りぼんの読書ノート

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職業、女流棋士(香川愛生)

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近年は将棋をすることもなく、棋士の名前も羽生世代のタイトルホルダーの方々までしか知らなかったのですが、藤井聡太二冠の登場で棋界が湧いています。さらに新型コロナ禍で在宅時間が増えたのを機に、久しぶりに将棋に関心を向けてみました。そんな時にYoutubeで出会ったのが、女流棋士香川愛生四段。オンライン対戦を実況中継しながら、相手が強ければ強いほど目を輝かせて「将棋って楽しいなぁ」とニコニコしている姿が新鮮でした。もちろん実力も兼ね備えていて、現在は無冠ながら過去に女流王将タイトルを2期獲得し、本稿執筆時点のレーティング順位は女流5位。そんな彼女が3年前に綴った新書があるというので、さっそく手に取ってみました。

 

棋士女流棋士の違い、プロへの道のり、女流棋戦の紹介、普及活動など、これまで深くは知らなかった女流棋士という職業のあり方をキビキビした文章で丁寧に説明してくれていますが、本書の真価はそこではありませんでした。これは香川愛生というひとりの女性が、将棋と共に歩んできた半生を鮮やかに描いた作品だったのです。

 

本書の執筆当時、まだ25歳という若さであったことは問題ではありません。少女時代に将棋と出会って、中学3年生で奨励会に入り、棋士の卵たちとの勝負にもまれる中で絶望し、ひとたびは将棋から離れながらも、立命館大学進学を機に女流棋士としての再出発を果たし、将棋の楽しさに再び気付いて、ついにはタイトル獲得に至るという道筋はそれだけでドラマティック。しかもその間の心情の揺れがストレートに伝わってくるのですから、著者は書き手としてもアマチュアの域を超えています。はからずも感動すら覚えてしまいました。

 

表紙写真を見ておわかりのようにかなりの美貌の持ち主であり、Youtubeやコスプレ、さらには自主映画で主演を務めたり、将棋の普及を目的とする会社を設立するなどの多彩な活動をされているのですから、人気があるのも当然です。それらの活動について、将棋に強くなるという第一目的からの逸脱と見る向きもあるようですが、さまざまな経験を積むことは決して無駄ではないと思います。2021年に入ってからは14勝3敗(5/29時点)という好成績を収めており、念願のタイトル再獲得にも手が届きそうなところにまで来ていることが、その証拠。仮にスランプに落ち込んだとしても、人生の幅を広げたことは必ずや役立つはず。現在の女流棋界は里美四冠と西山三冠の2強時代となっていますが、念願の順位戦である白玲戦が新たに創設されたこともあり、香川四段がそこに割って入ることをファンとして願っています。

 

2021/6