りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2022-10-01から1ヶ月間の記事一覧

2022/10 Best 3

1.夏(アリ・スミス) イギリスのEU離脱を契機に書き始められた「四季シリーズ」が、本書で完結。既刊3冊『秋』、『冬』、『春』は独立して読める小説ですが、本書では人物の再登場があり、残されていた4作すべてに登場する100歳の老人ダニエルが夢…

キンドレッド(オクテイヴィア・E・バトラー)

1979年に書かれた作品ですが、今なおリアリティを失ってはいません。物語はタイムスリップというSFファンタジー形式をとっていますが、根底にあるのは現在に至るまで解決していない人種差別問題です。 1976年当時の「現代」、カリフォルニアで白人…

僕の狂ったフェミ彼女(ミン・ジヒョン)

ミソジニー文化が深刻である韓国では、一部の男性にとって「フェミニズム」が絶対悪の代名詞のように思われているとのこと。日本でも似たような状況なのですが、一部のSNS以外ではそれを公言しにくい環境である分、まだマシかもしれません。本書はフィク…

やさしい猫(中島京子)

名古屋出入国在留管理局の施設に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが亡くなったのは2021年3月のことですから、2020年5月から1年間新聞に連載された本書とは直接の関りはありません。しかし本書は、現実に起こる事件を…

夏(アリ・スミス)

イギリスのEU離脱を契機に書き始められた「四季シリーズ」が、本書で完結しました。既刊3冊『秋』、『冬』、『春』は独立して読める小説ですが、本書では人物の再登場があり、残されていた謎も解決されるので最後に読んだほうが良いでしょう。 物語は、イ…

路上の陽光(ラシャムジャ)

チベット人小説家の作品は、これまで読んだことがなかったと思います。もっともチベット語による現代文学の創作活動が始まったのは1980年代と遅く、これまでほとんど日本に紹介されていなかったとのこと。中国による侵攻と弾圧、反乱の鎮圧、文化大革命…

獅子の門5 白虎編(夢枕獏)

ついに流派入り乱れてのトーナメントが幕を開けました。試合の中で闘いの楽しさを知る室戸武志。中国拳法をベースにしたスタイルで挑む加倉文平。哀しい眸をした竹智完。刃物のような笑みを絶やさぬ志村礼二。全身全霊で相手に向かう芥菊千代。 その一方で、…

獅子の門4 朱雀編(夢枕獏)

プロレス道場の練習生となった室戸武志は衝撃に見舞われます。尊敬する先輩の赤石が、異種格闘技戦でブラジル人柔術家にあっさりと敗れ去ってしまったのです。しかもそれを屈辱に感じた赤石らは、自らを鍛え直すためにそれぞれ武者修行の旅に出るというので…

獅子の門3 青龍編(夢枕獏)

世界を放浪する陳家太極拳の達人・羽柴彦六が見出した4人の少年たちは、それぞれに格闘家への道を歩みはじめました。同級生の加倉文平に敗れた志村礼二は、最凶の男・久我重明の非情な指導の下で力をつけたものの、既に正道を踏み外しているようです。空手…

ワーカーズ・ダイジェスト(津村記久子)

仕事や生活に疲れている30代男女の出会いの物語。大阪のデザイン事務所に勤務しつつライティングの副業もしている佐藤奈加子と、建設会社に勤務して東京と大阪を行き来している佐藤重信。偶然仕事で出会った2人は、互いに同じ年の1月4日生まれであるこ…

興亡の世界史10.オスマン帝国500年の平和(青柳正規編/林佳世子著)

「オスマン帝国」について、私たちはどのような印象を抱いているでしょうか。「トルコ民族が移動してきたアナトリアを拠点としてコンスタンチノープルをはじめとするヨーロッパ地域に侵入・征服したイスラム国家」というのが、おおかたの人々が抱いているイ…

アディ・ラルーの誰も知らない人生 下(V・E・シュワブ)

闇の神と取引してしまい、長い生命と自由を得たものの、誰の記憶にも残らない孤独な人生を歩んでいるアディ。そんな彼女がニューヨークで出会った青年ヘンリーは、たったひとり、彼女のことを憶えていてくれる人でした。アディはヘンリーと恋に落ち、求めら…

アディ・ラルーの誰も知らない人生 上(V・E・シュワブ)

1714年。フランスの小さな村で生まれ育ったアディは、広い世界に憧れ、運命の恋人との出会いを夢見る普通の少女でした。しかし意に染まない結婚を強いられて追い詰められたアディは、村の老女の教えを破って「日が暮れてから現れる古い神々のひとり」と…

