りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

2011/10 不毛地帯(山崎豊子)

山崎豊子さんの長編を2作読みました。著者のどの作品にも共通するのですが、鋭く取材した現実の事件をもとに複数の人物を総合して、魅力ある登場人物を作り上げる手際はお見事です。全盛期に書かれた『不毛地帯』はもちろんのこと、近著『運命の人』でも年…

奈良町夏物語~灯火滑走路(奥山鳴)

奈良で宿泊したホテルにこの本が置いてあって、「大和路ロマン文庫」という小冊子のシリーズがあることをはじめて知りました。2009年7月から奈良で毎月発刊を続けている、四季折々の奈良の風物と、古刹や町並みを舞台にした短編小説シリーズであり、な…

運命の人(山崎豊子)

1971年春。佐藤内閣のもとで大詰めを迎えた沖縄返還交渉において日米間に密約が結ばれようとしていることに気づいた敏腕の新聞記者が野党に情報を流し、入手していた外務省極秘電文のコピーを渡します。 国会での野党からの追及に怒った政府は、機密を漏…

二都物語(チャールズ・ディケンズ)

フランス革命を背景に描かれる、フランスの亡命貴族チャールズと、ロンドンの酒びたりの弁護士シドニーの2人の青年と、無辜の娘ルーシーとの三角関係物語。フランス革命前夜、18年間バスティーユ牢獄に入れられていた医師マネットが解放され、イギリスに…

Anego(林真理子)

篠原涼子さん主演でドラマ化された小説です。ドラマは見ていませんが、こちらはかなり怖い内容ですから、違う主題になっているのではないでしょうか。 「現代OL事情」的な前半は、一般職女性の採用を中止して派遣社員へと切り替えが進む大企業という「現場…

白薔薇の女王(フィリッパ・グレゴリー)

『ブーリン家の姉妹』にはじまるチューダー朝物語の次に著者が著わしたのは、プランタジネット朝の滅亡を飾る「薔薇戦争」の時代でした。本書の主人公「白薔薇の女王」とは、ランカスター家のヘンリー6世を破ってヨーク家出身の王となったエドワード4世の…

悪魔の薔薇(タニス・リー)

「現代のシャハラザード」の異名を持つ著者の作品は、ダーク・ファンタジーやロマン・ホラーに分類されるようですが、一読した印象は「耽美的な御伽噺」? 全9編からなる短編集です。 「別離」女性ヴァンパイアに仕える老いた従者は、自らの死期を悟って後…

いまファンタジーにできること(ル=グイン)

『ゲド戦記』や『西のはての年代記』などの良質なファンタジーの著者が語る「ファンタジー論」です。 単なるメッセージではなく、「薄っぺらいファンタジー」を批判する一方で、ファンタジー形態の物語が本来持っているパワーと可能性について、深い考察を加…

東京観光(中島京子)

最近の中島さんの短編には「凄み」を感じます。直木賞を受賞したばかりですが、芥川賞を獲っても不思議ではないと思える作品がぎっしりと詰まった短編集です。最近の芥川賞作品は、本気でつまらないもんなぁ。 「植物園の鰐」 鰐の涙は見せかけだけで本当は…

サヴァイヴ(近藤史恵)

自転車ロードレーサーのプロフェッショナルの世界を描く『サクリファイス』と『エデン』に続く第3作は、前2作の主役で欧州に渡った白石チカのみならず、彼が日本で所属していた「チームオッジ」のメンバーたちもヒューチャーしたスピンオフ的な短編集にな…

ウクライナの発見(小川万海子)

本書で描かれているのは現実のウクライナではありません。「ポーランド文学・美術の19世紀」との副題が示すように、ポーランドから見たウクライナが紹介されているのです。 「ウクライナ」の語源は「非常に遠い場所、世界の端、国境地帯」だそうですが、も…

週末(ベルンハルト・シュリンク)

『朗読者』や『帰郷者』で、過去の「ナチスの罪」と関わる人々を描いた著者が、この作品では同時代に経験した「赤軍派テロ」と向き合います。 かつてドイツ赤軍派テロを首謀して何件もの殺人を犯した男イェルケが、恩赦を受けて20年ぶりに出所。男が子ども…

MM9 invasion(山本弘)

地震や台風などの自然災害と同様に「怪獣災害」が存在する現代。有数の「怪獣大国」である日本では、気象庁内に設置された「特異生物対策部」、通称「気特対!」が昼夜を問わず活動しているという前作『MM9』の続編です。 7年前に出現した少女型怪獣「ヒ…

