りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

そこにはいない男たちについて(井上荒野)

夫のすべてを嫌いになってしまったまりは、友人の瑞歩に誘われて料理教室に参加します。そこは愛する夫を1年前に亡くした美日子が久しぶりに再開した、女性たちが少人数で交流する場でもありました。2人とも38歳で、まだまだ女盛り。まりはマッチングアプリで物色した男とデートを始め、実日子は助手のゆかりの弟からの不器用なアプローチを受けてしまいます。ふたりの「妻」の孤独と冒険の物語は、どこに行き着くのでしょう。

 

いつも側にいる夫を「いない」と思ってしまうまりと、いないはずの夫を「いる」と感じてしまう実日子。はじめは2人の女性の不幸比べのようだった物語は、中盤から次第に変化していきます。互いの視点が入れ替わるたびに、女性たちの内面が不穏な色彩を帯びて来るのです。表面上は世間のイメージに合わせて取り繕っていた仮面が剥がれていく過程が「怖くて楽しい」作品でした。

 

『ベーコン』や『リストランテアモーレ』などの著者らしく、登場する料理が女性たちの心情と連動していくする料理の選び方が抜群です。まりが好き嫌いの多い夫が手を付けない凝った料理を作る場面も、料理のプロである実日子が若い男のためにシンプルな丼を作る場面も、イメージ通り。むしろ先に料理があって、後から心情がついてくるかのようです。

 

2024/4