りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

2022/3 Best 3

1.緑の天幕(リュドミラ・ウリツカヤ) スターリンが亡くなった1953年に10歳だった著者が、同世代の男女を主人公として描いた大河小説です。幼馴染である3人の少年たちと、彼らの人生と交差する3人の少女たちの半生から浮かび上がってくるのは、「…

元禄お犬姫(諸田玲子)

徳川5代将軍綱吉の時代を象徴する出来事といえば、「生類憐みの令」と「赤穂浪士討ち入り」でしょうか。京都・奈良の寺社を再興させたり、新井白石・室鳩巣などの儒学者を輩出させたり、近松・西鶴・芭蕉らを生んだ元禄文化を興隆させたなどの功績は、歴史…

輝山(澤田瞳子)

『星落ちて、なお』で2021年7月に直木賞を受賞された著者の受賞後第1作は、江戸期の石見銀山を舞台とする群像小説でした。江戸初期には世界の銀の1/3を産出したという石見銀山は厳しい統制の下にあった幕府直轄地ですが、そんな場所でも普通の人々…

夜空に泳ぐチョコレートグラミー(町田そのこ)

『52ヘルツのクジラたち』で2021年の本屋大賞を受賞した著者のデビュー作です。2016年に「女による女のためのR-18大賞」を受賞した短編から始まる連作短編集。ネグレクト、虐待、DV、貧困という激流の中を必死に泳ぐ5匹の魚に例えた各章の…

総理の夫(原田マハ)

閉塞感漂う日本の中で、最も空気が淀んでいるのが政界でしょうか。そこに新風を吹き込もうと試みる小説も多い中で、本書が持ち出してきたのが「女性総理」。同じテーマの『標的(真山仁)』は現実的なドロドロ感を引きずっていますが、こちらはかなりエンタ…

キネマの神様(原田マハ)

元美術館キュレーターで『楽園のカンヴァス』や『暗幕のゲルニカ』など美術を題材にした作品が多い著者ですが、映画好きなことでも知られています。かなりユニークな父親が「無条件に許してくれたのは、読書、映画、美術であった」と、先日あるTV番組で話…

陰陽師 水龍ノ巻(夢枕獏)

1988年に書き始められた「陰陽師シリーズ」も17巻めになります。「偉大なるマンネリ」と評されるようになってからも既にかなりの年月が経っていますが、未だにスタイルがぶれていないのが素晴らしい。この巻では、相棒役の源博雅の活躍が目立ちます 「…

七年の夜(チョン・ユジョン)

書肆侃侃房による「韓国女性文学シリーズ」の第3弾である本書は、550ページを超える長編ミステリです。やはり長編である『第九の波(チェ・ウンミ)』の時にも感じたのですが、不自然な展開が多く感じるのは韓流ドラマ的ということなのでしょうか。それ…

こうしてあなたたちは時間戦争に負ける(アマル・エル=モフタール/マックス・グラッドストーン)

ある平行世界で巨大帝国を壊滅させるミッションを成功させた「エージェンシー」の工作員レッドが、激闘を終えた静寂の中で「ガーデン」の工作員ブルーからの手紙を発見したところから物語は始まります。ネットワーク型組織の「エージェンシー」と植物的共同…

ファットガールをめぐる13の物語(モナ・アワド)

主人公は、自分が太っていることに悩んでいるエリザベス。彼女がハイティーンの頃に始まる13個の短編は、彼女が自分の身体の大きさについて抱えているコンプレックスとともに進んでいきます。冒頭で彼女が、やはり太っている親友メルに言い放つ「宇宙はわ…

樽とタタン(中島京子)

小説家となった女性が、小学校時代の記憶の海から掬い出した9つの物語。学校が苦手で友達もいず、いつも逃げるように帰宅していた少女が、共働きの母親が帰ってくるまで時間をつぶしていたのが、坂の下にあった喫茶店。店の隅にあったコーヒー豆の大樽を特…

対岸の家事(朱野帰子)

『海に降る』や『わたし、定時で帰ります。』がTVドラマ化された著者が、主婦労働というテーマに切り込んでくれました。 家族の為に「家事をすること」を仕事に選んだ詩穂が主人公。居酒屋に勤める夫の帰りはいつも遅く、2歳児の娘と2人だけで繰り返され…

あまりにも騒がしい孤独(ボフミル・フラバル)

