シリーズ第8巻『よって件のごとし』の前に第9巻である本書を読んでしまいましたが、個別の物語が中心ですので、全体の進展に多少前後が出ても問題ない・・と思いたいものです。
「青瓜不動」
従妹のおちかの出産まで「百物語」の封印を決意していた富次郎でしたが、無事な出産のためにも聞いて欲しい物語とのことで例外を許しました。それは望まれない子を流さざるを得なかった女性が庵主となって、不幸な母や子に居場所を提供するに至る物語。子を象徴する青瓜や猪のうりんぼたちを、大百足から護るために夢の中で奮戦した富次郎は、おちかの出産の役に立ったのでしょうか。おちかが無事に産んだ娘は、小梅と名付けられました。
「だんだん人形」
三島屋を継ぐために奉公先から戻ってきた伊一郎は「百物語」の継続に難色を示しているようですが、お得意さんからの依頼とあっては断れません。語り手が祖父から聞いたという話は、店の初代である曾々祖父が国元で体験した悲惨な物語でした。味噌と土人形が名産の村を恐怖に陥れた代官の悪事を城下の役人に伝えるために村を脱出した初代でしたが、村人たちを救うには間に合いませんでした。しかし彼は、4度命を守ってくれるという武者姿の土人形を不幸な娘から受け取ったのです。
「自在の筆」
百物語を絵にして封じていた富次郎はまだ、絵師となる夢を諦めてはいなかったのでしょうか。そんな彼が聞くことになったのは、人に才を与える自在の筆の物語でした。しかしその筆は、周囲の者たちの生気を吸い尽くす魔物だったのです。そんな話を聞いた富次郎は、絵筆を折って自分の将来と本気で向き合う決断を下したのですが・・。。
「針雨の里」
火山の中腹にある森の中の奇妙な村は、人ならざる者が住まう所でした。その村を滅ぼすことになったのは、噴火だったのでしょうか。それとも人々を穴だらけにしてしまうという針雨なのでしょうか。この物語を聞いた富次郎の心は「描きたい」との気持ちに突き動かされるのでした。はたして彼は自分の気持ちにどう向き合っていくことになるのでしょう。
2023/12