りぼんの読書ノート

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ギリシア人の物語3(塩野七生)

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3年に渡って書き継がれた「三部作」の最終巻にあたります。著者は本書をもって、50年に渡って書き続けてきた「歴史エッセイ」の執筆を終えるとのこと。締めくくりにふさわしいヒーローは、アレクサンドロスです。

第1巻でペルシア帝国に勝利して輝かしく始まったアテネ民主制は、早くも第2巻で衆愚制に陥ってぺロポネソス戦争に敗北。それを受けた本書の第一部は「都市国家ギリシアの終焉」と題されています。アテネに勝利したものの閉鎖的国家であり続けたスパルタと、そのスパルタを破るまでに台頭したテーベと、復興を始めたアテネによるギリシャ三国志時代は、結局のところ各都市国家の衰退と人材流出を招いただけでした。あのスパルタの戦士たちがペルシアの傭兵として雇われるようになるなんて、世も末ですよね。

しかし辺境から新しい力が生まれてくるのです。オリンポスの北方にあって蛮族扱いされていたマケドニアは、フィリッポス二世の時代に力を蓄えてギリシアに侵攻。6メートルもの長槍で武装したファランクスや、組織化された騎兵部隊という新戦術をもってポリス連合軍を破り、スパルタを除くギリシアを屈服されます。そして道半ばにして暗殺された父王に代わって、弱冠20歳で帝位に就いたのがアレクサンドロスだったのです。

著者は、12年に渡るアレクサンドロスの東征を丁寧に書き綴っていきます。小アジア入口でのグラニコスで太守連合軍を、中東入口のイッソスでダリウス三世を、エジプト攻略後にチグリス川上流のガウガメラで再びダリウス三世を破り、ついにアケメネス朝ペルシアは滅亡。現在のアフガニスタンパキスタンにあたる地域を経て、ついにインダス川を渡ってヒスタベスでインド王ポロスを破るに至ります。この間、制圧した各地にアレキサンドリアの名を冠した都市を建設していったことも有名ですね。

著者が惚れたカエサルやフリードリッヒ二世とは異なるタイプの男性ですが、彼には若さと勢いがありますね。体育会系の仲間のようにして育った腹心の部下クレイトスの処刑、バクトリア王女ロクサーヌとの突然の結婚、兵士たちの従軍拒否によるインド横断行の断念、スーサにおける合同結婚式の挙行、東洋風の専制君主化への懸念などの描写には、息子を弁護する母親の視点を感じてしまいます。

アレクサンドロス死後の後継者たちの争いや、分割された帝国のその後については、著者はもう何も語りません。すでに西方にはローマが興っていたのです。巻末に付された「歴史エッセイ」の年表を見ていたら、もう一度全巻を読み返したくなってしまいました。

2018/11