りぼんの読書ノート

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アケメネス朝ペルシア(阿部拓児)

Eテレの「3か月でマスターする世界史」で講師が「ローマ帝国に影響を与えたのは史上初の世界帝国であるアケメネス朝ペルシアである」と語っていました。しかしアケメネス朝については、アテネ全盛期のギリシャ侵略を試みて失敗したことと、アレクサンドロス大王によって滅ぼされたことくらいしか知らなかったのです。新書レベルですが、あらためて学び直してみました・

 

時代的には前10世紀から前7世紀にかけてメソポタミア北部を中心に興亡した新アッシリア帝国のほうが先なのですが、アジア・アフリカ・ヨーロッパにまで支配域を拡大したアケメネス朝のほうが「史上初の世界帝国」と呼ばれるにふさわしいようです。異説もあるようですが、歴代王の治世と業績について簡単にまとめておきます。

 

1.キュロス2世(前550~530)帝国の創設者

2.カンビュセス2世(前530~522)古代オリエント統一、エジプト併合

3.ダレイオス1世(前522~486)帝国の完成者、ペルセポリス建都、ギリシャ遠征(マラトンの戦い)

4.クセルクセス1世(前486~465)ギリシャ本土進攻(テルモピレー、サラミス海戦)

5.アルタクセルクセス1世(前465~423)円熟期、

6.ダレイオス1世(前423~405)ペロポネソス戦争への介入

7.アルタクセルクセス2世(前405~358)エジプト反乱、コリントス戦争への介入

8.アルタクセルクセス3世(前358~336)エジプト奪還

9.ダレイオス3世(前336~330)アレクサンドロスによる滅亡

 

ローマ帝国の参考となったのは、多民族が暮らす広大な領土の統治方法です。すなわち、帝国内の行政区制定、徴税・軍事・外交権限を委ねられた総督の任命、監察官の派遣、帝国を貫く幹線道路「王の道」と宿駅・関所の制定、通貨制度の創設、寛容な宗教政策などがそれに当たります。ただし完成度の高さはどうだったのでしょう。

 

その一方でアケメネス朝の歴史を研究する際の大問題は、文献の少なさのようです。もちろん、ヘロドトス、クテシアス、クセノフォン、ディオドロス、プルタークなどの歴史家が多くを記述しているのですが、それらが全て「ヨーロッパ発の情報」にすぎないこと。ギリシャペルシャ戦争時の記述が「ギリシャ寄り」であることは言うまでもないでしょう。無自覚的に「ギリシャ=正、ペルシア=悪」と認識している私たちの歴史観もその影響を受けているのですから。旧約聖書中の「エズラ記」「ネヘミア記」という、ユダヤ人に拠る記述も同じ問題を抱えています。

 

ともあれ本書によって「アケメネス朝史」を概観することができました。知識の空白地帯を埋めていくのは楽しい作業です。

 

2024/6