りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

道連れ彦輔居直り道中(逢坂剛)

徳川11代将軍・家斉の時代。旗本の3男である鹿角彦輔の稼業は「道連れ」です。女子や年寄りが遠出をする折りに無事に行き帰りできるように付き添う仕事で、要するに用心棒。今回の仕事は、目付の要職に就いている旧友から依頼された、さる武家の娘・菊野を京まで送り届けること。

 

しかしこの依頼の詳細は告げられず、どうやらいわくがあるようです。美少女ながら若侍姿の菊野は口がきけず、どうやら剣の腕も確からしいのですが、正体は最後まで明かされません。どうやら道中で危険な目に遭う可能性が高いというのに、東海道ではなく中山道で行くようにという条件までついています。不審なことばかりなのですが、破格の礼金に目が眩んだ彦輔は仕事を受けてしまいます。道中を共にするのは、彦輔の子分格の藤八、彦輔の友人で女流川柳師の勧進かなめ、菊野の侍女である大年増のりく。かくして美少女の正体というミステリ要素を含む、中山道を行くロードノヴェルが始まります。

 

中山道の旅が宿場ごとに丁寧に描かれていきます。板橋宿を出て荒川を渡る戸田からは浦和、大宮、上尾、桶川、鴻巣、熊谷、深谷と続く埼玉県の宿場町。高崎、安中、妙義、下仁田経由で碓氷関所と碓氷峠を超え、群馬県から長野県へと入っていきます。難所の和田峠を越えて下諏訪からは中山道本道と伊那街道に別れて馬籠宿へ。中山道はこの後も関ケ原を越えて大津まで続くのですが、本書の物語は馬籠宿で大団円を迎えます。

 

丁寧は道中描写は旅情を誘い。浮世絵風のカラー挿絵は風情を感じさせてくれます。菊野を付け狙う謎の侍たち、スリリングな関所越え、追い剥ぎや野盗集団の襲撃と次々に見せ場が登場した末に、大どんでん返しの謎解きが用意されているのは、さすが熟練の技ですね。シリーズ3作目だそうですが、本書だけでも問題なく楽しめます。未読である前2作も遡って読みたくなりました。

 

2024/4