ニキの屈辱(山崎ナオコーラ)

「誰にでも分かる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」と言う著者の新作は、生きるのに不器用な若い人気女性写真家と、男性アシスタントの間に生まれた恋愛感情の変化を描いた作品ですが、これが何ともレビューを書きにくい・・。 ニキの不器用さは、1歳…

リトル・アースクウェイク(ジェニファー・ウェイナー)

正反対の姉妹の愛憎が祖母との関係を通じてほぐれていく様子を描いた秀作、『イン・ハー・シューズ』の著者による「妊婦版Sex and the City」。 舞台はフィラデルフィア。ヨガ教室で出会い、結婚、妊娠、出産、子育ての悩みをぶつけ合う友人同士と なった3…

介護退職(楡周平)

冒頭の一文が、本書の全てを語っています。 大学で東京に出るのは自然なことだった。そのまま職を東京で求めることもまた、自然なことだった。田舎に両親を残すことなど、気にも留めなかった。父母がやがて老いる時のことなど考えもしなかった。 だけど今に…

あなたが最後に父親と会ったのは?(ブレイク・モリソン)

イギリスの作家による亡き父の回顧録ですが、すっかり泣かされました。父親との別れを描いた作品には弱いのです。 ヨークシャーの田舎で開業医を営んでいたあきれるほど人間的な父親は、ケチで、ズルくて、浮気もして、何でも自分の思い通りにしたがる小市民…

ラシャー(アン・ライス)

『魔女の刻』の続編というより、本編の物語に決着をつける最終巻です。300年に渡ってメイフェア家の魔女たちにとり付き、ついに肉体を持った悪霊ラシャーとともに姿を消したローアン・メイフェアは、どこにいるのか。 残された夫マイケルの前に、歴代の一…

競売ナンバー49の叫び(トマス・ピンチョン)

平凡な若妻エディパは、突然、かつての恋人であったカリフォルニアの大富豪ピアスの遺言で、遺産処理の執行人に指定されたことを知ります。弁護士の力を借りて遺産を調べ始めたエディパが見出すのは、遺産に含まれる大量の切手コレクションと、不可解なメッ…

希望(瀬名秀明)

かつて「哲学」という名のもとに総合的なものであった「物語」は、ある時期から「科学」と「文学」に分かれてしまったそうです。それをもう一度ひとつのものに一体化しようとする試みが「サイエンス・フィクション」という解説者の言葉は、ちょっと言いすぎ…

すべては雪に消える(A・D・ミラー)

原題の『Snowdrops』は美しい言葉に聞こえますが、モスクワで用いられる俗語には、「冬の間雪に埋もれていて雪解けによって現れる死体」との意味があるといいます。本書はこの言葉のように、後になって明らかになった忌まわしい出来事についてのサスペンス・…

神君家康の密書(加藤廣)

『信長の棺』シリーズの著者がおくる、戦国覇道の大逆転劇にかかわった三武将の落城秘話。どの作品も現在放映中の大河ドラマに関係しているので、記憶に新しい。もっとも、どの物語も戦国ドラマには定番のエピソードです。^^ 「蛍大名の変身」 女の尻の威…

ちりとてちん(藤本有紀)

NHK朝ドラのノベライズ本です。福井県若狭市の伝統塗箸職人の家に育った「ヘタレ少女」の和田喜代美が、高校を卒業して一大決心。単身で大阪へと飛び出して上方落語と出会い、徒然亭若狭として落語家を志す物語。 もちろん順風満帆に進むわけではありませ…

不毛地帯(山崎豊子)

総合商社・伊藤忠の元会長、瀬島龍三氏をモデルとする小説と言われていますが、実際は複数の人物を総合して描かれたものです。このあたりは、山崎さんの他の作品にも共通する得意の手法。 とはいえ、陸軍参謀として満州で終戦を迎えて11年ものシベリア抑留…

アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪う(ゲイル・キャリガー)

人狼や吸血鬼などの異界族と共存して繁栄を極めている19世紀イギリスを舞台に繰り広げられる「英国パラソル奇譚」の第2弾。 主人公のアレクシア嬢はロンドンにひとりしかいない「反異界族」であり、異界族をワンタッチで人間に戻してしまう力を持つ存在な…

アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う(ゲイル・キャリガー)

19世紀。ヴィクトリア女王の下で繁栄を極め世界制覇を果たしたイギリスの秘密は、「異界族」を受け入れて共存したことでした。女王の影のブレーンである「宰相」は吸血鬼で、「将軍」は人狼だったのです。 主人公は、イタリア人との混血で26歳のオールド…