りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2024-06-01から1ヶ月間の記事一覧

あなたの迷宮のなかへ―カフカへの失われた愛の手紙―(マリ=フィリップ・ジョンシュレー)

1919年秋、36歳のカフカは、チェコ語への翻訳者である若い女性ミレナ・イェセンスカーと恋に墜ちてしまいます。彼女は既婚者であり、当時カフカにも婚約者がいたものの、強く惹かれ合った2人の間を夥しい恋文が交わされたことは有名です。カフカがミ…

藍千堂菓子噺1 甘いもんでもおひとつ(田牧大和)

両親亡き後、叔父に実家の菓子司「百瀬屋」を追われた晴太郎と幸次郎の兄弟は、かつて父の許で修業していた職人の茂市と一緒に小さな店を開きます。優しい職人肌の晴太郎と、しっかり者で商才に長けた幸次郎は、叔父の嫌がらせにも負けず、知恵と工夫を凝ら…

もっと悪い妻(桐野夏生)

本書を推薦する西加奈子さんによると、「不幸な『悪い妻』は許されるが、満たされた『もっと悪い妻』は断罪される」とのこと。でも男社会が定義する「悪妻と良妻」の区分なんて無視して、自分が楽しむのが一番。 そんな妻を評価できない男は、しょせん「良い…

柚木麻子と読む林芙美子(林芙美子)

筋金入りの「おフミさん」ファンを自認する柚木麻子さんが、数多く残された林芙美子の短編から12編をセレクトした1冊です。ベストセラーとなった『放浪記』でデビューしてから多くの読者を引き付けた林芙美子ですが、女給上がりの女流作家が男性中心主義…

モヒカン族の最後 下(ジェイムズ・フェニモア・クーパー)

マグワに連れ去られたコーラとアリスの姉妹を救出するために再びハドソン川上流へと向かったのは、姉妹の父親である老マンロウ司令官とアリスに恋している若きヘイワード少佐、そして彼らに協力するホークアイとモヒカン父子のアンカスとチンガチグック。し…

モヒカン族の最後 上(ジェイムズ・フェニモア・クーパー)

アメリカ独立戦争前の18世紀半ば、イギリスとフランスが北米植民地の領有をめぐって争ったフレンチ・インディアン戦争では、インディアンの各部族も敵味方に分かれて戦いました。しかし欧州人たちは、自分たちと異なる論理に従っているインディアンたちを…

アケメネス朝ペルシア(阿部拓児)

Eテレの「3か月でマスターする世界史」で講師が「ローマ帝国に影響を与えたのは史上初の世界帝国であるアケメネス朝ペルシアである」と語っていました。しかしアケメネス朝については、アテネ全盛期のギリシャ侵略を試みて失敗したことと、アレクサンドロ…

限界分譲地(吉川祐介)

著者の「限界ニュータウン探訪記」をYouTubeで見ていたら、本になったというのでさっそく読んでみました。千葉県北東部の限界分譲地に居を構えてしまったことを契機として調査を始めた著者は、この問題に関する情報や資料が圧倒的に少ないと語ってい…

メアリ・ジキルと囚われのシャーロック・ホームズ(シオドラ・ゴス)

19世紀に流行したゴシックホラーでは、怪物にされた女性たちは軽く扱われている存在でした。彼女たちに光を当てた著者が生み出した「アテナクラブ」のメンバーは、ジキル博士の娘メアリ、ハイド氏の娘ダイアナ、ドクター・モローが創り出したピューマ娘キ…

伴天連の呪い 道連れ彦輔2(逢坂剛)

長屋でひとり暮らしをしている御家人の三男坊・鹿角彦輔の主な稼ぎは、小人目付をしている幼馴染の神宮迅一朗が回してくれる「旅の道連れ」。要するに用心棒のようなものですが、剣の腕前はそこそこながら窮地を避ける嗅覚に優れている彦輔にはもってこいの…

道連れ彦輔(逢坂剛)

シリーズ第3巻『道連れ彦輔居直り道中』から読んでしまったのですが、なかなか痛快な物語だったので初めから読んでみることにしました。主人公の鹿角彦輔は歴とした御家人の三男坊であるものの、見た目はただの素浪人。権威や忠義が大嫌いで、自分より弱い…

ブラックウォーター灯台船(コルム・トビーン)

アイルランドのエニスコーシーという田舎町に生まれた著者は、地元を舞台とする優れた小説を書き続けています。とりわけ、アメリカと地元との間を揺れ動きながら自分の人生を形作っていく若い女性の物語『ブルックリン』は秀作であり、映画も素晴らしい出来…

鯖猫長屋ふしぎ草紙 10(田牧大和)

不思議な能力を有する美猫サバと、その飼い主でありながら下僕のように仕えている元盗賊の売れない絵描き・拾楽を主人公とするシリーズも、10作めになりました。それぞれ過去を持つ「鯖猫長屋」の面々も、定回り同心の「成田屋の旦那」も、全てを見通して…

娘について(キム・ヘジン)

韓国の女性作家たちによるフェミニズムの潮流は力強いものがありますが、本書のテーマはもっと広いようです。もともと著者を知ったのは、最底辺に生きる男女の「今だけ良ければよい」という感覚を写し取った長編『中央駅』であり、社会との不安定な繋がりを…

真珠とダイヤモンド 下(桐野夏生)

時代はバブル全盛期に向かっていきます。東京本社に栄転が決まった望月と結婚した佳那は贅沢な暮らしに染まっていくのですが、その影にはヤクザの影が見え隠れしています。2人の東京生活が浦安で始まったことは、著者のデビュー作である『冒険の国』を連想…

真珠とダイヤモンド 上(桐野夏生)

長い不況に苦しんでいる日本ではバブル期を懐かしむ声もあがってきているようですが、実体のない狂乱の時代であったことを忘れてはいけません。本書では対照的な生き方を選んだ2人の女性の視点を通して、バブル期2人の女性の生き方を通して、バブル期の負…

マーダーズ(長浦京)

『リボルバー・リリー』の著者によるバイオレンス小説ですが、本書の舞台は現代日本。法の網をすり抜けて平然と暮らしている犯罪者たちの暗闘は、必ずしも善悪の天秤で量りきれるものではありませんでした。 かつて小学校時代の初恋相手を暴行したあげく殺害…

のち更に咲く(澤田瞳子)

清少納言、紫式部、和泉式部などの平安ヒロインたちが華々しく活躍する時代を舞台としていますが、主人公は藤原道長の私邸・土御門第に下郎女房として勤める小紅という女性です。彼女の一家も藤原一門に属しているものの、父や兄が罪を得たことで剥落してお…