りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018-01-01から1ヶ月間の記事一覧

2018/1 BUTTER(柚木麻子)

1月は、巨匠の新作からベストセラーとなった芥川賞受賞作まで、たくさんの素晴らしい本と出会えました。なかでも1位とした柚木さんの作品は、現代日本社会の窮屈さを吹き飛ばすような快作だったと思います。次点には、昨年話題となった「将棋界」のノンフ…

通い猫アルフィーのはつ恋(レイチェル・ウェルズ)

『通い猫アルフィーの奇跡』で、飼い主を亡くした悲しみを乗り越えて新しい家族を見つけたアルフィーの物語には、続編がありました。 アルフィーが「通い猫」として暮らすエドガー・ロードの空き家に、新しい家族が越してきたのです。ところがそのスネル一家…

BUTTER(柚木麻子)

梶井真奈子、通称カジマナ。交際相手から金を奪った末に3件の殺害容疑で逮捕された女・・というと、現実に起きた事件の容疑者を連想してしまいます。実際に、獄中で本書を読んだ容疑者が怒り狂ったとの噂まで聞こえてきます。 本書の主人公は30代の女性週…

陸王(池井戸潤)

2017年秋にTVドラマ化された作品です。先にドラマを見てしまっており、ドラマのストーリーも概ね原作に忠実に作られていたため、登場人物たちのイメージがドラマの出演者になってしまいました。 足袋製造業は完全に斜陽業種であり、埼玉県で100年の…

隣接界(クリストファー・プリースト)

隣接する異世界の存在を前提とする本書は、著者の集大成とでもいうべき位置づけになるのでしょうか。メインストーリーから派生する異世界には、これまでの著作のモチーフが散りばめられているのです。 そもそもメインストーリーが展開される世界も、現実世界…

シャッフル航法(円城塔)

現代ハードSFの第一人者と言われるグレッグ・イーガンの『万物理論』や『ディアスポラ』を読んだ時には、「人間宇宙論」とか「AIの誕生と個性」などの概念に驚いたものですが、著者の作品群はそれらに匹敵する実験的思考を小説化しています。 「内在天文…

邪悪(パトリシア・コーンウェル)

「検屍官シリーズ」の第23作にあたります。前作『標的』で意外な復活を果たした、シリーズきっての悪役キャリー・グレセンが、ケイやルーシーらに悪意をむき出しにして迫ってきます。 ハリウッド大物の娘シャネルが自宅内で死亡。すべての証拠が自殺を示す…

火花(又吉直樹)

2015年度の直木賞受賞作を今になって読むことができました。一時は図書館で数百番待ちだった本書を、ようやく借りることができたのです。 売れない漫才コンビ「スパークス」の徳永は、熱海の花火大会で冴えない営業をした晩に、奇才の先輩・神谷と出会っ…

クラウド・テロリスト(ブライアン・フリーマントル)

1936年生まれのスパイ小説の大家が2015年に書き上げた新作は、サイバー空間に潜むテロリストという新しいテーマに挑戦しています。 米国NSA局員で暗号解読専門家のアーヴィングが立ち上げたプロジェクトは、テロリストたちが連絡に用いているSN…

僕には世界がふたつある(ニール・シャスタマン)

15歳のケイダンは、海賊船に乗って地球で最も深いマリアナ海溝のチャレンジャー海淵に向かっています。船員たちに奇妙な指令が次々と発せられる中では、片目の船長と、船長が飼っているオウムが反目しあい、ケイダンの相談相手になってくれるのは掃除係り…

オブ・ザ・ベースボール(円城塔)

科学的知識と文学系薀蓄を併せ持つ異色作家が、文學界新人賞を受賞した作品です。 ほぼ1年に1回、空から人が降って来るという「ファウルズ」は、その不思議な現象を除けば単調で退屈な町でしかありません。そこに流れ着いて、ユニフォームとバットを見に着…

格安エアラインで世界一周(下川裕治)

