りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続(宮部みゆき)

第9巻の『青瓜不動』を先に読んでしまったのですが、基本は中編集ですので問題なかったようです。「百物語」の聞き手である富次郎の兄・伊一郎が三島屋の跡継ぎとなるために予定より早く奉公修行から戻ってきた経緯と、前の聞き手であったおちかの妊娠と、女中のおしまがおちかの元に走った経緯が、物語の合間に綴られています。

 

「賽子と虻」

虻神に憑かれた姉を救うために呪いを呑み込んだ少年には、どのような運命が待っていたのでしょう。八百万の神々の中でも指折りのばくち打ちとなった産土神「ろくめん様」の下僕はさいころの形をしているのですね。少年が垣間見た巨大な疱瘡神の姿はやはり恐ろしい。博打に負けて泣きじゃくる燕の神を労わったことが、後に少年を救います。しかし一番尾恐ろしいのは、土着の産土神の社を有無を言わさず壊してしまう支配者です。それでも人の手の温もりはかけがえのないものなのでしょう。

 

「土鍋女房」

水神様の住まいである川の渡し守の家系が代々短命なのは、水難事故に遭うせいではなさそうです。新たに渡し守となった兄に持ち込まれた縁談が、兄の死期を早めてしまいました。兄の手元にあった不思議な土鍋は水神様の形代だったのでしょうか。いずれにしても神様に見込まれてしまったら、もはや人ができることなどないのでしょう。

 

「よって件のごとし」

まさか宮部さんがゾンビの物語を書くとは思ってもいませんでした。地の底から這い出てくる腐れ鬼に嚙まれた者は、「ひとでなし」というゾンビになってしまうようです。これはもう「バイオハザード」の世界ですね。しかしそれは別の世界で起きたこと。普通は凍らない夜見ノ池に氷が張るほどに寒い夜、池の底は異世界と繋がるようです。救いを求めてきた少女を助けるために、池の底へと潜って異世界にたどり着いた勇猛な男たちは、終わりのない災いに巻き込まれてしまいました。彼らはそこから脱出できたのでしょうか。

富次郎がしばらく「百物語」を休むことにしたのは、おちかの出産に障りがあるような話を避けるためだったのですね

 

2024/4