りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ケンブリッジ・サーカス(柴田元幸)

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名翻訳者・柴田元幸さんが贈る「初の旅エッセイ」とのこと。確かに、かつて住んだロンドンへ、オースターに会いにニューヨークへ、兄を訪ねてオレゴンへ、ダイベックとともに六郷土手へ・・と、あちこち出かけてはいるのですが、柴田さんの想いの行き着く先は、いつも「過去の亡霊」であり「自分の妄想」なんですね。

「亡霊を追い払うには、そこを観光地化するのが一番手っ取り早い」そうです。観光地化されたリバプールにはもはやビートルズの面影はなく、ニューヨークからはポーの亡霊が消えて久しい。

逆に、亡霊に住み続けてもらうには「そこに出向かない」という方法がお勧めのようです。たとえば、多くの作家に描かれたニューヨークは「理念としての度合いが高い都市」であり、読者は、小説から得られるイメージだけで「亡霊に満ちた都市」を構築できるはずですって。^^

ただし、「自分自身の過去の亡霊」については別なのかもしれません。柴田さんは今でも、夜中に自宅一階の書庫に降りていくと、中学校二年ほどの柴田少年に会えると言い切っていますし、いつも六郷の小道では「さまよえるラーメン出前親父」と出会っているというのですから。

柴田さんに、オレゴン在住のお兄さんがいたとは知りませんでした。かつて欧米に目を向けて育った兄弟がいて、兄はアメリカに自分で行くことを選び、弟は遠くから憧れるだけの生活を選んだとのこと。

主題からは離れますが、現在のアメリカが「プロヴィンシャル」であり、田舎じみて視野が狭いものになっているとの、バリー・ユアグローの言葉が印象に残りました。

2010/7