りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2013-10-01から1ヶ月間の記事一覧

2013/10 世界を回せ(コラム・マッキャン)

宮部みゆきさんの新作を連続して読みました。2作ともいつも通り見事な構成の物語ですが、どちらにも東北の飢饉が登場するのは、大震災への著者の思いなのでしょう。今月1位とした『世界を回せ』もまた、大災害をテーマとした作品です。9.11の同時多発…

失われた探険家(パトリック・マグラア)

「奇想コレクション」の一冊ですが、この著者の作風は「ポストモダン・ゴシック」とでもいうのでしょうか。要するにホラー系であり、少々苦手なジャンル。19編も収録されていますので、印象に残った作品だけ紹介しておきます。 「天使」 腐りゆく天使とい…

こいしり(畠中恵)

町名主の跡取り息子の高橋麻之助と悪友たちのお江戸青春ミステリー『まんまこと』の第2弾。 前作で「偽りの婚約」を交わした寿ずと結婚することになってしまった麻之助でしたが、祝言の日に、悪友・清十郎の父・源兵衛が卒中で倒れてしまいます。病床にある…

シガレット(ハリー・マシューズ)

ニューヨーク近郊に暮らす上流階級の男女13人の複雑な関係が、30年の時を往来しながら明かされていきます。「詐欺と絵画と変死」を巡る謎解きともなっていますが、主題は彼らの関係そのものでしょう。互いに愛し合い、恨み合い、依存し合い、傷つけあう…

名画を読み解くアトリビュート(木村三郎)

西洋の古典絵画に登場する「アトリビュート」とは、データ・ベースの属性ではありません。登場人物の属性として描かれる小道具のことであり、むしろアトリビュートによって登場人物が誰なのかを示す役割を果たしています。本書はアトリビュートについて解説…

暗き神の鎖(須賀しのぶ)

兄弟対決を制したバルアンが王位について1年。エティカヤの最高神オルが眠る聖なる山、オラエン・ヤムにバルアンとともに登った王妃カリエは、女性の地位が低いエティカヤでは前代未聞のヨギナ総督の地位を与えられます。さらに王子アフレイムを出産して、…

アイルランド短篇選(橋本槙矩/編訳)

18世紀から現代にかけてのアイルランド人作家による短編集です。ルネサンスも宗教改革も産業革命も中産階級の勃興も起きなかったアイルランドでは、長篇小説よりも「個々の生」を物語る短篇小説が発達したとのこと。本書にも収録されているオフェイロンは…

小説フランス革命11 徳の政治(佐藤賢一)

ロベスピエールと組んだダントンとデムーランに追い詰められたエベールは、みたびサン・キュロットに蜂起を呼びかけますが、戦局の好転と生活の安定が見えてきた折、政治的な理由ではパリは燃え上がりません。エベール派は捕えられて断頭台の露と消えること…

世界を回せ(コラム・マッキャン)

1974年8月7日の早朝。フランス人綱渡り師のフィリップ・プティは、マンハッタンのワールド・トレード・センターのツインタワーの間にワイヤーを張って、地上400メートルの高さを渡り切りました。しかし本書は彼の物語ではありません。彼への視線を…

フリーファイア(C.J.ボックス)

前巻『裁きの曠野』で猟区管理官の仕事から解雇されてしまったジョー・ピケットは、義母の再婚先の牧場で牧童頭を務めています。愛する家族と一緒に暮らせるものの、長年誇りを持って務めてきた仕事から離れたことには寂しさを感じています。そんな彼に、変…

まんまこと(畠中恵)

江戸は神田、玄関で揉めごとの裁定をする町名主の跡取りに生まれた麻之助を主人公とするシリーズは、「妖」こそ登場せず、主人公が青年であるだけに「恋バナがメイン」という違いこそありますが、大ヒット作「しゃばけシリーズ」の姉妹編のよう。やはり「大…

呪われた天使、ヴィットーリオ(アン・ライス)

「ヴァンパイア・クロニクルズ」に属する作品ですが、ここにはレスタトもルイもアルマンも登場しません。彼らとは接点のないまま600年もの間イタリアのトスカナで生き続けてきた孤独なヴァンパイアの物語。 ルネサンス期のトスカナ。地方領主の息子で、天…

泣き童子 三島屋変調百物語参之続(宮部みゆき)

