りぼんの読書ノート

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空に牡丹(大島真寿美)

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18世紀ベネチアでのヴィヴァルディと孤児院の女性たちとの交流を描いたピエタでデビューした著者による、花火に魅せられた明治期の男の物語は、どこか現実離れした雰囲気を漂わせています。

主人公の静助は、江戸近郊の村の大地主の次男として生まれながら、両国で見た打ち上げ花火に魅了されて、先祖代々受け継がれてきた資産の大半をつぎ込んでしまうに至ります。それだけの物語なのですが、見ようによっては少々足りない静助の飄々とした一途さを際立たせているのは、周囲の人物が変化していく様子です。

名主の地位を失ったものの、村議となって生涯を全うした父親の庄三郎。彼の後妻で、自分の趣味から東京に洋服店を開いてしまった母親の粂。旧家の跡継ぎでありながら都会を好み、やがて失踪する腹違いの兄の欣市。東京の洋服店で働き始めて、事業を拡大させた親友の了吉。後に兄と結婚することになる、幼馴染みの琴音・・。

大きく変化した時代の中で静助が趣味を全うできたのは、周囲の人々のおかげともいえるのですが、彼はそんなことを意識もしなかったのでしょう。ただただ綺麗なものを作り上げたいと願い、その夢を実現させるために傾けさせるほどの財産を持ち、しかも周囲から愛された男の物語は、「日本昔話」の童話のようです。

2017/1