りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

サイバラバード・デイズ(イアン・マクドナルド)

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2047年のインドを舞台にしたSF短編の連作です。
温暖化によってモンスーンは途絶え、水をめぐる争いから分裂したインド亜大陸では、AIや遺伝子操作などのハイテクが繚乱する一方で、男女比率はアンバランスとなり、カースト制もヒンズー教クリケット人気も根強く残っています。不思議な世界観に引き込まれること間違いなしの作品ですが、ラストがキブスンのモナリザ・オーバードライブ』と似すぎているのが、残念でした。

「サンジーヴとロボット戦士」 村を戦乱に巻き込んだのは、中性的な少年たちに操られる戦闘ロボットでした。ロボット操縦士に憧れたサンジーヴ少年が都会で見た、若き戦士たちの現実とは・・。

「カイル、川へ行く」 西欧から招かれた新国家建設のコンサルタントを父親に持つカイルの生活は、外国人居留地の中で完結していました。友人に誘われてはじめて居留地の外に出たカイルは、ヴァラナシの母なるガンガーで民衆の生活に触れて衝撃を受けるのです。叙情的な作品です。

「暗殺者」 新国家の支配権をめぐる内戦に敗北したジョドラ家にただひとり生き残ったパドミニは、勝者となったアザド家の一人息子サリムの求婚を受け入れるのですが、亡き父親が言っていた「お前は武器」という言葉の意味を知ることになります。未来インド版「ロミオとジュリエット」。

「花嫁募集中」 男女産み分けによって適齢期男性は女性の4倍となったインドでは、多くの男性にとって結婚は夢のまた夢。AIの指導に従って見合いをした男は、うまくいった手ごたえを感じたのですが、それはAI同士の恋愛だったのです。相手の女性もAIの指導を受けていたんですね。^^

「小さき女神」 冷酷な女神として祭り上げられるネパールの少女は、やがて成人すると平民に落とされる運命でした。誰もが彼女を怖がって結婚しようとしない中で、AIの密輸に携わりますが、頭の中に5つのAIを埋め込んだところで組織は壊滅。でも彼女はもう一人ぼっちではありません。頭の中に5人の悪魔を従えているのですから。

「ジンの花嫁」 人間を凌駕する能力と人間並みの知能を有する高レベルのAIは、新時代のジン(精霊)なのです。AIが非合法化される前夜、AI外交官ラオの求愛を受け入れたダンサーのラトーレは、クリシュナ・コップのスパイとなるよう強制されるのですが・・。抹殺されたジンは消えたのでしょうか。

「ヴィシュヌと猫のサーカス」 遺伝子操作が生み出した最上位カーストのブラーミンは、人間の2倍
の寿命と半分の成長速度を持つ新人類。全てを見た結果、全てを捨てたブラーミンのビシュヌが語るのは、これまで断片的に綴られてきたインド近未来史の全体像。そして起こった「聖なる場所ジョティルリンガの降臨」とは?

インドの近未来とは、「終わりをもたらす闇の女、カーリーの時代」なのでしょうか。カーリーは同時に、「再生を司る貴婦人」でもあるのですが・・。

2012/11