りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009-11-01から1ヶ月間の記事一覧

万延元年のフットボール(大江健三郎)

「これこそが小説」と思わせてくれた名作です。障害児の出産と友人の縊死によって挫折感を味わっている兄の蜜三郎。過去の妹の死に責任を感じ続け、60年安保闘争に挫折した弟の鷹四。2人の兄弟が故郷である四国の谷間の村に戻り、幕末に起きた民衆一揆を…

ドント・ストップ・ザ・ダンス(柴田よしき)

柴田さんの人気シリーズ最新作です。ひょんなことから新宿二丁目にある無認可保育園の園長を引き受けさせられ、慢性的経営難の保育園を維持するために危ない事件の探偵も引き受けている、元警官の花咲慎一郎。彼のトホホなハードボイルドぶりが楽しいんです…

空のオルゴール(中島らも)

教授の気まぐれで、19世紀の奇術師ロバート・ウーダンの研究をすることになってパリへと旅立った大学院生の時友クン。彼を待っていたのは、なぜかパリ留学中に奇術に凝って奇術師フランソワに弟子入りまでしてしまっていた、後輩のリカ。なんと都合のいい…

三屋清左衛門残日録(藤沢周平)

前藩主の死去に伴い用人の重職を退いて隠居した清左衛門は、思いがけなく感じた精神的な空白を埋めるために日記を書き始め、「残日録」と名づけます。 清左衛門が綴るのは、世間から隔てられた寂寥感や、老いた身を襲う悔恨だけではありません。かつての職務…

無限記憶(ロバート・チャールズ・ウィルスン)

前作[『時間封鎖』は、「仮定体」と名づけられた謎の物質に覆われた地球が外宇宙から孤立している間、地球時間で40年のうちに宇宙では40億年も経過したため、太陽の死期も迫っているという、とんでもない展開の物語でしたが、本書はその続編です。 「仮…

エンディミオン(ダン・シモンズ)

人類とAI は袂を別つこととなり、AI に依存していた恒星間の転移・通信システムは崩壊。連邦の「大崩壊」から300年後。独立色を強めていた各惑星は、復活したカトリック教会による神権政治のもとに統治されていました。300年もの間、あの「元巡礼…

山田風太郎明治小説全集10 明治波濤歌・下

『上巻』では、波濤を越えた明治人たちを描きながらも、直接の物語は日本国内で起きた物語が並んでいたのですが、『下巻』になって海外が舞台となる作品が登場してきます。 巴里に雪のふるごとく 『警視庁草紙』では敵役であった、後の警視庁大警視・川路利…

山田風太郎明治小説全集9 明治波濤歌・上

ここまでほぼ年代順に進んできた「明治小説全集」ですが、この巻は年代とは関わりなく波濤を越えて未知の国と出合った人々の物語を、オムニバス形式で描いています。まず上巻には3つの物語。 それからの咸臨丸 幕末に、勝海舟、榎本武揚、福澤諭吉らととも…

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・東京(楡周平)

『華麗なる一族』を現代風にアレンジして、韓国ドラマ風に味付けをした感じです。 親たちは全共闘世代。かつて安田講堂に立てこもって抵抗の無意味さを感じた女性は、今や大病院の経営者。彼女と愛し合いながらも、内部改革者となることを選択した男性は、代…

夕映えの道 (ドリス・レッシング)

1970年ころのロンドン、40代後半の年齢で、高級女性誌の副編集長ともなればキャリアウーマンの走り、というより既に人生の成功者。でも彼女ジャンナは、立て続けに母と夫を癌で亡くして、自分の孤独な生き方について考え直そうとしています。とりわけ…

神去なあなあ日常(三浦しをん)

三浦さんの「お仕事系青春小説シリーズ」(勝手に命名)に属する作品です。横浜の高校を卒業してすぐに、三重県の山奥にある神去(かむさり)村に放り込まれ、林業に従事するハメに陥ってしまった平野勇気クンの1年間。 林業ですよ、林業。木を切り倒す腕力…

アンフェアな月―刑事 雪平夏見(秦建日子)

第1作の『推理小説』が期待外れだったので、どうしようかと思ったのですが、既に借りていましたので結局読みました。結論から言うと、前作よりも小説っぽく仕上がってはいます。 バツイチで、子持ちで、大酒飲みで、人権無視で、捜査一課検挙率はNo.1で…

シルフ警視と宇宙の謎(ユーリ・ツェー)

不思議な小説でしたが、めちゃくちゃ面白い。 学生時代からの親友でライバルでありながら、より優秀なオスカーに劣等感を抱くゼバスチャン。彼は物理学から逃げるように結婚し、研究の王道を行くオスカーに対抗するかのように「多世界解釈理論」いわゆる「パ…

熊の敷石(堀江敏幸)