チェコ文化を担ってきたのは平民階級だそうです。15世紀から17世紀にかけての宗教戦争に敗れてカトリックの支配を受けたチェコでは、プロテスタント系の聖職者・貴族・上級市民が一掃されてしまい、農民と下層市民しか残らなかったとのこと。そして近代…

カミサマはそういない(深緑野分)

『戦場のコックたち』や『ベルリンは晴れているか』など戦場ミステリの書き手という印象が強い著者ですが、独特の視点を有して独自の世界を描き出すことでも知られています。本書は「救いのカミサマ」などいないダークな世界を描いた短編集です。 「伊藤が消…

落花狼藉(朝井まかて)

江戸時代を題材とする小説は数多くありますが、安定の江戸中期や激動の幕末を描いた作品と比較して、江戸初期の物語はそれほどくないように思います。本書は、元吉原に遊郭が許可された1617年から、明暦の大火後に新吉原へと移転する1658年までを中…

正欲(朝井リョウ)

「多様性を尊重する時代」といっても、LGBTQなどの「自分が想像できる多様性だけ礼賛する」というのは中途半端なものなのかもしれません。もちろん児童ポルノや暴力行為など、犯罪の範疇に含まれる性癖は許されるものではありませんが、無害であっても…

フーガはユーガ(伊坂幸太郎)

「不思議な特殊能力を持つ双子が悪人に挑む物語」ですから、いかにも著者らしい作品です。双子の兄・優我と弟・風我の秘密は、2人が瞬間的に入れ替われることでした。しかしそれが可能なのは年に1回の誕生日だけであり、およそ2時間ごとに起こる入れ替わ…

第九の波(チェ・ウンミ)

嵐の海で寄せ来る波は次第に大きくなり、第九波で最高潮に達するそうです。19世紀ロシアの画家の同名の作品では、最大の波に吞まれそうになりながら、船につかまって遥か遠くに見える光の方に向かおうとあがいている人々が描かれているとのこと。著者は、…

オルガ(ベルンハルト・シュリンク)

19世紀末に生まれて激動の20世紀を生き抜けたヒロイン、オルガは魅力的な女性です。幼くして両親を亡くし、農村の祖母に引き取られたオルガは、誰にも媚びないまっすぐな性格の女性に育ちます。教育を受けて経済的に自立するために、祖母の反対を押し切…

十二の風景画への十二の旅(辻邦生)

復刊された『十二の肖像画による十二の物語』を読んだのを機に、姉妹編である本書を読んでみました。風景画の中に「架空の旅をしたい」と語っている著者は、どのような物語を紡ぎ出してくれたのでしょう。 1.「金の壺」クロード・ロラン「シバの女王の船出…

十二の肖像画による十二の物語(辻邦生)

作家生活の前半で素晴らしい長編をいくつも送り出した著者ですが、後年はもっぱら短編を中心に執筆されていた印象があります。近世ヨーロッパの自画像の名品に刺激されて生まれた短編集が復刊されたのを期に手に取ってみました。写真よりも本人の姿を正しく…

緑の天幕(リュドミラ・ウリツカヤ)

スターリンが亡くなった1953年に10歳だった著者が、同世代の男女を主人公として描いた大河小説です。中心になるのは、幼馴染である3人の男性たち。写真好きで地下出版に関わり、やがて亡命することになるイリヤ。繊細な詩人の感性を持つユダヤ人孤児…

明日は遠すぎて(チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ)

『アメリカにいる、きみ』や『半分のぼった黄色い太陽』などのヒット作、文学賞受賞作を書いたナイジェリア出身の著者による短編集です。近年では自身のTEDスピーチを書籍化した『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』を大ヒットさせています。 「明日は…

雨の日は、一回休み(坂井希久子)

帯のコピーにあったように「おじさんはつらいよ」物語。著者は等身大の女性を描いてきたという印象がありましたが、あらためてチェックしてみたら、さまざまな登場人物を描いていますね。作家デビューする前の社会経験の豊富さが生かされているのでしょう。…

アカガミ(窪美澄)

2030年、少子高齢化の進む日本では、それと並行して若者の無気力化の深刻な問題になっていました。若者の多くは恋愛も結婚もせず、まして子どもを持とうとはしていません。友人すら持たずに、ひとりで生きていくことを望むようになっていたのです。危機…