名翻訳者・柴田元幸さんが贈る「初の旅エッセイ」とのこと。確かに、かつて住んだロンドンへ、オースターに会いにニューヨークへ、兄を訪ねてオレゴンへ、ダイベックとともに六郷土手へ・・と、あちこち出かけてはいるのですが、柴田さんの想いの行き着く先は、いつも「過去の亡霊」であり「自分の妄想」なんですね。
逆に、亡霊に住み続けてもらうには「そこに出向かない」という方法がお勧めのようです。たとえば、多くの作家に描かれたニューヨークは「理念としての度合いが高い都市」であり、読者は、小説から得られるイメージだけで「亡霊に満ちた都市」を構築できるはずですって。^^
ただし、「自分自身の過去の亡霊」については別なのかもしれません。柴田さんは今でも、夜中に自宅一階の書庫に降りていくと、中学校二年ほどの柴田少年に会えると言い切っていますし、いつも六郷の小道では「さまよえるラーメン出前親父」と出会っているというのですから。
2010/7