1990年代から2000年代初頭にかけて台頭してきた「格安エアライン(LCC)」の波が日本に押し寄せてきたのは、2000年代後半のこと。世界的には既に、体力の弱いLCCの破綻が始まっていた時期です。 そんな時期である2009年に、バックパッ…

コードネーム・ヴェリティ(エリザベス・ウェイン)

2部構成になっている本書の第1部は、ナチス占領下のフランスでゲシュタポに囚われたイギリス人女性が綴る手記からなっています。拷問をやめる代わりにイギリスに関する情報を記すよう強制された手記で、書き手の女性は執拗に自分の本名を記そうとはしませ…

聖の青春(大崎善生)

羽生善治棋士が7冠を達成して最強棋士の名をほしいままにした当時、羽生に対して対等の星を残して「東の羽生、西の村山」と並び称されながら、29歳の若さで夭折した同世代の棋士・村山聖の生涯を描いた作品です。 5歳の頃から腎ネフローゼという難病を患…

棋士という人生(大崎善生/編)

専業作家となるまで日本将棋連盟に勤めて将棋棋士と深く関係し、高橋和女流3段を妻に持つ著者による「将棋アンソロジー」です。「吹けば飛ぶような将棋の駒」に人生を賭けた往年の大棋士たちの横顔から、羽生ら新時代の若手棋士たちによる世代交代、さらに…

あきない世傳 金と銀 2(高田郁)

学者の娘として生まれながら、父と兄の死後、大坂天満の呉服商「五鈴屋」に女衆として奉公をはじめた幸(ゆき)の人生が大きく変わって行きます。幸の賢さと性格を見込んだ番頭の治兵衛から、放蕩三昧の店主徳兵衛の後添いにとの話が持ち上がったのです。 「…

リリスの娘(坂井希久子)

夜の魔女であるリリスに例えられる魔性の女・凜子。老齢の会社経営者、流行作家、パティシェ、画学生、孤児院の同級生などを次々と籠絡し、彼らの心を弄びながら成功者へと上り詰めて行った女の一生を、7編の連作短編で描いた作品です。 最後になって、彼女…

ウィーン五月の夜(レオ・ペルッツ)

20世紀前半のオーストリアで時代を先取りした幻想小説を著していた著者の短編小説・紀行文・文芸評論などを収録したアンソロジーです。ユダヤ人であるが故に、ナチスに併合されたウィーンを離れた著者の体験がもとになっている表題作は抒情的な美しさをた…

アノニム(原田マハ)

MOMAに勤務した経験を持つキュレーターで、絵画にちなんだ作品も多い著者による、アート・エンタテインメント小説です。 舞台は中国に返還されて20周年を迎えた香港。「雨傘運動」と名付けられた反政府デモが拡大する中で、一大オークションが行われよ…

シェルシーカーズ(ロザムンド・ピルチャー)

『眠れる虎』の読後感が良かったので、著者の代表的長編である本書も読んで見ました。 本書の主人公は、コッツウォルズで一人暮らしをしている64歳のペネラピ。画家の娘としてコーンワルで輝きに満ちた少女時代を送り、貧しい戦時下も懸命に生きぬき、誤っ…

ファイト(佐藤賢一)

『春に散る(沢木耕太郎)』に続いて、2作連続でボクシング小説を読みました。こちらの主人公は2016年6月に亡くなった、モハメド・アリ。実際にアリが闘った世界戦のうちで、記念碑となった4試合に焦点をあてて描かれた作品です。 第1章は、1964…

春に散る(沢木耕太郎)

『敗れざる者たち』、『一瞬の夏』、『カシアス』の「ボクシング三部作」をはじめとするスポーツ・ノンフィクションの大家が描いたボクシング小説です。著者の作風からしてシリアスな作品を予想していたのですが、いい意味で裏切られました。本書は痛快エン…

繊細な真実(ジョン・ル・カレ)

2018年最初のアップは、もはや「スパイ小説の巨匠」などという枠を遥かに超えた著者の23作目にあたる長編です。本書は、近年日本でも施行された「特定秘密保護法」に関するテーマを扱っています。 民間防衛企業との深い関係を噂されている新任の大臣が…