りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ほそ道密命行(田牧大和)

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芭蕉密偵説」を逆手に取った作品です。本書では、芭蕉本人は密偵でも忍者でもなく、芭蕉の影響力を恐れたり利用しようとしたりする勢力に付きまとわれたという設定。

時は徳川5代将軍・綱吉の時代。生類憐みの令に反旗を翻す水戸光圀公に対して、側用人・柳沢保明が仕掛けた罠とは、芭蕉に密命を下したと見せかけて囮とすることでした。水戸家が芭蕉とにちょっかいを出したら、かえってそれを咎めようという意趣が働いていたのです。芭蕉に従う門人の曾良も路通も、ついでに一行についてきた犬の梅丸も各勢力から送り込まれたスパイだったというのですから、念の入ったもの。

ところが途中から話がおかしくなってきます。ひとつは門人たちが芭蕉の人柄に惚れてしまい、スパイ役を果たさなくなってしまったこと。もうひとつは柳沢の陰謀が漏れそうになり、証拠を消すための荒療治に出てきたこと。曾良も路通も梅丸も、芭蕉を守るサイドに立って奮戦するのですが・・。

訪問地で詠んだ句が、事件と関わる裏の意味を持っているというあたり、よく考えたものです。
「深川」 草の戸も住替る代ぞひなの家
「千住」 行春や鳥啼魚の目は泪
「日光」 暫時は滝に籠るや夏の初
「黒羽」 かさねとは八重撫子の名なるべし(曾良
須賀川世の人の見付ぬ花や軒の栗
「仙台」 あやめ草足に結ん草鞋の緒
「塩釜」 夏草や兵どもが夢の跡(この句は平泉なんですけど理由があるのです)
「松島」 月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也・・(冒頭の文章ですね)

この著者は若い女性のはずですが、本当に上手です。時代もののエッセンスを取り込んで、意表を衝く物語を展開させる作風は、いつもながら楽しく読めます。三悪人続・三悪人の続きも早く読みたいなものです。

2012/11