りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017-12-01から1ヶ月間の記事一覧

2017 My Best Books

今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみました。 長編小説部門(海外) 鬼殺し(甘耀明)カン・ヤオミン上巻 下巻 日本による統治から中国国民党による支配への移行という動乱期を生きた台湾の少年は、なぜこの地に魂魄を残していた「鬼王」…

2017/12 スウィングしなけりゃ意味がない(佐藤亜紀)

徹底した歴史考証を背景に押しこめて余計な説明を排除する佐藤亜紀さんの新作は、期待にたがわず素晴らしい作品でした。文句なしに今月の1位とさせていただきます。 言語と小説が生まれる過程を考察した『プロローグ』は、もはやSFですね。ネットワーク化…

通い猫アルフィーの奇跡(レイチェル・ウェルズ)

飼い主の老婦人を亡くし、ひとりぼっちの野良猫になってしまったアルフィーは、帰る場所もなく空腹でさまよい続けたすえに、とある住宅地にたどり着きます。「二度と飢えたりしない」などとスカーレットのような決意をしたアルフィーは、飼い主をひとりに定…

北斎まんだら(梶よう子)

浮世絵の終焉を描いた『ヨイ豊』に続く絵画歴史小説の主人公は、晩年の北斎とお栄の父娘でした。この2人と深い関係があった渓斎英泉や、北斎の孫で問題児の重太郎を絡ませ、「絵師の業」を見届ける視点人物は高井鴻山こと三九郎。晩年の北斎を信州小布施に…

あきない世傳 金と銀 1(高田郁)

『みをつくし料理帖』の著者による新シリーズが始まりました。 摂津の田舎学者の父から「商は詐なり」と教えられた育った少女・幸が、聡明な兄と父の急死によって、大阪天満の呉服商「五十鈴屋」に奉公に出されます。慣れない商家で、人間扱いされない女衆と…

ブラックオアホワイト(浅田次郎)

急死した旧友の葬儀で久々に再会した都築から、自宅の高層マンションに招かれた「私」は、彼の不思議な物語を聞かされます。それは、夢が現実に絡み合う中で転落していった男の半世紀だったのです。 元満鉄理事だった祖父が遺した財産を持ち、バブル時代にエ…

書店ガール6(碧野圭)

大書店の店長・西岡理子と、熱血ガール・小幡亜紀の対決から始まったシリーズですが、『第4巻』からは理子の後輩である宮崎彩加が中心になっています。とはいえ理子も亜紀もポイントでは登場していますし、著者もこの2人の物語はまた書きたいとのこと。 本…

眠れる虎(ロザムンド・ピルチャー)

1924年生まれながら、開放的で芸術家も多いコーンウォールに生まれ育った著者の作品には、自由な価値観が溢れているようです。 生まれる前に父を戦争で失くし、 出生と同時に母を失くして、ロンドンで厳格な祖母に育てられたセリーナは20歳。今また祖…

アンマーとぼくら(有川浩)

3日間の休暇を取って久しぶりに沖縄に帰郷し、母親と一緒に家族の思い出が詰まった地を巡る物語ですが、この親子は義理の関係なのです。 おそらく30代になっている主人公が小学生の時に、実母が癌で急死。その後1年もたたず、心の整理がついていないうち…

エコープラクシア(ピーター・ワッツ)

2013年に出版された『ブラインドサイト』の続編であることを気づかずに読んでしまいました。「前作を読んでいることを強くお勧め」などと解説に書いてあっても、普通気づきませんよね。 まずは前作品のおさらいをしておきましょう。突如登場して消滅した…

ザ・ギフト 聖夜の奇蹟の物語(セシリア・アハーン)

出世のために仕事に猛進しているルーは、昇進のチャンスを目前にして、妻や子供と向き合う時間もとれません。とはいえ美人秘書との浮気願望もあったりして、問題は時間だけではありませんね。要するに自分勝手な男なのです。 そんなルーに、会社前の路上に座…

スキタイと匈奴 遊牧の文明(林俊雄)

17【スキタイと匈奴遊牧の文明(林俊雄)】 ローマ滅亡のきっかけを作ったフン族は、古代中国の北辺を脅かした匈奴の後裔なのでしょうか。また、フン族以前に中央アジアから中近東を支配したスキタイは、両者を繋ぐ環なのでしょうか。 文字を持たなかった騎…

まんまこと6 ひとめぼれ(畠中恵)

「しゃばけシリーズ」とは異なって、時間が流れている「まんまことシリーズ」ですが、妻のお寿ずを亡くした麻之助にはなかなか新しい恋は訪れません。心の痛みが完全に癒えることなどないのでしょうが・・。この巻では、いつの世でも思い通りにならない人間…

プロローグ(円城塔)

