りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

2012/11 世界の99%を貧困にする経済(ジョセフ・E・スティグリッツ)

アメリカ大統領選は民主党の勝利に終わりましたが、富裕層への恩恵こそが社会の活力を増すと主張してきた共和党との対立点は明快でした。とはいえ現在のオバマ政権の政策ですら、高齢層へのメディケア導入を除けば、「世界の99%を貧困にする経済」からの…

無声映画のシーン(フリオ・リャマサーレス)

『狼たちの月』や『黄色い雨』の著者による自伝的な要素を含む作品です。 著者が少年期の12年間を過ごした鉱山町オリェーロスの記憶が、母が大事にしまっていた30枚の写真によって呼び覚まされたというのですが、ここでは自伝とフィクションの境界はすで…

県庁おもてなし課(有川浩)

高知県出身の著者が「高知県観光特使」に選ばれたことをきっかけとして、故郷に送ったエールです。 観光立県を目指す高知県の県庁に生まれた新部署「おもてなし課」の若手職員の掛水は、観光特使就任を依頼した地元出身の作家・吉門から一喝されます。特使就…

窓の向こうのガーシュウィン(宮下奈都)

未熟児として生まれたせいか、普通の会話も苦手で他人とは距離をとり続け、ずっと欠落感を抱えて19年間生きてきた佐古は、介護の資格を取ったもののうまくこなせず、あちこちで担当を替えられていました。 そんな佐古がはじめて居心地の良さを感じた場所は…

廃墟建築士(三崎亜記)

『となり町戦争』以来、独特の感性に基づくミステリアスな小説世界を築き上げている著者による中篇小説集です。このひとの作風は、非日常の世界を日常感覚で描き出すところにあるのですが、いずれも「建物」をテーマにした本書の作品でも、その特徴は健在で…

青葉耀く(米村圭伍)

「平成の講談師」を自認する著者の新作は『退屈姫君シリーズ』や『紅無威おとめ組』シリーズと比較して、しっとりた語り口で綴られています。それもそのはず、本書のテーマはかなりリアリスティックなのですから。あくまで他の作品との比較において・・なん…

LOVE&SYSTEMS(中島たい子)

デビュー作『漢方小説』以来、自分自身をモデルにしたかのような等身大の女性を描いてきた中島さんによる、なんと「近未来SF小説」です。といっても、宇宙人やタイムマシンが出てくるわけではありません。少子高齢化問題に対応するために変貌してしまった…

虚像(メディア)の砦(真山仁)

『ハゲタカ』シリーズによって世界標準から孤立した日本の商慣習にメスを入れた著者が、日本におけるメディアの問題を、報道とバラエティという2つの側面から問いかける小説です。 主人公は民放キー局の報道番組ディレクター風見と、バラエティー番組プロデ…

ジャンヌ・ダルク暗殺(藤本ひとみ)

英仏百年戦争末期に登場してフランスを救った悲劇の聖女ジャンヌ・ダルクを描いた小説は数多いのですが、本書は同名の娼婦ジャンヌを主人公として、神の声に従う処女と将軍たちの関係を描き出した作品です。 神の意思を疑わない敬虔な騎士がアジャンクールの…

ロサリオの鋏(ホルヘ・フランコ)

本書は『パライソ・トラベル』の前段的な作品といえるでしょう。著者が扱うテーマとしても、コロンビアの若者たちがアメリカに恋焦れる背景としても・・。 本書は、銃撃された女性ロサリオが語り手によって病院に運び込まれるところから始まります。この文章…

マンチュリアン・リポート(浅田次郎)

清朝末期の西太后を主人公に据えた『蒼穹の昴』と満州の英雄・張作霖が長城を超えるまでを描いた『中原の虹』に続くシリーズ第3弾は、昭和天皇の密使が張作霖爆殺事件の謎に迫る作品となっています。 本書では、天皇の密使となった志津中尉が調査結果を報告…

ブラバン(津原泰水)

1980年に入学した広島県の高校で吹奏楽部に入った主人公が、25年ぶりにバンドを再結成させる物語ですが、物語の重点は高校時代のエピソードに置かれています。基本的には青春回顧小説ですね。藤谷治さんの『船に乗れ』に近いものを感じます。 コントラ…

末裔(絲山秋子)

帰宅したら鍵穴が消えていたという奇妙な理由で、誰も居ない家から閉め出されてしまった定年間近の男は、それ以前に「家族」も失っていました。妻は4年前に病死し、嫁の言いなりの息子は実家に寄り付かず、娘は家を飛び出してしまった後は、毎日が一人暮ら…

恋肌(桜木紫乃)

『ラブレス』と『ワン・モア』でブレークした桜木さんの初期短編集です。北海道を舞台にダメンズたちと出会いながらも逞しく生きる女性たちの物語群には著者の原点を見る思いがしますが、当時はまだ「新官能派作家」などと呼ばれていたんですね。 「恋肌」 …

世界の99%を貧困にする経済(ジョセフ・E・スティグリッツ)

1990年代代半ばにアメリカの経済政策運営に携わり、世界銀行の上級副総裁などを務めた後に2001年度のノーベル経済学賞を受賞した経済学者が著した「1%の1%による1%のための政治」を批判する警鐘です。アメリカ社会の不平等に抗議した2011…

魔法泥棒(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ)

ジブリアニメの原作となった『魔法使いハウルと火の悪魔』の著者による「大人向きのファンタジー」です。かなり色っぽい作品ですので。 地球のもろもろの技術が異世界にこっそり盗みとられていることが判明し、魔法使い評議会のメンバーは異世界襲撃隊を送り…

バナナ剥きには最適の日(円城塔)

難解さというよりシュールすぎてわかりにくい作品をつむぎ続ける著者の、「どちらかというとわかりやすく、そのくせ深い」9作の短編を収録した本ということになっています。ただ私としては『これはペンです』や『道化師の蝶』のほうがわかりやすかったと思…

武器よさらば(ヘミングウェイ)

著者自身の、第一次大戦時に従軍記者としてイタリア北部戦線に滞在した体験をもとにした作品です。当時のヘミングウェイ本人を主人公とした物語が、クリス・オドネルとサンドラ・ブロック主演の「ラブ・アンド・ウォー」として映画化されています。 ストーリ…

サイバラバード・デイズ(イアン・マクドナルド)

2047年のインドを舞台にしたSF短編の連作です。 温暖化によってモンスーンは途絶え、水をめぐる争いから分裂したインド亜大陸では、AIや遺伝子操作などのハイテクが繚乱する一方で、男女比率はアンバランスとなり、カースト制もヒンズー教もクリケッ…

ほそ道密命行(田牧大和)

「芭蕉密偵説」を逆手に取った作品です。本書では、芭蕉本人は密偵でも忍者でもなく、芭蕉の影響力を恐れたり利用しようとしたりする勢力に付きまとわれたという設定。 時は徳川5代将軍・綱吉の時代。生類憐みの令に反旗を翻す水戸光圀公に対して、側用人・…

カラマーゾフの妹(高野史緒)

『カラマーゾフの兄弟』に「13年後の物語」という第二部の構想があったことはよく知られていますし、それは「テロリストとなったアリョーシャがコーリャら少年たちと皇帝暗殺をもくろむ物語」になったであろうとの大胆な憶測も、今では一般的な解釈でしょ…