りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

2012/10 パライソ・トラベル(ホルヘ・フランコ)

詳細に比較したわけではありませんが、女流作家3人のデビュー作を読みました。少女の傲慢さを描く完成度ではサガン、書くことへの情熱では林真理子、不思議な感性では吉本バナナでしょうか。「処女作にはその作家の全てがある」という言葉の意味を考えさせ…

四文屋~並木拍子郎種取帳(松井今朝子)

町奉行に仕える同心の家に生まれながら芝居に惚れこみ、並木五瓶の弟子になって狂言作家を目指している筧拍子朗が綴る大江戸人間模様の第4作です。 「蔦と幹」 トンボ返りが得意な斬られ役の新吉が金に困っている理由は、幼馴染のワルからの強請なのでしょ…

キャッチャー・イン・ザ・ライ(J.D.サリンジャー)

ある年代の人々には「聖書」のように扱われた作品です。そんな「古典」が村上春樹さんの新訳で復活しました。 しかし、この本のどこがそんなに素晴らしいのか、正直いってよくわかりません。大戦後間もなくのアメリカを舞台に、主人公のホールデン・コールフ…

雪解靄(神通明美)

富山地裁の書記官として長年勤めた著者による、「身近」な事件の裏に潜む人間模様を描いた短編小説集です。それそれの事件は、家賃不払いによる立ち退きとか、親権を有する親への子どもの引渡しなど、日々どこかで起きているようなものであり、話題性やミス…

闇が落ちる前に、もう一度(山本弘)

どのようにして「とんでも理論」をリアルに見せかけるか。きっと読者を興奮させて冷静にさせないドラマ性と語り口の魅力が勝負所なのでしょう。「とんでも理論」の権威でもある山本さんは、やはり上手ですね。 「闇が落ちる前に、もう一度」 ランダムな粒子…

赤猫異聞(浅田次郎)

明治元年暮のこと、幕府は既になく明治政府による新体制もまだ出来ていないという宙ぶらりんの時代。激変の予感と不安を抱きながらも、人々はこれまでの生活を惰性的に続けている状態の江戸の町。そんな中で起きた大火によって小伝馬町の牢屋敷から解き放ち…

アーサー王最後の戦い(ローズマリ・サトクリフ)

第1部『アーサー王と円卓の騎士』で円卓の騎士団の誕生を、第2部『アーサー王と聖杯の物語』で聖杯探索による滅びの始まりを描いたシリーズ最終巻では、ついに騎士団の崩壊が描かれます。 そもそも神の恩寵を受けていたはずのアーサー王と円卓の騎士団がな…

アーサー王と聖杯の物語(ローズマリ・サトクリフ)

アーサー王の宮廷キャメロットに円卓が登場してから20年。既に多くの冒険を成し終た円卓の騎士たちの前に最後の騎士として現れたのは、湖の騎士ランスロットとペレス王の娘エレインの間に生まれた息子ガラハッドでした。彼の登場とともに聖杯の幻が現れて…

殺戮のオデッセイ(ロバート・ラドラム)

原題は「ボーン・スプレマシー」。『暗殺者』=「ボーン・アイデンティティ」の続編です。映画は冒頭で恋人マリーを殺害されたボーンの復讐が情報機関内部に巣食う陰謀の暴露につながっていく物語ですが、こちらはもっと複雑。 1997年の香港返還の直前、…

暗殺者(ロバート・ラドラム)

原題は「ボーン・アイデンティティ」。マット・デイモンによるヒット映画「ボーン3部作」の原作となった作品です。かなり前に読んだのですが、映画の印象が強すぎてしまい、原作のストーリーを相当忘れていました。 作品の骨格は同じです。記憶を失って海で…

パライソ・トラベル(ホルヘ・フランコ)

血と死と、貧しい未来以外、何も与えてくれない祖国コロンビアに絶望し、夢の国アメリカに密入国した若者たちを待ち受けていたのは、過酷な旅と、さらに過酷な現実でした。 コロンビアのメデジンに住む平凡な青年マーロンは「ここで生きるなら死んだ方がマシ…

