りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009-12-01から1ヶ月間の記事一覧

2009/12 太陽を曳く馬(高村薫)

ちょっと早いけど、2009年の読書をクローズしてしまいましょう。 高村薫さんの4年ぶりの単行本は、『晴子情歌』、『新リア王』に続く、福澤一族3部作の完結編であると同時に、『マークスの山』、『照柿』、『レディ・ジョーカー』の合田雄一郎を登場さ…

クオ・ワディス(シェンキェーヴィチ)

「クオ・ヴァディス」として映画化されていますので、そちらの呼び方のほうが馴染みがありますね。19世紀末、三帝国に分割されて地図から姿を消していたポーランドのノーベル賞受賞作家による、古典的名作です。 暴君ネロの支配する享楽の都ローマ。奴隷や…

海底八幡宮(笙野頼子)

自分が『金毘羅』であると目覚めてしまった著者に師ができました。その名は亜知海(アチメ)、原始の八幡。国を追われ、故郷を奪われ、来歴を消され、名前を奪われ、真実を消されて1500年。じわじわと囲まれて、存在しなかったことにされてしまった海洋…

「アエラ族」の憂鬱(桐山秀樹)

朝日新聞が発行する週刊誌『AERA』は、女性のライフスタイルを扱う記事が多いことは知っていました。でも高学歴・高所得のキャリアウーマンの視点から書かれている記事が多い雰囲気があって、手に取りにくい雑誌ではありました。 本訴は、副題に『「バリ…

時の眼 - タイム・オデッセイ(アーサー・C・ クラーク、スティーヴン・バクスター)

『2001年』から『3001年』までの「スペース・オデッセイ」シリーズとは直角の関係にあるという、「タイム・オデッセイ」シリーズの幕開けです。 猿人の時代から未来まで。時空を越えてバラバラにされた地球が、パッチワークのように組み直されます。…

ジェイン・オースティンの読書会(カレン・ジョイ・ファウラー)

「私たちはだれでも、それぞれのオースティンを持っている」との言葉で始まる本書は、アメリカ・カリフォルニアの田舎町で「女性5人+男性1名」のグループが、持ち回りでオースティンの読書会を開催する物語です。 オースティンの長編は6作品。そのいずれ…

幼女と煙草(ブノワ・デュトゥールトゥル)

死刑執行を目前に控えた囚人が、法律で保障されている「最後の希望」に煙草を要求。しかし刑務所の所長が所内完全禁煙の規則を盾にしてそれを拒否したために、騒動が持ち上がります。死刑執行は一旦延期されますが、煙草会社、法曹界、政治家を巻き込んで、…

わたしのなかのあなた(ジョディ・ピコー)

まだ2歳の一人娘が白血病となり、生体適合するドナーがいないと知った母は、遺伝子操作によってデザイナー・ベイビーを生むことを決意しました。そうやって生まれた妹アナは、姉ケイトの生まれながらのドナーとして運命づけられ、臍帯血の提供にはじまって…

『婦人公論』にみる昭和文芸史(森まゆみ)

普段手にすることはないのですが、中央公論社から大正5年(1916年)に発行された『婦人公論』は、それぞれの時代において女性の様々な生き方を提示してきただけでなく、文芸欄も華やかで、ここから数多くの名作も生まれていたとのこと。 2006年に創…

太閤暗殺(岡田秀文)

茶々が秀頼を産んだ後、秀吉の甥として関白を継いでいた秀次の存在はうとまれ、やがて一族郎党もろとも処刑されるに至ったことは有名な史実ですが、その裏には何があったのか。「歴史ミステリ」ですね。秀次の危機を感じとった側近・木村常陸介は、大盗賊の…

山田風太郎明治小説全集12 明治バベルの塔

明治も後半に入っていきます。本書で描かれているのは明治28年から34年ころでしょうか。表題作は、万朝報の売り上げを伸ばすために、社主・黒岩涙香が仕掛けたアナグラムのクイズを巡る顛末記。文章を崩して暗号化した手がかりをたどれば、賞金を埋めて…

山田風太郎明治小説全集11 ラスプーチンが来た(山田風太郎)

日露戦争中、若きレーニンらロシアの革命家たちに資金と武器を与える諜報活動を行い、ロシアの内乱を企てて日本を勝利に導いた、スーパースパイ明石元ニ郎の若き日の物語。1891年、ロシア皇太子ニコライが日本訪問の際に警備の巡査から斬りつけられた「…

オリンピックの身代金(奥田英朗)

