りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2016-01-01から1年間の記事一覧

2016 My Best Books

今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみます。 長編小説部門(海外) 僕の違和感(オルハン・パムク) ノーベル賞を受賞した著者の、トルコ愛・イスタンブル愛を強く感じる作品です。イスタンブルで伝統的飲料「ボザ」を売り歩く行商人メヴル…

2016/12 プラハの墓地(ウンベルト・エーコ)

1年を締めくくるのにふさわしい作品が並びました。『バラカ』にも『鹿の王』にも著者の強い思いを感じました。宮部さんの「杉村三郎シリーズ」は長編のほうがいいですね。『プラハの墓地』は、さすが巨匠の作品です。前月読んだ作品の続編では『ザ・カルテ…

マルドゥック・アノニマス 2(冲方丁)

物語の舞台は、軍事技術を用いて改造された異形のエンハンサーたちが跋扈する未来都市マルドゥック・シティ。裏社会の悪事を告発するオフィスの一員であるウフコックが、凶悪な犯罪組織「クインテット」に潜入捜査して綴った記録が「アノニマス(匿名)レポ…

ジャングル・ブック(ラドヤード・キプリング)

子供のころにジュブナイル版で読んだ覚えはありますが、きちんと読んだことはありませんでした。今年の夏にディズニーが映画化した途端に、各出版社が文庫で競作。商魂の逞しさを感じますが、こちらも映画化がなければ読もうと思わなかったのですから、世の…

鹿の王 下(上橋菜穂子)

黒狼熱に感染させた犬を使って、征服者の東乎瑠(ツオル)帝国に病原菌テロを仕掛けていたのは、かつて国を滅ぼされて辺境を流浪する存在となっていた「火馬の民」でした。医師ホッサルは、彼らの心情は理解できるとしながらも、病を武器として用いることの…

鹿の王 上(上橋菜穂子)

2015年度の本屋大賞受賞作であることは知っていましたが、日本医療小説大賞も受賞していたのですね。本書のテーマは、被支配民族が支配民族に対して行う病原菌テロでもあるのです。 物語の舞台は、強大な帝国・東乎瑠(ツオル)に征服されたアカファ国。…

拳の先(角田光代)

初めてのスポーツ小説であった『空の拳』から4年、再びボクシングと向き合った著者は、「ボクサーが闘う理由」に挑みます。 文芸部門に移動していた編集者の那波田空也は、担当することになった若い作家がボクシングに関心あるとのことで、以前通っていたジ…

クロコダイル路地 2(皆川博子)

フランス革命期を舞台にした伝奇ロマンの第二部の舞台は、ロンドンへと移ります。両親ともギロチンで処刑されたブルジョワ一族の嫡男ローランはロンドンで商会を起こし、ナントの虐殺で主君を失ったピエール、港湾労働者だった少年ジャン・マリらは商会の商…

希望荘(宮部みゆき)

『誰か』、『名もなき毒』、『ペテロの葬列』に続く、「杉村三郎シリーズ」の第4作です。前作のラストで大企業創業者の娘と離婚して仕事も家族も失った杉村は、予想通り探偵事務所を開いています。本書は、杉村が震災前後に関わった4つの案件からなる連作…

誰もいないホテルで(ペーター・シュタム)

スイス人作家による10編の物語からは、「人生の一瞬を切り取る鋭さ」よりも、堀江敏幸氏の言うところの「凡庸さの連続を豊饒な生の厚みに変える」作風を感じます。湖と丘陵の土地とともに暮らす、スイスの人々の人生感が反映されているようにも思えます。 …

ハプスブルクの宝剣(藤本ひとみ)

今年の夏にオーストリアを再訪してハプスブルク家の威光に触れたので、18世紀のオーストリア継承戦争に題材を得た本書を再読してみました。宝塚の演目にもなっている作品です。 主人公の青年エドゥアルトは、全く架空の人物です。フランクフルトのユダヤ人…

バラカ(桐野夏生)

あの震災で、福島第一原発が4基とも爆発したという架空の日本。東京は避難勧告地域に指定されて、首都機能は大阪に移り、天皇は京都御所に移住。放射線量が下がったとされる8年後でも、富裕者層は海外に脱出したままで、東日本に住むのは棄民扱いされた被…

陰陽師 鼻の上人(夢枕獏)

『宇治拾遺物語』に題材をとった芥川龍之介の『鼻』を、陰陽師の世界に持ち込むとどうなるのでしょう。「陰陽師シリーズ」の記念すべき100本めは、村上豊さんの挿画が美しい絵物語として出版されました。 善智内供奉の奇妙な鼻の悩みを解決しようと、蘆屋…

陰陽師 螢火ノ巻(夢枕獏)

30年もの間続いているシリーズの第14弾です。2014年1月に出版された『蒼猴ノ巻』以降を最後に読んでいませんでしたが、その間に3作も刊行されていました。 呪(シュ)に通じた陰陽師・安倍晴明と、彼の親友であり笛の名手の好漢・源博雅が、「ゆこ…

ザ・カルテル 下(ドン・ウィンズロウ)

下巻で展開される物語は、『上巻』を読了した時点で想像したものから、相当遠くに行ってしまいました。国家権力すら支配する麻薬カルテル同士の「戦争」の凄まじさは、捜査官ケラーと麻薬王バレーラの個人的な対決など置き去りにしてしまったかのようです。 …

レモン畑の吸血鬼(カレン・ラッセル)

