りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018-10-01から1ヶ月間の記事一覧

2018/10 腐れ梅(澤田瞳子)

2010年にデビューしてから、早くも2度も直木賞候補となった澤田瞳子さんが一皮剥けた感じです。どれも昨年刊行された作品で、半歩遅れて読んでいる感じですが、宮部みゆきさんや、桐野夏生さんや、ル・カレさんの新作を抑えて今月の1位とするにふさわ…

腐れ梅(澤田瞳子)

澤田瞳子版「北野天神縁起」ですね。平安時代中期、色を売って暮らしを立てている似非巫女の綾児は、似たような境遇ながら年増で不細工な阿鳥から、新興宗教を興して金儲けをしようと誘われます。40年ほど前に非業の死を遂げた菅原道真に目をつけ、往来で…

しゃばけ16 とるとだす

2001年に日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞を受賞した、事実上のデビュー作にして代表作である「しゃばけシリーズ」も、2017年の本書で16作。2作めからは1年1冊のペースでコンスタントに出版され続けている長寿シリーズになりました。 「とる…

ネヴァーランドの女王(ケイト・サマースケイル)

1900年に生まれて94年の生涯を奔放に生きた実在の女性、ジョー・カーステアズの伝記です。まずは、彼女の経歴を追ってみましょう。 ロックフェラーを助けてスタンダード石油を興した祖父から巨万の富を引き継ぎ、結婚と離婚を繰り返す美貌の母親とは不…

まほろ駅前狂騒曲(三浦しをん)

物語の舞台は、あきらかに著者が生まれ育った町田をモデルとしている東京南西部の大きな町。その駅前で便利屋を営む多田と、居候の行天という、2人のバツイチ男たちが騒動に巻き込まれるシリーズの第3弾は、完結編となったようです。 今回の騒動の発端は、…

スパイたちの遺産(ジョン・ル・カレ)

著者初期の傑作である『寒い国から帰ってきたスパイ』の背景にあった事情を、後に著された『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』にはじまる「スマイリー3部作」を踏まえた大きな背景の中で再構成した作品です。 視点人物は、英国情報部の「隠密セク…

ファミリー・ライフ(アキール・シャルマ)

1970年代にインドのデリーからアメリカに渡った家族と共に、異なる文化に馴染もうとしていた少年アジェにとって、名門校に合格した兄の存在は大きなものでした。しかしその兄が入学目前にしてプールの事故で脳を損傷。意識が戻らなくなってしまい、家族…

ぼくの兄の場合(ウーヴェ・ティム)

1940年にハンブルクで生まれた著者の自伝的作品は、家族の思い出を綴りながら、ドイツにおけるナチズムの記憶についても、大きな問題意識を投げかけました。 著者の16歳年上のカールは、ヒトラーユーゲントの教育に染まった世代の一員です。武装親衛隊…

デンジャラス(桐野夏生)

『ナニカアル』で林芙美子のダブル不倫を「創作」し、『In』で島尾敏雄・千代子夫妻の愛憎関係を描いた著者は、谷崎潤一郎が築いた「家族帝国」をどのように描いたのでしょう。 本書の語り手は、谷崎の3番目の妻・松子の妹で、既に寡婦となって谷崎と同居…

文盲(アゴタ・クリストフ)

『悪童日記』の著者が、自らの半生を綴った自伝です。もともと自伝的な要素を含む『三部作』と著者の実際の半生がどう異なっているのか、興味深く読みました。『昨日』の巻末に収録されているの来日記念公演「母語と敵語」と重複する点があるのは、出版と公…

微睡みのセフィロト(冲方丁)

『マルドゥックシリーズ』や『シュピーゲルシリーズ』の原型となった、著者の原点ともいえる作品です。 通常人である「感覚者(サード)」に対して、超次元的能力を持つ「感応者(フォース)」が登場した世界。人類を二分した破滅的な戦乱が終結して17年、…

海を照らす光(M・L・ステッドマン)

20世紀初頭の西オーストラリア。第1次大戦から帰国したトムは、「人々からも記憶からも充分に離れ」、灯台守となって孤島ヤヌス・ロックに赴任。最寄りの町で知り合った朗らかな妻イザベルと結ばれ、幸せを意識し始めた2人に転機が訪れます。 それはイザ…

鯖猫長屋ふしぎ草紙 3(田牧大和)

かつての義賊「黒ひょっとこ」で今は画描きの青井亭拾楽が、鯖縞模様が美しいオス三毛猫サバと移ってきた長屋を舞台とする、ちょっと不思議なお江戸ミステリの第3弾。たびたび霊感を発揮して長屋の危機を救ってきたサバはもはや人間よりも偉く、長屋の通称…

