嬢の故郷は、凄まじい旱魃…
ボツワナ唯一の女性探偵マ・ラモツエを主人公とする「アフリカ・ミステリ」の3作め。前作で自動車修理工場の経営者J・L・B・マテコニ氏との結婚を決めたマ・ラモツエは、赤字続きの探偵社の経費節減のために、修理工場の一隅に引っ越すことにしたのです…
代理母問題を取り扱った『ジーン・ワルツ』では、戦闘的産科医であるクール・ウィッチ曾根崎理恵が、実母を自分の代理母して出産するという衝撃的な結末を迎えるのですが、本書はその過程を、理恵の母である山咲みどりの立場から描いた物語。 生殖医療の問題…
マンハッタンに住む49歳の女性小説家ナディア(Nadia)は、自分(i)を消し去って「無」を意味するナダ(Nada)と自称しており、現在は17世紀フランスに生れ落ちた不幸な兄妹の物語「復活のソナタ」を書いています。本書は、ナダが自分の内なる声ダイモ…
清明と博雅の名コンビが、あいかわらず、ゆるゆると酒をのみ、花を愛で、楽を奏で、月を見上げ、呪を語り、「ゆくか」「ゆこう」の決めゼリフとともに出かけていきます。「偉大なるマンネリ」とでもいうような、ゆったりとした時間の流れを感じられるシリー…
本書の主人公であるフランクリン・ハタは、戦前の日本で在日韓国人として生まれながら、日本人の養子となって育ちました。戦争中は日本人の医務仕官として南方へ従軍しますが、戦後になって渡米。ニューヨーク郊外の小さな町で医療品店を営み、街に溶け込も…
桐野夏生さんの『ナニカアル』を読んで、林芙美子さんの原点であるこの本を読んでみたくなりました。ジュブナイル版しか読んだことがなかったのです。でも、こんなに強烈な本のジュブナイル版って、どんな内容だったのでしょう(謎)。 「私は宿命的な放浪者…
『ビッグフィッシュ』の著者による、「変幻自在な物語」です。 1954年のアメリカ南部。いかにも裏ぶれた、ドサ回りをしているサーカス団から姿を消した黒人魔術師ヘンリー・ウォーカーの人生について、団員たちが語りはじめます。そこでのヘンリーは、手…
この本が直木賞候補とは驚きました。まさか受賞しちゃわないでしょうね! 万城目さんがおくる、ジュブナイル・ファンタジー。小学1年生のかのこちゃんが、ちょっと不思議なアカトラ猫のマドレーヌ夫人と交流しながら、出会いと別れを経験する物語。 マドレ…
2008年3月に90歳で亡くなった、SFの大家クラークさんの遺作です。著者には、生前叶えることができなかった3つの望みがあったそうですが、本書でその全てを実現させているというのが、話題となりました。 その望みとは「地球外生命体が存在する証拠…
著者が、ルーマニアの港町ブライラの貧民街で育った自らの体験に基づいて綴った、『キラ キラリナ』と『アンゲル叔父』に続く、バルカンの「人間模様シリーズ」の3作めでは、アウトローたちの生き様を描いた前2作と異なって、著者の分身であるアドリアン少…
本書の主人公は、『好色一代男』の主人公「世之介」と同じ名前ですが、直接の関係は希薄です。ただ「いろんな人に思い出してもらえる人生」を歩んだということが、共通項でしょうか。むしろ大学進学のために九州から上京した青年の成長記録という点では、『…
本書は「林芙美子の手記が発見された」との設定で、昭和17年に陸軍報道部の嘱託としてジャワやボルネオなどの南方戦線を訪問した際の「できごと」を創作した小説です。「ナニカアル」とは、林芙美子の日中戦争従軍記『北岸部隊』の冒頭にある詩の一節。「…
今更ながら「めざせ!シャーロキアン!」とのことで、シリーズを読み始めました。2つの長編(『緋色の研究』、『四つの署名』)に続く3巻めである本書は、著名な作品が多数収録されている短編集で、ホームズとワトソンの魅力がたっぷり詰まっています。 あ…
名翻訳者・柴田元幸さんが贈る「初の旅エッセイ」とのこと。確かに、かつて住んだロンドンへ、オースターに会いにニューヨークへ、兄を訪ねてオレゴンへ、ダイベックとともに六郷土手へ・・と、あちこち出かけてはいるのですが、柴田さんの想いの行き着く先…
待望の『1Q84 Book3』を読みましたが、ちょっとはぐらされた感じです。青豆と天吾の一見ハッピーエンドに見える結末にもかかわらず、この本は続編を必要とする作品ではないかと感じてしまったのです。問題の提起の仕方がまだ不十分に思えたのですが…