『狼少女たちの聖ルーシー寮』の著者による、第2短編集です。奇妙で残酷なダーク・ファンタジーぶりに、一段と磨きがかかっているようです。 「レモン畑の吸血鬼」 イタリアでレモン畑を所有する老人は、実は吸血鬼でした。連れ合いになった吸血鬼の女性か…

狼少女たちの聖ルーシー寮(カレン・ラッセル)

1981年生まれの若い作家による奇妙で残酷なダーク・ファンタジーは、妙に懐かしさも感じる作品集になっています。『ジュディ・バドニッツ』や、『ジュリー・オリンジャー』とも共通するものも感じます。 「アヴァ、ワニと格闘する」 ワニ園のスターだっ…

こちら、郵政省特別配達課 2(小川一水)

民間の宅配業者に対抗するために、郵政省内に設立された特別配達課。第1巻では、国家予算を無駄に使った巨大装備と、官僚機構の頂点から与えられた特別権限を用いての、縦横無尽の活躍が描かれましたが、第2巻になって様相が変わってきます。 実は郵政省の…

こちら、郵政省特別配達課 1(小川一水)

総理になる前の小泉純一郎氏が「郵政民営化研究会」を立ち上げた1999年に書かれた作品です。第1巻は、民間の宅配業者に対抗するために、郵政省に大装備を備えた特別配達課が設立される物語。 地方局で配達員をしていた八橋鳳一に出された辞令は、まさか…

あの素晴らしき七年(エトガル・ケレット)

イスラエル人の若い作家が、人生の特別な7年間を綴ったエッセイです。息子の誕生から父親の死に至る7年間とは、著者が「父でもあり息子でもあった」特別の期間なのです。 そういうエッセイなので、家族のことに関わるエピソードが多いのは当然のこと。次第…

プラハの墓地(ウンベルト・エーコ)

ユダヤ人の長老たちがプラハの墓地に集まって世界征服計画を決議したとされる『シオン賢者の議定書』は、明白な偽書でありながら、ヒトラーに支持されてナチスのホロコーストの根拠とされた文書です。本書は、希代の文書偽造家であったシモニーニという人物…

捕食者なき世界(ウィリアム・ソウルゼンバーグ)

サイエンスライターの手による本書は、「頂点捕食者の生態系影響についての学説史」を紹介したうえで、人類がつくりだした価値観や文明観を問い正す作品になっています。 食物連鎖のピラミッドにおいて「底辺が頂点を支える」という従来からの学説に疑問を抱…

翁-OKINA(夢枕獏)

「夢枕獏バージョン」の『源氏物語』ですが、案の定『陰陽師』のような作品になってしまいました。 妻の葵上に取り憑いた妖しいものとは何だったのか。類まれなる美貌と宿縁を併せ持った貴公子・光の君は、妖しい外法の陰陽師・蘆屋道満に依頼を持ちかけます…

三谷幸喜のありふれた生活13 仕事の虫

新聞連載エッセイを単行本化したシリーズも、もう13巻になりました。対象となっているのは、2013年後半~2014年前半までの期間です。 あいかわらず、すごい仕事ぶりです。映画「清州会議」の公開や、2016年の大河ドラマ「真田丸」の執筆決定に…

2016/11 ブラインド・マッサージ(ビー・フェイユイ)

今月は、シリーズの途中とか上巻だけとか、読み切っていない作品のほうに秀作が多かったようです。まとめて次点に入れておきました。最終評価は最後まで読んでから。 1.ブラインド・マッサージ(ビー・フェイユイ) ブラインド・マッサージ」とは、盲人に…

翼をください(原田マハ)

社主から記者失格の烙印を押された新米記者の翔子は、記者生命をかけて、社主が尊敬する先輩という「山田順平」なる人物の取材に臨みます。彼は、70年前に新聞社が主催した「ニッポン号」による世界初の世界一周飛行に随行したカメラマンでした。当時の写…

いのちなりけり(葉室麟)

「佐賀藩出身の男女が数奇な運命に翻弄されながら再会を果たす物語」である本書は、「葉隠」成立に至る「前史」ともいえそうです。「葉隠」の有名な言葉である「武士道とは死ぬことと見つけたり」と「忍ぶ恋こそ至極の恋」という2つの精神が、本書の中で見…

ケイン・クロニクル 炎の魔術師たち 3(リック・リオーダン)

『パーシー・ジャクソン・シリーズ』で古代ギリシャの神々を現代世界に登場させた著者が、エジプトの神々を扱ったシリーズです。第2シリーズの最終作ですが、まだこの後も続きそうです。 古代エジプトで太陽神ラーに封じ込められた、混沌神アペブの復活まで…

幽霊海賊(ウィリアム・ホープ・ホジスン)

100年以上も前、ウェルズやドイルと同時代に「ホラー小説」を書いていた著者の、「ボーダーランド2部作」といわれるシリーズの1作です。 本書で扱われる「異世界との境界」は海。サンフランシスコで仕事にあぶれていた主人公が乗り組んだ船には、気味の…

遊仙譜(南条竹則)

『酒仙』や『鬼仙』など、日本では珍しい「仙人小説専門家」といえる著者の作品です。 中心となるのは、蓬莱島に暮らす美しき仙女・玉英。仙界でも指折りの神通力を持ち、西王母からも覚えがめでたいものの、無類の酒好き。東に銘酒ありと聞けば行って一盞を…