獅子の門2 玄武編(夢枕獏)

「スーパーバイオレンス格闘小説」の第2巻では、世界を放浪する陳家太極拳の達人・羽柴彦六が、彼に強烈な印象を残した5人の少年たちと再会します。いや、初めの出会いから数年たっているので、もはや青年たちというべきでしょう。 海辺の町の孤独な少年だ…

獅子の門1 群狼編(夢枕獏)

1984年から2014年にかけて書き綴られた格闘小説です。「スーパーバイオレンス小説」とキャッチコピーがつけられたように壮絶な格闘シーン描写が特徴なのですが、それだけではありません。その格闘にはロマンを感じるのです。後に書かれた柔道創成期…

余部鉄橋物語(田村喜子)

『京都インクライン物語』や『北海道浪漫鉄道』をはじめとする、土木関係をテーマにしたノンフィクションを多数執筆した著者の遺作となった作品です。明治45年(1912年)に完成してから、平成22年(2010年)にコンクリート製の新余部橋梁に架け…

東京ロンダリング(原田ひ香)

変死事件などが起こった「訳あり」不動産物件に短期間入居して浄化するという奇妙な仕事は、実在しているのでしょうか。自分の浮気が原因で夫と離婚し、追い出されるように家を出てきた32歳のりさ子は、不動産屋に見込まれてしまいます。かなり切羽詰まっ…

死者の軍隊の将軍(イスマイル・カダレ)

世界的名声を博した東欧出身の小説家というと、反体制とか亡命というイメージがつきまといますが、1936年にアルバニアで生まれた著者は、人生の大半を祖国で暮らし続けました。しかも戦後のアルバニアに独裁体制を敷いたホジャ第一書記とは私的な親交も…

ブラック・ヴィーナス(アンジェラ・カーター)

著者の紹介に「イギリスを代表するマジック・リアリズムの旗手」とありましたが、本書を読んだ印象は「ブラック・ファンタジー」でした。もっとも現実と非現実のあわいを軽々と飛び越えることでは、両者に違いはないのですが。 「ブラック・ヴィーナス」 ク…

あのこは美人(フランシス・チャ)

著者は、中学・高校期を韓国で過ごした韓国系アメリカ人女性。著者自身の経験も基にして書かれた本書は、現代ソウルに生きる若くて美しい韓国人女性たちの日常を綴ったトレンディドラマです。もっとも美貌や才能に恵まれた女性であっても、平均以下の階層に…

漆花ひとつ(澤田瞳子)

平安末期、武士勢力の台頭を象徴する保元・平治の乱の時期。陰りゆく貴族階級の哀しみをテーマとする連作短編集は、直木賞受賞作家の得意分野だけあって、どれもが優れた作品に仕上がっています。しかもこの時代の背景まで自ずと学べてしまう特典までついて…

プロテウス・オペレーション(ジェイムズ・ホーガン)

第二次世界大戦の結果次第では、現在の世界は全く異なる様相を見せていたに違いありません。このテーマは多くのSF作家の興味を惹いたようで、先駆的な『高い塔の男(フィリップ・K・ディック)』から『ファージンシリーズ(ジョー・ウォルトン)』に至る…

失われた岬(篠田節子)

物語の舞台となっているカムイヌフ岬とは、知床半島のようなところでしょうか。ヒグマや原生林に阻まれて陸地からの接近は不可能な岬の先端に向かう手段は漁船のみ。それも海が荒れない夏場の一時期に限られていて、浜辺から上陸することも難しいのです。 そ…

ザリガニの鳴くところ(ディーリア・オーエンズ)

1952年。ノースカロライナ州の湿地帯の掘っ立て小屋に住んでいた貧しい家族が崩壊。戦前は資産家の娘だった母親が、戦傷年金しか収入のないDV夫に耐えかねて家を出ていったのが発端でした。年上の兄や姉たちが後に続き、6歳の少女カイアは何の世話も…

少年と犬(馳星周)

遥か昔に『信じられぬ旅』という本を読んだことがあります。ディズニーによって映画化された「三匹荒野を行く」のほうが有名かもしれません。詳細は覚えていませんが、主人と離れてしまったラブラドル犬が主人を追って北米の荒野を旅する物語。本書もまた、…

自転しながら公転する(山本文緒)

物語はベトナムでの結婚式の場面から始まります。ベトナム人の恋人と結婚する日本人女性は、固い決意を持って異国に移り住むことを決めたのです。一転して綴られていくのは、東京近郊のショッピングモールのアパレル店の契約社員として働いている女性の日常…