りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

夜毎に石の橋の下で(レオ・ペルッツ)

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16世紀のプラハを舞台に、狂王と呼ばれたルドルフ2世と、同時代に生きたユダヤ人富豪のモルデカイ・マイスルと、ゴーレムを創造したと伝えられるラビ・レーウの関わりを中心に描かれた連作短編集は、全体としてひとつの歴史幻想小説を形作っています。

冒頭の一篇で、ユダヤ街を襲ったペスト禍が姦通の罪に対する神罰であることが示されます。しかしなぜ、ペスト禍が去った時にルドルフ2世は悲鳴をあげて夢から醒め、マイスルの妻である麗しのエステルは息を引き取ったのか。ラビ・レーウが川になげうったローズマリーとは何だったのか。

歴史の軸を行き来しながら進む物語は、なかなかその全貌を見せてくれません。ルドルフが悪魔からくすねた銀貨がユダヤ人の少年に渡った話。モルデカイの結婚相手に対するルドルフの恋。エステルが見た夢の話。モルデカイの遺産を巡る謎。宮廷貴族、伝説の傭兵隊長肖像画家、盗賊団、道化、天文学者錬金術師らが交差する15の物語は、やがてひとつの歴史の流れになっていきます。

しかし現実の歴史がそうであるように、物語のテーマはひとつではないのです。それは狂王の夢であり、ユダヤ人富豪の嘆きであり、独立を失ったボヘミアの悲劇であり、カバラに秘められた永遠の謎でもあるのですが、あえて一言でまとめてしまうと「愛の物語」なのかもしれません。天使アサエルは「お前たちの生は悩みと苦しみに満ちているというのに、そのうえなぜ愛などに煩うのだ」とつぶやくのですが。

2017/12