現代日本の地方における「出口なし」的な閉塞状況をやるせなく描いた『無理』の著者が、「高度経済成長期の日本」を舞台とすると、こうまでイメージが変わるものなんですね。本書は「読み物」として楽しめました。 書いているテーマは一緒。東京と地方、富め…

太陽を曳く馬(高村薫)

『晴子情歌』、『新リア王』に続く、福澤一族3部作の完結編に登場してきたのは、『マークスの山』、『照柿』、『レディ・ジョーカー』の主人公であった合田雄一郎。まさに高村文学の総決算といえる本書は、21世紀日本が抱える心の闇を抉り出す重厚な作品…

イグ・ノーベル賞 世にも奇妙な大研究に捧ぐ!(マーク・エイブラハムズ)

イグ・ノーベル賞とは「Ignoble(品がない)」と「Nobel Prize(ノーベル賞)」を掛け合わせ、さらに「Ignore(無視する)」という意味を合わせ持たせた造語です。 イグ・ノーベル賞とは、まず人を笑わせて、考えさせる研究、絶対に真似できない、真似すべきでな…

修道士カドフェル6 氷のなかの処女(エリス・ピーターズ)

1139年冬。スティーブン王の勝利で決着がついたと思われたイングランドの王位継承争いが、諸侯の統制の乱れに乗じた女帝モードの逆襲で再燃してきます。 モード軍のウスター攻略の際、多くの避難民に混じってシュールズベリを目指していたはずの貴族の姉…

無理(奥田英朗)

東北の3つの町が合併してできた人口12万の地方都市「ゆめの市」を舞台にして、時代の閉塞状況を描いた作品です。 主要な登場人物は5人。身勝手な市民に嫌気がさしている生活保護担当の市職員、相原友則。東京の大学に進学し、町を出ようと心に決めている…

花のれん(山崎豊子)

『沈まぬ太陽』の映画化で、今また話題となっている山崎さんの直木賞受賞作。もう50年以上も前に書かれた作品ですが、今読んでもおもしろい。過去に、映画化もTVドラマ化もされています。 船場の呉服屋に嫁いだ多加でしたが、頼りない夫は寄席道楽に耽っ…

地球移動作戦(山本弘)

2083年、超光速で運動すると仮定されている粒子タキオンを利用した推進機関「ピアノ・ドライブ」を実用化した人類は、光速レベルの宇宙船を開発。太陽系を超えて宇宙探索に乗り出した矢先に、ミラー物質(?)組成であるために今まで発見されていなかっ…

通訳ダニエル・シュタイン(リュドミラ・ウリツカヤ)

本書の主人公には実在のモデルがいるそうです。ポーランドのユダヤ人一家に生まれ、奇跡的のホロコーストを逃れてベラルーシに逃れ、同胞の命を救うためにユダヤ人であることを隠してゲシュタポの通訳となり、その後、カトリックに改宗してイスラエルに渡っ…

夫婦で行くイスラムの国々(清水義範)

奥様はあちこち行かれていたようですが、清水義範さんは40歳近くになって突然海外旅行に目覚めたそうです。最初の海外旅行先をインドとしたのは、作家として何か思うところがあったのでしょうか。何の予習もせずに行ったインドで壮麗なタージ・マハール寺…

砂漠のゲシュペンスト(フランク・シェッツィング)

1991年、湾岸戦争のクウェートで、瀕死の重傷を負った仲間を置き去りにした2人の傭兵。8年後、ケルンで静かに暮らしていた男エスカーが、拷問を受けたと思しき惨殺死体となって発見され、捜査が開始されます。 2日後、ケルンの女性探偵ヴェーラは、バ…

愛憎の王冠 - ブーリン家の姉妹2(フィリッパ・グレゴリー)

「ブーリン家の姉妹2」と副題がついていますが、これは商業的な意味合いでしょう。本書は、メアリーとエリザベスによる、ヘンリー8世亡き後の女王争いが扱われます。彼女らも姉妹ですけど、チューダー家の異母姉妹ですから、このタイトルは変ですね。メア…

パリンドローム(スチュワート・ウッズ)

ステロイド剤には、肉体を強化する半面、凶暴性を増す副作用があるようです。本書は、その後起こった「O・J・シンプソン事件」を予告するかのような物語。 ステロイド剤を使用してスターとなったアメフト選手のベイカー・ラムジーから残虐な仕打ちを受けて…

2009/11 シルフ警視と宇宙の謎(ユーリ・ツェー)

大江健三郎さんの『万延元年のフットボール』を再読しました。「これこそが現代日本の小説」と思わせてくれた名作です。読み返す価値は十分にありました。 11月もたくさん読みましたが、これぞ「No.1」という作品には巡り合えなかったかな。森見さん、三浦…