りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017-01-01から1ヶ月間の記事一覧

2017/1 また、桜の国で(須賀しのぶ)

ライトノベル作家から出発した須賀しのぶさんは、2013年には『芙蓉千里』三部作でセンスオブジェンダー賞大賞受賞、2016年には『革命前夜』で大藪春彦賞受賞・吉川英治文学新人賞候補となり、近刊の『また、桜の国で』では堂々の直木賞候補に挙げら…

空海(高村薫)

『新リア王』や『太陽を曳く馬』で、青森に君臨した衆院議員・福澤榮が晴子との間に設けた婚外子・彰之を僧侶としてしまった著者が、仏教信仰を意識した契機は、1995年の阪神淡路大震災だったそうです。それまで近代理性によって生きていた著者は、それ…

Boy's Surface(円城塔)

すでに複雑系作家(?)としての名声を轟かせている著者の、『Self-Reference ENGINE』に続いて2008年に刊行された第2作品集です。テーマは「恋愛」のようですが、どうしてこんなにわけのわからないことになってしまうのでしょう。 「Boy's Surface」 …

ロード・トゥ・パーディション(マックス・A・コリンズ)

アメリカ版「子連れ狼」とでもいうべき内容の本書は、2002年に映画化されています。 禁酒法と恐慌でマフィア勢力が力を増した1930年代。舞台となるロックアイランドは、シカゴから西に300kmほどのアイオワ州との州境にある町。妻と2人の息子と…

夜の虹彩(瀬名秀明)

出版芸術社の「ふしぎ文学館」から出版された本書は、幻のデビュー作「翳りゆくさき」から2013年時点での最新短編「擬眼」までを含む、未収録作品集です。3部構成になっていて、第1部「果てしなき闇」がホラー、第2部「鉄人の夜」がオマージュ、第3…

利休の闇(加藤廣)

『信長の棺』で、信長の遺体が消えた謎から秀吉の陰謀説を紡ぎあげた著者が、利休自刃の謎に迫ります。かつて太田牛一の「信長公記」の謎を解き明かした著者は本書の執筆に際して、利休のライバルであった津田宗及、今井宗久という2人の茶人が残した「茶会…

彩は匂へど(田牧大和)

『酔ひもせず』の続編というより前日譚ですね。前作の「吉原遊女の連続失踪事件」が「其角と一蝶」の最後の事件なら、本書は2人が出会ってすぐに起こった最初の事件です。 人気絵師で吉原の幇間でもありながら、家綱の生母・桂昌院との因縁から心の傷を持っ…

酔ひもせず(田牧大和)

副題は「其角と一蝶」。同時代に生きた俳人・宝井其角と、絵師・英一蝶は、実際に深く交流していたようです。其角が狂雷堂、一蝶が狂雲堂という別号を持っていたことからも、そのことはうかがい知れますね。この2人は、夢枕獏の『大江戸釣客伝』にも登場し…

ノボさん(伊集院静)

『坂の上の雲』では秋山真之との交流を中心に描かれた正岡子規ですが、もちろん彼の本分は創作と文学論です。「正岡子規と夏目漱石」との副題を持つ本書は、2人の友情と交流から多方面に渡る日本の近代文学が立ち上ってくる様子を描いた作品です。 松山から…

岳飛伝 16(北方謙三)

「ラス前」の第16巻では、最初から最後まで激しい戦闘が行われます。北の金国内では、海陵王と兀朮の軍に対して梁山泊軍が対峙。南宋では、首都・臨安を目指す岳家軍と秦容軍の前に、ついに程雲が姿を現します。南宋水軍は南方の小梁山を狙う一方で、梁山…

異国の出来事(ウィリアム・トレヴァー)

アイルランドの短編の名手でノーベル文学賞の候補にも挙がった著者が、本年11月20日に88歳で逝去されたそうです。ご冥福をお祈りいたします。本書は、著者には珍しい「外国」を舞台にした作品からなる短編集です。 「エスファハーンにて」 旅先で出会…

