りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ミストレス(篠田節子)

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小説宝石』の「春の官能小説特集」への寄稿作品を中心とする短編集です。「官能」なのでエロい表現もあるのですが、どの作品も「ダメ男に厳しいブラック・ファンタジー」になっているところに、篠田さんらしさを感じます。

「ミストレス」
コンサートの最中に幻視したコンサートミストレスの正体は、何だったのでしょう。そしてそれは、なぜ彼のところに姿を見せたのでしょう。主人公たちとの因縁が巧みです、書かれた部分も、おそらく書かれなかった部分も含めて。

「やまね」
申し分のない活発で健康な才媛を袖にして、生気を感じさせない不思議な女性に惹かれていった男には、もちろんハッピーエンドなどは訪れません。それにしても、女がもっとも嫌う女に、男はなぜ引きつけられてしまうのでしょう。

ライフガード
ネムーン先のプーケットで出会ったのは、死んだと噂された過去の男にそっくりの現地人でした。ビーチが津波に襲われた日に、彼女を助けてくれたのは誰だったのでしょうか。虚実の間を二転三転する展開は、スリリングです。

「宮木」
従軍記者気取りで紛争地域を12年間も彷徨った男が帰国したのは、戦死した日本人女性の葬儀のためでした。ずっと音信不通だった夫を責めることもせずに迎え入れた妻でしたが、彼女こそが大きく変貌を遂げていたのです。著者は相変わらず、ダメ男の末路には厳しいですね。

「紅い蕎麦の実」
若い女性と懶惰な生活を送ってる男性は、50代の女性に聖女の面影を見てしまいます。彼のプラトニックラブは、どのような結末を迎えたのでしょう。彼女の聖性の真相もまた、意外なものだったのです。実際の事件との関係を連想させるこの作品が、一番印象に残りました。

2016/4