『ラ・フォンテーヌ寓話』に「熊と庭好きの男」という話が収められています。友人の頭にたかる蝿を追い払おうとして熊が投げた敷石が、蝿もろとも友人の頭を割ってしまったという寓話で、「愚かな味方ほど始末に終えないものはない」とか、「いらぬおせっか…

史記武帝紀2(北方謙三)

漢の武帝(劉徹)は、歴史上、毀誉褒貶の激しい皇帝です。漢の北辺を悩まし続けた匈奴を打ち破って、西域や、朝鮮半島や、南越を支配下に置き、漢の版図を最大化した栄光の一方で、後年の内政の乱れや大規模な土木工事によって民衆を疲弊させ、農民反乱を頻…

小説フランス革命4 議会の迷走(佐藤賢一)

巨星堕つ。革命前の三部会時代からずっと革命と議会を牽引してきたミラボーの病が篤くなり、ついに最期を迎えてしまいます。国民からの人気も高く、巧みな議会戦術を駆使し、立憲君主制を唱えて王室を擁護して議会を牽制してきたミラボーの死によって、革命…

まぼろしの王都(エミーリ・ロサーレス)

主人公は、著者の分身と思えるエミーリ・ロセルという画廊の持ち主。彼は、幼い頃から探検して遊んだ廃墟群を「見えないまち」と呼んでいたのですが、その正体は誰も知らないタブーとされていました。そのことはずっと忘れていたのですが、学生時代の友人や…

ハイペリオンの没落(ダン・シモンズ)

前作『ハイペリオン』の続編というより、後半にあたります。辺境の惑星ハイペリオンの「時間の墓標」へと向かった7人の巡礼はどうなるのか? 蛮族アウスターの総攻撃を迎え撃つ人類連邦の運命は? 人類から独立を果たしているAI群「テクノコア」の目的は…

推理小説(秦建日子)

「アンフェア」というタイトルでTVドラマ化された小説です。著者はもともとドラマの脚本家だそうで、ドラマの書き割りのよう。目新しいのかもしれませんが、読みにくいし、表面的な感じ。 会社員、高校生、編集者と、面識のない人々が相次いで惨殺された。…

極北クレイマー(海堂尊)

『ジーン・ワルツ』や『イノセントゲリラの祝祭』で触れられていた、「北の事件」の全貌がここで明らかになります。 極北市民病院に非常勤外科医として赴任した今中を待っていたのは、財政赤字で崩壊寸前の自治体から支援を期待できずに施設も医者も足りない…

ヤング・ボンド(チャーリー・ヒグソン)

シャーロック・ホームズや、インディ・ジョーンズなど、架空の人物の少年時代を「創作」した小説がいくつか出ていますが、本書もそんな一冊。主人公は、13歳の時の「007」ジェイムズ・ボンドです。イアン・フレミングの遺族から許可を得て書かれた「お…

ソーネチカ(リュドミラ・ウリツカヤ)

古き良き「18世紀ロシア文学」の香り漂う作品です。ドストエフスキーやトルストイではなく、ツルゲーネフやチェーホフの流れ。 「普通の女性」の「普通でない一生」が淡々と描かれます。幼い頃から本の虫だったソーネチカは、1930年代にフランスから帰…

身もフタもない日本文学史(清水義範)

レトロさんが紹介してくれた本です。パスティーシュの名手・清水義範さんが、古典から現代に至る日本文学史をズバッと斬ってくれます。現代は駆け足になってしまって焦点がボケたけど、古典の部分には、思わず納得させられてしまいました。なかでも最高だっ…

宵山万華鏡(森見登美彦)

毎年7月に1ヶ月に渡って行なわれる祇園祭のクライマックスは、山鉾巡行。「宵山」とはその前夜。祇園囃子の鉦と笛太鼓の音が鳴り響き、露店も立ち並ぶ中、鉾や山の飾りや屏風などを町屋に飾りつけて披露する祭りのことですから、まさに妖かしと現実とが入…

星間商事株式会社社史編纂室(三浦しをん)

川田幸代。29歳。中堅商社である星間(ほしま)商事社史編纂室勤務。彼氏(のような存在)あり。彼女の秘密は「腐女子」であること。高校時代からのサークル仲間3人で「やおい系」同人誌を発行し続けているんです。社史編纂室なんて部署に回されたのも、…

2009/10 倒壊する巨塔(ローレンス・ライト)

ふと思い立って、村上春樹さんの長編をはじめから読み返してみました。約2ヶ月間で全部再読してしまったのですが、「もっとゆっくり読めば良かった」と後悔しています。村上さんの本を読んでしまうと、並みのフィクションには満足できなくなりますね。だか…

似せ者(松井今朝子)

松竹で歌舞伎の企画・製作に携わり、後に歌舞伎の脚本家となった松井さんが著した、江戸期の芝居に関わる人たちの生き模様を切り取った中篇4作が収められています。 「似せ者(にせもん)」 名優・坂田藤十郎の死後、人気の低迷する歌舞伎界を盛りたてるた…