道頓堀川(宮本輝)

『泥の河』と『蛍川』に続く、自伝的な「川3部作」の最後にあたる作品です。 時代は昭和44年。両親を亡くした後、大阪の道頓堀沿いの喫茶店に住み込みながら大学卒業を目指す邦彦と、無頼の過去を持つ喫茶店の店主・竹内の視点から描かれる物語は、歓楽街…

ワインズバーグ・オハイオ(シャーウッド・アンダスン)

川上弘美さんが『どこから行っても遠い町』について「本書のような作品を書いてみたかった」と述べているのを見て、この本を手にとってみました。 本書によって生まれた「平凡な町の平凡な人々の群像劇」というスタイルは多くの人によって用いられ、最近読ん…

キッチン(吉本ばなな)

サガンの『悲しみよこんにちは』に続いて天才少女作家のデビュー作を読みましたが、時代と国の違いの大きさを感じますね。サガンのデビュー作が論理的なのに対し、こちらは情緒的。主人公のキャラも、傲慢で攻撃的なセシルに対して、本書のつぐみは受動的で…

悲しみよこんにちは(フランソワーズ・サガン)

サガン18歳のデビュー作です。陽光きらめく南仏コート・ダ・ジュールの海岸を舞台にして青春特有の残酷さをみごとに描ききった作品ですが、あらためて読むと、その完成度の高さに驚かされます。 ストーリーはいたってシンプル。放蕩者の男やもめの父レイモ…

レッドゾーン(真山仁)

「ハゲタカ・シリーズ」第3作では、莫大な外貨準備高を元手に国家ファンド(CIC)を立ち上げた中国が、低迷するアメリカのBIG3救済をからませながら日本最大の自動車メーカーに買収をしかけてくるという、世界規模での戦いが描かれます。 経済合理性…

小説フランス革命7 ジロンド派の興亡(佐藤賢一)

いよいよ第2部が始まりました。ルイ16世が幽閉されて王権を停止される「8月10日事件」を境にしてフランス革命は新しい段階へと入っていくことになりますが、事件の前夜である1792年の1月から8月はじめまでを描いた第7巻は、2人の道化役の動き…

トータル・リコール(フィリップ・K・ディック)

映画のリメイク版に合わせた出版でしょう。大森望さんのセレクションによるディックの傑作短編集ですが、これまで未収録の作品も2作含まれています。読者の予測を軽々と超越してしまう著者の独自な発想は、後期の作品ほど強まっているように思えます。 「ト…

インフォメーショニスト(テイラー・スティーヴンス)

インフォメーショニストとは、「発展途上国に入り込んで情報を集めて、企業が意思決定するために使えるものにする」という職業であり、この定義だけでいいなら実際にも存在していそうです。利権獲得や許認可のための仕組みやキーパーソンを知ることは重要で…

あぽやん(新野剛志)

「あぽやん」の「あぽ」は「APO」すなわちairportの略語であり、「あぽやん」とは旅行代理店の中で空港勤務する人のことを指しているとのこと。空港に集合するツアー客の旅程を確認してチケットを渡し、送り出す役目です。ただ空港勤務というのは閑職らし…

野良犬トビーの愛すべき転生(W・ブルース・キャメロン)

不思議な作品です。野良犬として生まれたトビーが何度も生まれ変わって別の犬生をおくるのですが、最後になって、トビーが転生を繰り返す深い理由がわかるという物語なんですね。ワンコ好きにはたまらない作品かも。^^ 野良犬のトビーは犬好きの女性セニュ…

星に願いを(林真理子)

コピーライターからエッセイストを経て小説家になった林真理子さんの小説デビュー作であり、自伝的な作品です。後にドラマ化もされました。 就職試験に悉く失敗した冴えない女子大生キリコは、男にも相手にされず、ほとんど「負け犬」状態。生活のために就い…