りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

帝国妖人伝(伊吹亜門)

明治中期から昭和の終戦時にかけて、尾崎紅葉に師事したことがある三文文士の那珂川二坊が係わった不思議な事件を綴る連作短編集。もっとも謎を解くのは那珂川ではなく、彼が出会った奇人・妖人たち。各章末に記されている彼らの正体を想像しながら読むのがお勧めです。

 

「第1話 長くなだらかな坂」

徳川侯爵亭に入った盗人は、逃げ出す際に屋敷の塀から落ちて死亡。犯人を見つけたのは、生き別れになった母親が徳川侯爵家に奉公しているという消息を聞いて訪ねて来た男性でしたが、当時犯罪実録の三文記事を書いていた那珂川が語る話を聞いていた青年が異を唱えます。男性の経歴が、自分とそっくりだと言うのです。その青年の名前は北大路房次郎、後の芸術家というより美食家として名を馳せる〇〇〇でした。

 

「第2話 法螺吹峠の殺人」

短編を書くために京都と奈良の府県境にある法螺吹峠に向かった那珂川は、雨宿りのために茶店に寄ろうとした矢先に、短刀で胸を刺された死体を見つけてしまいます。犯人の目的は、被害者が盗み出した新型軍艦の青写真だったのでしょうか。居合わせた刑事に犯人と思われた那珂川を救って、真犯人を言い当てたのは。国粋派の大物・杉山茂丸の息子という禅僧は、後の猟奇小説家〇〇〇〇でした。

 

「第3話 攻撃」

雑誌社の依頼で第一次大戦の敗戦国ドイツ取材に出た那珂川は、ドイツでハラキリして亡くなった朽木重吾将軍が実は他殺だったということを証明することになってしまいました。ビアホールで人々を煽動する人種差別意識丸出しのドイツ人青年はゲッペルスでしたが、那珂川を助けて謎を解いたの日本陸軍大尉は、後に廣東軍参謀となって満州事変を起こした〇〇〇〇だったのです。

 

「第4話 春帆飯店事件」

昭和20年2月、日本文学報国会の指名で上海慰問講演にきた那珂川が滞在した春帆飯店ホテルで殺人事件が起こります。被害者は軍の糧食を扱って私利を貪った罪で死刑を求刑されていた中国人の犯罪者。現場の様子から犯人はホテルの2階に滞在していた者に限定されたのですが・・。真犯人に騙されて無辜の中国人ボーイを犯人に仕立て上げる手伝いをさせられた那珂川に真相を教えたのは、男装の麗人〇〇〇〇でした。

 

「第5話 列外へ」

74歳で敗戦を迎えた那珂川は、戦争に協力した罪の意識から生きる気力を失くして、ある企てをしたものの失敗。偶然通りがかって彼を助けた京都の医学生は、後に「戦中派閥不戦日記」や忍法帳や明治小説など多彩な作品を遺した〇〇〇〇〇でした。彼の話を聞いて、再び生きる気力を取り戻した那珂川が書いたのが、自身の生涯と帝国の興亡を重ね合わせた本書ということなのでしょう。

 

2025/1