りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

夜哭烏(今村翔吾)

 

後に『塞王の楯』で直木賞を受賞する著者のデビューシリーズ「羽州ぼど鳶組」の第2弾です。第1作『火喰鳥』では、かつて人気火消であったものの故合って浪人暮らしをしていた松永源吾が、金も人もない出羽新庄藩の火消組の再建を依頼されてメンバー集めから始めた経緯と、狐火と名乗る放火魔との対決が描かれました。揃いの刺し子もなく古い襤褸をまとって現場に出ることからつけられた「ぼろ鳶組」の蔑称も、活躍が認められる中で尊敬と親しみを込めたニックネームに変わっています。

 

前巻のクライマックスとなった「明和の大火」から1年後、新庄藩の火消たちにも新しい揃いの刺し子が配られましたが、「ぼろ鳶組」の呼び名は定着したまま。しかし源吾をはじめとする個性的で有能なメンバーたちの人気は上がる一方で、今や江戸の火消番付にも名前が載るようになりました。それでも上には上があるのので、人気実力ともにナンバーワンと誰しもが認めるのが、「八咫烏」の異名を持つ大音勘九郎に率いられる加賀藩の火消組。四千五百石取りの大身の武士ながら好漢の大音は、「ぼろ鳶組」の実力と気風を大いに認めてくれてもいます。

 

しかしそんな大音に卑劣な罠が襲い掛かります。かつて狐火を操った一味は、江戸の有力火消組の身内を人質に取って活動を押さえ込んだうえで火付けをするという悪辣な手段を取り始めていたのですが、大音家の一人娘が攫われてしまったのです。家族を諦めようとする勘九郎に対し、松永源吾と「ぼろ鳶組」は、大音一家を救い、卑劣な敵を止めるために奮戦するのですが・・。

 

大罪である火付けを煽っている黒幕の正体や目的も明らかになっていきますが、おいそれと手が出せる相手ではなさそうです。源吾らの後ろ盾となってくれている田沼意次ですら、今のところは防戦一方なのですから。今までありそうでなかった江戸火消たちを主人公とするシリーズには著者も愛着が深いようで、これまで13巻が刊行されています。まだ読み始めたばかりですが、とにかく面白いので、一気読みしてしまいそうです。

 

2023/12