りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

雨の日は、一回休み(坂井希久子)

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帯のコピーにあったように「おじさんはつらいよ」物語。著者は等身大の女性を描いてきたという印象がありましたが、あらためてチェックしてみたら、さまざまな登場人物を描いていますね。作家デビューする前の社会経験の豊富さが生かされているのでしょう。本書は、時代に適応できないおじさんたちに訪れた「雨の日」に、薄日が差すような瞬間を描いた連作短編集です。残念さが誇張されていますが、こんなおじさんたちが世間に大勢いそうと思えるころはリアルに怖い。

 

「スコール」

匿名のセクハラ訴えを上司から指摘された中年課長には、全くと言っていいほど身に覚えがありません。オールドファッション感覚であることは否めませんが、このご時世、女性たちには慎重すぎるほど気を遣って接してきたのです。しかし被害を訴えてきたのは、全く意外な人物だったのです。

 

「時雨雲」

中年課長の上司である部長は、来年には定年を迎えます。彼を差し置いて役員に選ばれたのは、女性起用の波に乗った後輩女性だったのです。しかし彼女が男社会の会社で働いてきた真意を聞いた部長は、清々しさを感じるのです。きっと彼は妻の副業にも理解を示せるようになるのでしょう。

 

「涙雨」

部長が出席したライフプランセミナーの席を蹴って飛び出した50代前半の男は、役職定年を迎えて、かつてパワハラもどきの指導をした後輩の下に再配属されたばかりでした。妻子からも愛想をつかされており、風俗で女性を組み伏せることだけが生きがいになってしまった荒んだ男に、変化のきっかけは訪れるのでしょうか。

 

「天気雨」

職場で唯一、役職定年男にシンパシーを感じている40代の派遣男性は、就職氷河期のあおりを食った世代です。彼の唯一の気晴らしは、ネットで女子高生になりすましてフォロワーの気を惹くことだったのですが、不良高校生たちに正体がバレて、おやじ狩りにあってしまいます。しかし意外なところから救いの手が・・。

 

「翠雨」

渋谷の街で文句を怒鳴り散らしている「世直しおじさん」は、定年を迎えて何もすることがなくなった初老の男性です。、このままだと痴呆が進むのではないかと心配になるほどですが、ようやく彼も興味を持てることが見つかったようです。その過程には少々疑問の余地があるのですが。

 

2022/3