りぼんの読書ノート

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モヒカン族の最後 上(ジェイムズ・フェニモア・クーパー)

アメリカ独立戦争前の18世紀半ば、イギリスとフランスが北米植民地の領有をめぐって争ったフレンチ・インディアン戦争では、インディアンの各部族も敵味方に分かれて戦いました。しかし欧州人たちは、自分たちと異なる論理に従っているインディアンたちを制御しきれなかったようです。本書の背景は、降伏して武装解除されたイギリス軍兵士や家族がヒューロン族に襲撃された「ウィリアム・ヘンリー砦の戦い」です。1991年にダニエル・ディ・ルイス主演で映画化されていますが、ラストは原作と異なっています。

 

主人公は、白人文明に背を向けてインディアンとともに暮らすホークアイ。彼の盟友でモヒカン族の若き酋長アンカスと父親チンガチグック。彼ら3人は、フランス軍に味方するヒューロン族のマグワに騙されて誘拐されようとしているイギリス軍砦の司令官の2人の娘コーラとアリスを救出するのですが、それは物語の始まりに過ぎませんでした。マグワは執拗に彼女たちを狙い続けるのです。

 

モントリオール南部からニューヨーク州北部に続く細長いシャンプーレン湖や壮大なグレン滝、その周辺に広がる原生林を舞台とするインディアンたちの追跡劇や攻防戦の描写は、迫力あると同時に抒情的です。周辺に近代的な町が散在するようになった現在でも美しい景勝は遺されているのですが、その地の主役だった者たちが失われて久しいからなのでしょう。2人の娘は無事に取り戻されてフランス軍に包囲されているウィリアム・ヘンリー砦に送り届けられるのですが、間もなくイギリス軍は降伏。敗残の兵たちが襲撃される中で、またも姉妹は、白人の娘たちを奴隷妻としようという暗い情念に憑りつかれたマグワに連れ去られてしまうのでした。悲劇的な冒険活劇は下巻へと続いていきます。

 

2024/6