スキャナーに生きがいはない(コードウェイナー・スミス)

1950年に発表された第1短編「スキャナーに生きがいはない」に始まる「人類補完機構シリーズ」と名づけられた連作短編を、可能な限り「未来史上の年代順」に並べ直した作品です。大半は『第81Q戦争』で既読でしたが、あらためて読んでみました。宮崎…

隣りのマフィア(トニーノ・ブナキスタ)

覚えがあると思ったら、2013年に米仏合作映画「マラヴィータ」として映画化された作品でした。監督がリュック・ベッソンで、ロバート・デ・ニーロとミシェル・ファイファーが夫婦役というのですから、豪華なもの。出張中の機内で見ていたのですが、映画…

GOSICK 2 その名は罪もなき(桜庭一樹)

第一次大戦後のヨーロッパの架空の小国ソヴュールを舞台にして、ホームズ役のゴスロリ少女・ヴィクトリカと、ワトソン役の東洋からの留学生・久城一弥が活躍する「ゴシック・ミステリ」の第2作です。『第1作』で謎とされていた、ヴィクトリカの出生の秘密…

GOSICK(桜庭一樹)

時代は1924年。舞台はヨーロッパの架空の小国ソヴュール。どうやら、フランスとイタリアの間に海岸を有し、内陸部はスイスとも接しているという細長い国のようです。極東の島国から聖マルグリット学園に留学してきた帝国軍人一家の三男・久城一弥が、図…

煉瓦を運ぶ(アレクサンダー・マクラウド)

聞いたことがあるような名前と思ったら、著者はアリストア・マクラウドの長男だそうです。カナダのケープ・ブレトン島を舞台にした作品を書き続けた父親に対し、息子が綴るのは、自身が育った地であるオンタリオ州の斜陽化しつつある工業地帯です。父親と同…

空に牡丹(大島真寿美)

18世紀ベネチアでのヴィヴァルディと孤児院の女性たちとの交流を描いた『ピエタ』でデビューした著者による、花火に魅せられた明治期の男の物語は、どこか現実離れした雰囲気を漂わせています。 主人公の静助は、江戸近郊の村の大地主の次男として生まれな…

ハイ・ライズ(J.G.バラード)

1970年代後半に書かれた、バラード中期の傑作です。舞台はロンドン中心部に近い都市開発地域に聳え立つ40階建ての巨大住宅。1000戸2000人が居住していて、マーケット、プール、体育施設、銀行、学校まで備えた独立世界を形成しています。そこ…

ミスター・ミー(アンドルー・クルミー)

「Mr.Mee」という不思議なタイトルですが、「Me」の変形バージョンである造語に、小説でよくある「書き手でも登場人物でもある私」という意味が込められているようです。 18世紀のフランスでディドロやダランベールが編纂した「百科全書」の影に埋…

書店ガール5(碧野圭)

シリーズ第5作では取手駅構内の書店の店長に抜擢された彩加が主役を務めますが、吉祥寺の大書店と取手駅ナカの小規模店では勝手が違うようです。小さいながら特徴ある店にしたいと意気込んで並べた文学本の売れ行きは悪く、バイト店員たちの心も掴めずに苦…

書店ガール4(碧野圭)

ドラマ化されたTV番組の視聴率は冴えなかったようですが、知名度がアップした原作は売れ始めたようで何よりです。新興堂書店の東日本統括エリアマネーカーとなった西岡理子と、本部のマーチャン・ダイジング部勤務となった小幡亜紀に代わって、シリーズ4…

また、桜の国で(須賀しのぶ)

新年1作目のレビューは、2016年下半期の直木賞候補に選ばれた、元気のいい作品から始めましょう。『神の棘』ではナチス時代の宗教者、『革命前夜』ではベルリンの壁崩壊前後の東ドイツへの音楽留学生を主人公として、歴史の変動期における個人の生き方…