「聞いて、聞き捨て。語って語り捨て」。神田の袋物屋「三島屋」を営む叔父夫婦のもとに身を寄せた娘おちかが怪異話を聞くようになったのは、自ら体験した哀しい事件からの癒しを求めてのことでした。宮部さんは「おちかが人の話を受け止められるほどに成長…

女神の花嫁(須賀しのぶ)

全27巻の大作「流血女神伝」の外伝は、「女神の花嫁」としてカリエを救ってきたザカールの美女ラクリゼの物語。もともと著者には、このシリーズをカリエとラクリゼのダブルヒロインで綴るとの構想もあったとのこと。 太古のザカリア女神の定めにより、ザカ…

書店ガール2(碧野圭)

『ブックストア・ウォーズ』は、いつの間にか『書店ガール』と改題されていたんですね。本書はその続編。前作で内輪もめと売上倍増の大決戦の末に閉店を余儀なくされたペガサス書店の店長・理子と、熱血ガール・亜紀は、吉祥寺の大手書店チェーンに転職を果…

僕僕先生7 童子の輪舞曲(仁木英之)

少女姿の仙人・僕僕先生と彼女に惹かれたニート青年の王弁が体験する不思議なロード・ストーリー。シリーズ第7弾は、これまでの6作の傍らで起きていた「外伝」的なエピソード集であり、過去6作の物語とキャラクターの紹介もついているナビゲートブックと…

彼岸過迄(夏目漱石)

「修善寺の大患」以降の漱石が著した「後期3部作」では、自意識を自覚するが故の近代人の苦悩が深まっていきます。本書のタイトルは1月1日に連載を開始した小説を彼岸過ぎまで書くつもりだったことに由来しているだけで特段の意味はなく、様式的にも短編…

イースタリーのエレジー(ペティナ・ガッパ)

アフリカ南部の国、ジンバブエに生きる人々の日常生活を描いた短編集です。かつてローデシアと呼ばれたアパルトヘイトの国は1980年に独立したものの、その後30年も居座り続ける大統領の悪政によって、天文学的なハイパーインフレとエイズの蔓延による…

善人長屋(西條奈加)

善い人ばかりが住むという千七長屋、通称「善人長屋」の住人は、裏家業を持つ悪党ばかり。差配の儀右衛門は盗品を捌く質屋。髪結い床の半造は情報屋。、季節物を売り歩く唐吉、文吉兄弟は美人局。小間物商いの安太郎は巾着切り。浪人の梶新九郎は偽証文師。…

神は死んだ(ロン・カリー・ジュニア)

極めてショッキングなタイトルは、あまりにも有名なニーチェの言葉ですが、本書の内容は「タイトルそのまま」。ディンカ族の若い女に姿を変えて南スーダンの難民キャンプに降臨した神は、冒頭の短編であっさり死んでしまうのです。人間たちの蛮行に対して見…

砂の覇王 9(須賀しのぶ)

全27巻の大作「流血女神伝」の第2部「エティカヤ編」の最終巻です。逃亡の旅の途中で罠にはまり、エティカヤ王国の第2王子バルアンの奴隷として売られたカリエの運命は、後宮の愛妾候補から死刑囚へ、男装の小姓から正妃へ、はたまた海賊から隣国の皇妃…

桜ほうさら(宮部みゆき)

関東の小藩で偽筆文書を証拠に汚職の汚名を着せられて切腹した武士の次男、古橋笙之介が、父親の汚名を晴らすべく奮闘する物語ですが、それだけには留まりません。「偽筆」を足がかりとして、人が「書くこと」への根源的な問いを扱った作品となっています。 …

キャピトルの物語(オースン・スコット・カード)

『神の熱い眠り』に続く「ワーシング年代記」の後半部分は2部構成になっています。 第1部は遥か過去に遡って、強大な権力を得たアブナー・ドーンが銀河帝国の破壊を望むようになるまでの物語。人工冬眠技術による「偽りの不死性」を手に入れた特権階級と、…

神の熱い眠り(オースン・スコット・カード)

「ワーシング年代記」の第一部は不思議な雰囲気で始まります。少年レアドが暮らす辺境の村は、苦痛も不幸も恐怖も病気も存在しない世界だったのですが、一夜にして特権は消え去り、「普通の村」になってしまいます。その朝村に現れた男は、伝説の神と同じ名…