りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

2023/8 Best 3

1.ボーン・クロックス(デイヴィッド・ミッチェル) 1984年夏、ごく普通の娘にすぎないホリーは、母との喧嘩で家出したある日、謎めいた老婆と出会って不思議な約束を交わします。その後、1991年には学生ラムが、2004年にはジャーナリストのエ…

三体0 球状閃電(劉慈欣 リウ・ツーシン)

「三体シリーズ」の前日譚のようなタイトルですが、直接の繋がりはありません。本書で扱われる「球状の雷」 が『三体2 暗黒森林』に登場するひとつの作戦の背景理論になっていることと、本書の後半に登場する若き天才物理学者の丁儀がシリーズに登場するく…

残された人が編む物語(桂望実)

本書に登場する「行方不明者捜索協会」のモデルは、似た名前のNPO法人なのでしょう。行方不明者の問題を社会的な問題の一つとして考えて、SNSを利用し低コストで行方不明者の情報収集・拡散を行う組織があるとのこと。本書は残された家族や依頼人に寄…

満洲国グランドホテル(平山周吉)

文藝春秋社で『諸君!』や『文學界』の編集長を務めた経歴を有する「昭和史の達人」が、満州国について記した作品です。ただし既に書き尽くされた感のある満州国の建国期と崩壊期は避け、満州国13年の歴史の中で比較的安定していた時期に焦点を合わせてい…

ええじゃないか(谷津矢車)

大政奉還前夜、史上最大の乱痴気騒ぎとされる「ええじゃないか」ななぜ起こったのでしょう。時代小説に新風を吹き込んだ著者が、新たな切り口で幕末の騒動を綴りました。 発端は三河国だったのでしょうか。伊勢の御師が撒いたお札をきっかけとして起こった臨…

地球の果ての温室で(キム・チョヨプ)

SF短編集『わたしたちが光の速さで進めないなら』で日本でも人気を博した韓国の若いリケジョ作家の長編が出版されました。コロナ禍の最中に書かれた本書には、滅亡の危機から立ち直った世界が描かれています。絶望の底にあってもくじけなかった人々は何を…

猫を棄てる(村上春樹)

村上春樹さんの小説にはしばしば戦争の描写が登場します。『ねじまき鳥クロニクル』のノモンハン事件や、『騎士団長殺し』の父親の戦争体験などですが、その背景には、中国大陸で従軍した実父・千秋さんから継承した疑似戦争体験があったようです。本書は、…

吾輩は猫画家である(南條竹則)

『酒仙』で1993年に日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、中国関連の幻想小説やグルメ小説を書いている著者ですが、実はれっきとした英文学者です。その一方で猫好きでもある著者が、19世紀末の英国で「猫絵描き」として有名だったルイス・ウェ…

プロジェクト・ヘイル・メアリー 下(アンディ・ウィアー)

「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の目的は、光エネルギーを貪って繁殖する宇宙生命体アストロファージから太陽を救うこと。その手がかりを求めて人類は、アストロファージの影響を免れている恒星タウ・セチに向けて恒星間宇宙船を送り出します。しかし全…

プロジェクト・ヘイル・メアリー 上(アンディ・ウィアー)

火星にひとり残された人間のDIY的サバイバル生活を描いた『火星の人』や、月面基地でのミッション・インポッシブルを描いた『アルテミス』の著者の新作は、地球の存亡をかけた大プロジェクトでした。タイトルの「ヘイル・メアリー」とは「アヴェ・マリア…

太陽・惑星(上田岳弘)

2015年に芥川賞候補作となった「惑星」と、著者のデビュー作である「太陽」を収録した1冊です。それぞれが独立した作品であり、テーマも微妙に異なっているものの、両作品ともに「人類の進化が行き着く先」を斬新な視点から描いているのです。 「太陽」…

後悔の経済学(マイケル・ルイス)

統計重視の野球理論『マネーボール』や、リーマンショックの顛末『世紀の空売り』などで知られる著者が綴った「認知心理学」の誕生物語。「人間の直感はなぜ間違うか?」という命題を突き詰めて、あらゆる学問の常識を覆した、2人の天才心理学者の共同研究…

香君 下 遥かな道(上橋菜穂子)

虫害に強いオアレ稲を食い荒らす害虫オオヨマが発生。奇跡の作物であるオアレ稲に過度に依存している世界に、崩壊の時が迫っています。遥か昔にこの稲を神郷からもたらしたという香君の名を継ぐオリエと、植物が発する声なき声を香りとして聴く能力を持つア…

香君 上 西から来た少女(上橋菜穂子)

