羽生善治棋士が7冠を達成して最強棋士の名をほしいままにした当時、羽生に対して対等の星を残して「東の羽生、西の村山」と並び称されながら、29歳の若さで夭折した同世代の棋士・村山聖の生涯を描いた作品です。
5歳の頃から腎ネフローゼという難病を患い、病床で将棋を覚えた村山は、大阪の森信雄に師事して奨励会入会。病状悪化による不戦敗を何度も経験しながらも、3年足らずという驚異的なスピードで奨励会を駆け抜けてプロ棋士入り。その6年後には谷川浩司王将とのタイトル戦に登場。さらに3年後にはA級8段に昇級して名人位を射程圏に入れながら癌を患って、志半ばで倒れるという壮絶な生涯は、2016年に松山ケンイチ主演で映画化されています。
村山は、自分の命が長くないことがわかっていたのでしょう。一日も早く名人になるために盤上の闘いにひたむきに挑む一方で、思うようにならない自分の身体や宿命にいらつき、懸命さに欠ける他人の言動は許せずに、醜い姿をさらすこともあったようです。そんな村山の生涯を、絶妙な距離感で描くことができたのは、著者が日本将棋連盟勤務時代に、実際に村山の世話もしていたことによるのでしょう。
村山の師匠であった森信雄は、プロ棋士としては7段どまりで大成しませんでしたが、山崎隆之8段や、糸谷哲郎元竜王など、弟子が多いことで有名な人物です。その最初の弟子が村山であり、師弟の濃密な関係が描かれている点も本書の魅力のひとつです。
2018/1