鯖猫長屋ふしぎ草紙 2(田牧大和)

かつての義賊「黒ひょっとこ」で今は画描きの青井亭拾楽が、鯖縞模様が美しいオス三毛猫サバと移ってきた長屋を舞台とする、ちょっと不思議なお江戸ミステリ。『前巻』で永代橋の崩落を予見して、長屋の面々を救ったサバは、長屋で一番偉い地位を獲得してい…

虐殺器官(伊藤計劃)

近未来、サラエボで発生した核爆弾テロを契機として、先進国は徹底した個人情報管理体制を構築してテロの一掃に成功したものの、後進諸国においては内戦や大規模虐殺が急激に増加。事態を重視したアメリカは、戦争犯罪人の暗殺を可能とする情報軍を新設する…

川の名前(川端裕人)

多摩川の支流が流れる地域に住む、小学5年生の少年たちのひと夏の物語。 両親が離婚した後、世界中を飛び回る有名な自然写真家の父に育てられた脩は、海外暮らしや転校が多かったことで、周囲からは羨ましがられるものの自分の居場所がないことを悩んでいま…

おまじない(西加奈子)

著者10年ぶりの短編集には、さまざまな人生の転機に思い悩む女性たちの背中をそっと押してくれる魔法のひとことを「おまじない」と呼んで、言葉の持つ力を再認識させてくれる作品が並んでいます。 「燃やす」 可愛い恰好をして性被害にあった少女に、母が…

どちらでもいい(アゴタ・クリストフ)

ハンガリー動乱の際にオーストリアに脱出し、スイスに定住しながらフランス語で、自己の体験を反映した名作『『悪童日記』』を現した著者の初期短編集です。 本書は著者が1970年代から1990年代前半にノートに綴った掌編、短編を25編集めた作品集で…

昨日(アゴタ・クリストフ)

「悪童日記3部作」の著者による第4の長編は、新たな変奏曲ともいうべき作品でした。これまでの作品が、リュカ/クラウスという双子の片割れが西側へと亡命する物語であったのに対し、本書は亡命先での物語。かつて「私は次には、自分の亡命体験を語れるの…

グーニーズ(ジェームズ・カーン)

スピルバーグが1985年に製作した同名映画の原作かと思ったら、映画のノヴェライズ本でした。映画が先だったわけです。 ゴルフ場開発計画によって、貧しい住民たちが追い出されそうになっている海辺の田舎町。「グーニーズ」と自称する少年たちは家族や仲…

この世の春 下(宮部みゆき)

現代でいう所の多重人格証を発症して実の父親である先代藩主を殺害した、前藩主の北見重興が藩主の別荘である五香苑に監監され、治療を受けていることは『上巻』で述べました。 重興の内に潜む人格は、彼自身の少年時代を体現するような怯える少年、彼があり…

この世の春 上(宮部みゆき)

下野北見藩の若き第六代藩主・北見重興が重病により隠居。しかしその実態は、多重人格症という心の病であり、重興は藩主の別荘である五香苑に監禁されることになりました。しかも藩政改革を推し進めて名君とよばれていた先代藩主は、息子の重興に殺害されて…

ヒトラーの描いた薔薇(ハーラン・エリスン)

今年の6月に亡くなった著者は、1934年にオハイオで生まれ、1960年代から70年代に欠けて実験的なSF作品を生み出したニューウェーブ運動を代表する作家であった一方で、当時のTVドラマの脚本も数多く手掛けた人物です。著者の作品を初めて読み…

これはこの世のことならず(堀川アサコ)

昭和初期の青森弘前を舞台にして、盲目のイタコの千歳と、東京モダンガールで元娼婦の幸代のコンビが、奇怪な事件の謎を解き明かしていく『たましくる 』の続編です。前作よりもオカルト度合はアップしていますね。 「魔所」 盲目の千歳に縁談が舞い込んでき…

たましくる(堀川アサコ)

タイトルの「たましくる」とは「魂来る」のこと。時代は昭和6年。都会では昭和モダンが昭和恐慌によって終止符を打たれようとしている頃ですが、青森弘前にはまだ前時代の雰囲気が漂っています。 情夫と無理心中を遂げた双子の姉が、以前交際していた男性・…

おとなしいアメリカ人(グレアム・グリーン)

まだフランス軍がベトナムに駐留しており、アメリカの介入が始まる前の1950年代のはじめ、ひとりのアメリカ人青年が無残な水死体となって発見されます。引退間際のイギリス人記者ファウラーは、その青年パイルと、美しい地元娘フウオングを争っていたも…