日本を代表するハイ・ファンタジー作家の新作は、植物の物語でした。タイトルの「香君」とは、語らない植物が発する声なき声を、香りとして聴く能力を持つ活神のこと。 物語の舞台となるウマール帝国は、遥か昔に初代「香君」がもたらしたとされる奇跡の稲「…

半沢直樹 アルルカンと道化師(池井戸潤)

半沢直樹シリーズの第5作ですが、主人公が大阪西支店の融資課長に就任直後の物語なので、第1作の『オレたちバブル入行組』より前のこと。 半沢が融資を担当している美術系出版舎・仙波工藝社は業績低迷中であり、新規融資を受けなければ社の存続が危ぶまれ…

老神介護(劉慈欣 リウ・ツーシン)

今や中国を代表するのみならず、世界的なSF作品となった「三体シリーズ3部作」の著者による短編集であり、同時発売された『流浪地球』の姉妹編にあたります。タイトル作はケン・リュウ編の中国SFアンソロジー『折りたたみ北京』に「神様の介護係」とし…

るん(笑)酉島伝法

スピリチュアルと科学が逆転した「ユートピア・ニッポン」の笑撃は凄まじい。しかしそこは恐怖の世界でしかありません。気の流れに免疫力、蛇憑きに生霊信仰、、星座や干支や血液型や水晶玉、血縁より心縁、思考盗聴、そして龍の存在。普通の主婦である真弓…

ロスト・ケア(葉真中顕)

2012年の日本ミステリー文学大賞・新人賞を受賞した社会派小説です。テーマは介護殺人であり、献身的な介護職人が42人もの高齢者を殺害していたという衝撃的な事件。もちろん許されない大罪なのですが、現代日本ではそれを単純に断罪できない部分があ…

メアリ・ジキルと怪物淑女たちの欧州旅行2ブダペスト篇(シオドラ・ゴス)

19世紀末のロンドンで淑女たちが結成したアテナ・クラブのメンバーは、メアリ・ジキル、ダイアナ・ハイド、ジュスティーヌ・フランケンシュタイン、キャサリーン・モロー、ベアトリーチェ・ラパチーニ。彼女たちは、父親に囚われたルシンダ・ヴァン・ヘル…

メアリ・ジキルと怪物淑女たちの欧州旅行1ウィーン篇(シオドラ・ゴス)

人体改造医学や錬金術が突出して発達していた19世紀末のロンドンで、妖しい技によって生み出された娘たちの冒険を描いた3部作の第2作。登場するのはジキル博士の娘である淑女メアリと、ハイド氏の娘で野生児ダイアナの異母姉妹。ラパチーニの娘で毒を持…

年年歳歳(ファン・ジョンウン)

韓国で2020年に「小説家50人が選ぶ今年の小説」第1位に選ばれた作品は、韓国の女系家族の物語でありながら、家族を越えた広がりを見せてくれるようです。 物語の中心にいるのは、1946年に38度線近辺で生まれたイ・スンイル。幼い頃に朝鮮戦争で…

プリンス(真山仁)

物語の舞台は、国際社会からの圧力によって大統領選挙が実施されることになった、東南アジアの軍事政権国家です。メコン共和国という架空国家とされていますが、ミャンマーをベースし、他の独裁国家での事例を織り込んで形作られているようです。 大統領候補…

古いシルクハットから出た話(アヴィグドル・ダガン)

1912年にプラハで生まれたユダヤ系の著者は、ナチスドイツの侵攻と社会主義政権の誕生によって、1949年にエルサレムに渡りました。イスラエルの外交官として世界各国に駐在した後に、19777年に引退して文筆業に専念。本書は著者が、日本、ビル…

ボーン・クロックス2(デイヴィッド・ミッチェル)

全6章からなる本書は、ホリー・サイクスというイングランド生まれの女性の生涯をたどる形で進行しています。第1章は彼女が15歳の時の不思議な体験。第2章はスイスで20代のホリーと遭遇した学生ヒューゴが巻き込まれた運命。第3章はホリーと結婚して…

ボーン・クロックス1(デイヴィッド・ミッチェル)

『クラウド・アトラス』の著者による壮大なファンタジーは、世界幻想文学大賞を受賞していますが、ブッカー賞にもノミネートされているように、ジャンルを超えて楽しめる作品でした。1984年から2043年にかけて、イングランド、スイス、イラク、中国…

宗歩の角行(谷津矢車)

江戸時代の将棋の家元である大橋家、大橋分家、伊藤家の御三家の出ではないため、当時世襲制だった名人には推挙されず、段位も7段までしか上がらなかったものの、天野宗歩の実力は他に抜きんでていたようです。あの羽生九段も「歴史上一番強い棋士」のひと…