登場人物である「わたし」が、書き手である「わたし」と会話しながら、小説が生まれていく「序章」を展開していく「自称・私小説」です。 「名前はまだない」と始まり「自分を記述している言語もまだわからない」と言う語り手ですが、日本近代文学の祖という…

黄泉坂案内人(仁木英之)

この世とあの世の間にあるものは黄泉比良坂だけでなく、坂の途中には村や宿屋があり、魂を運ぶタクシーも運行されているようです。その「入日村」は、100年以上前に水害に襲われた際に次元の裂け目に落ちてしまい、村まるごと黄泉坂に移動していたのです…

ブラックアウト(マルク・エルスベルグ)

ヨーロッパ全域を襲った大停電は、何によってもたらされ、どのような事態を引き起こしていくのか。かなり衝撃的なパニック小説です。ただし始めに言ってしまうと、犯人グループ像は最後まで明確ではないので、サスペンスを期待しないほうが良いかも知れませ…

奥様はクレイジーフルーツ(柚木麻子)

セックスレスの夫婦関係に悩む妻を主人公にした、「フランス文学風」のお洒落な作品です。 30歳になった初美は結婚3年目で、5歳年上の夫に愛されて幸せな結婚生活をおくっています。しかし彼女には大きな不満があったのです。そろそろ子供も欲しいのに、…

紅霞後宮物語 第4幕(雪村花菜)

『第3幕』で反乱を起こしたものの、軍人皇后の小玉にあっけなく滅ぼされた鄒王でしたが、その背後にはやはり黒幕が潜んでいたようです。皇帝なのにやけに細かい文林は、帳簿に登場する「維山」という地名に不自然さを感じて、小玉を現地調査に送り出します。…

夜毎に石の橋の下で(レオ・ペルッツ)

16世紀のプラハを舞台に、狂王と呼ばれたルドルフ2世と、同時代に生きたユダヤ人富豪のモルデカイ・マイスルと、ゴーレムを創造したと伝えられるラビ・レーウの関わりを中心に描かれた連作短編集は、全体としてひとつの歴史幻想小説を形作っています。 冒…

モッキンバードの娘たち(ショーン・ステュアート)

「これはわたしが母親になるまでの物語」と一人称で語られる本書は、主人公のトニが母エレナを埋葬する場面から始まります。美女だったものの奔放で嘘つきで浮気性で、何より魔術めいた能力を持っていた母に、トニは辟易していたのです。 しかしトニはその晩…

クローバーナイト(辻村深月)

クローバーのような4人家族を守る騎士となる覚悟を決めた、35歳のイクメン・鶴峯裕が主人公。彼は小さな会計事務所で働きながら、自営業経営者の妻・志保と共に、5歳の長女と2歳の長男の子育てを分担しているのです。裕のイクメン本気度は、冒頭シーン…

三惑星の探求(コードウェイナー・スミス)

『スキャナーに生きがいはない』と『アルファ・ラルファ大通り』に続く、「人類補完機構」シリーズの第3短編集です。この3冊でシリーズの作品は全て網羅されたとのこと。 最初の3編は、後に人類の指導者となる「キャッシャー・オニール」3部作。「人類補…

まひるの月を追いかけて(恩田陸)

橿原神宮、藤原京跡、今井、明日香、山の辺の道、白毫寺、斑鳩と、早春の奈良を舞台にしたロードミステリーです。二転三転するストーリーの面白さに加えて、かなりダークなラストは気に入りました。 主人公は会社員の静。奈良で消息を絶ったという異母兄・研…

太陽は動かない(吉田修一)

『横道世之介』や『路(ルウ)』の著者には似合わない、スパイアクション小説です。 主人公は、日系産業スパイ組織であるAN通信社の鷹野。AN通信社なるものは、アジア版CNNを創設しようとして挫折したNHK資金が元になっている組織のようで、その成…

裸の華(桜木紫乃)

怪我で引退した元ストリッパーのノリカは、故郷札幌に戻って、ススキノでダンスシアターを備えたバーを開くことを決意します。見せるものは裸ではなくダンス。ワケありのバーテンダーと、個性の異なる2人の若いダンサーを雇い、トレーニングを重ねて開店。…

スウィングしなけりゃ意味がない(佐藤亜紀)

1940年頃、ナチス政権下のハンブルクには、ジャズにうつつを抜かす金持ちのお坊ちゃんたちが大勢いたそうです。自称「スゥイング・ボーイズ」と呼ばれた彼らは、ジャズが敵性音楽と認定されたことで、反ナチス志向を強めていかざるをえません。本書は、…

ヒストリア(池上永一)

沖縄を舞台にした小説を書き続けている著者が描いた、沖縄からボリビアに移民した女性の物語は、何とも楽しい作品でした。 第二次世界大戦の沖縄戦で死線をさまよい、全ての家族も失った知花煉(チカ・レン)は、戦後の沖縄で闇商売に手を出してひと儲けした…