本書を推薦する西加奈子さんによると、「不幸な『悪い妻』は許されるが、満たされた『もっと悪い妻』は断罪される」とのこと。でも男社会が定義する「悪妻と良妻」の区分なんて無視して、自分が楽しむのが一番。
そんな妻を評価できない男は、しょせん「良い夫」ではないのでしょう。
「悪い妻」
場の空気を盛り上げるために妻を悪妻呼ばわりする男がよくいるけれど、ここでそれをするのは夫のバンド仲間の友人です。ワンオペの子育てに苦労する妻との不協和音は大きくなるばかり。
「武蔵野線」
18歳も年下の中年バツイチ男に懸想されるのは、まあ悪夢の部類でしょう。女性が逃げ出すのも当然ですが、それに「男の絶望」を感じるなんて、勝手の上塗りです。
「みなしご」
行くあてのない店子の老女に一緒に暮らそうと誘いをかけるのは、妻を亡くした70歳すぎの老人です。相手には他に頼る誰かが存在するとは思いもよらず、自分が白馬の王子様にでもなったつもりになるのは、男が良く陥る妄想です。「武蔵野線」の男とも共通点は多いですね。
「残念」
ダメ夫と結婚して後悔している女性は、かつて自分に好意を寄せていたらしい男が出世して、しかも不幸な結婚生活をおくっていると聞いて、何を思うのでしょう。
「オールドボーイズ」
南アフリカ単身赴任中の夫が精神を病んだ末に事故死したのは、妻がついていかなかったせいなのでしょうか。義母も世間もそう思っているようですが、夫が単身赴任を言い出したことでホッとしたことなど、いう必要はありませんね。
「もっと悪い妻」
「外に恋人がいるから家庭の平穏を保てる」と言って元カレとの不倫を続ける妻。そんな妻を愛して好きにさせてくれる夫だから、彼女は心から愛せるのです。男女逆転させても不思議に思える関係ですが、そんな家族の形があってもいいのでしょう。
2024/6