1.水車小屋のネネ(津村記久子)
事情あって「蕎麦屋の手伝い+鳥の世話」という謎の求人に応募し、水車小屋のある村に住み始めた姉妹の40年間を綴った物語。適度な距離感を保つ周囲の人々の援助で、18歳の姉と8歳の妹の生活はなんとか回る始めます。やがて姉妹は成長するとともに援助する側へと移っていくのです。「誰かに親切にしなきゃ、人生は長くて退屈なものですよ」という言葉が、本書を貫いている人生観。水車小屋に住み着いているヨウムのネネも、いい味を出しています。
2.台湾漫遊鉄道のふたり(楊双子)
昭和13年の日本統治下の台湾を旅する林芙美子を思わせる作家と、通訳を務める現地エリートの若い女性の交友を綴った「美食x鉄道旅x百合」小説は、綿密な歴史資料考察と、深い内容を含んでいます。2人の関係には、当時の日台植民地関係、貧富の差、女性差別が影を落としているのです。あまりにも立場の違う2人の物語はハッピーエンドとはなりませんが、著者は「愛で乗り越えることは不可能」ながら「愛で乗り越えることが困難であればあるほど、逆に愛に近いものだと思っている」と語っています。
3.茜唄 上下(今村翔吾)
平清盛の死後に平家一門の総大将として源平合戦を闘い抜いた4男・知盛の視点から描かれた「平家物語」は、古典大作に新たな視点を持ち込みました。天才的な知盛が企てた「天下三分の計」はなぜ成立しなかったのでしょう。各章の冒頭で「平家物語」を琵琶法師に伝授する女性の存在が、著者がもっとも描きたかったであろう主題と重なってきます。敗者の名を冠した歴史物語がなぜ後世に伝えられることになったのでしょう。
【その他今月読んだ本】
・クレイジー・リッチ・アジアンズ 上下(ケビン・クワン)
・播磨国妖綺譚 伊佐々王の記(上田早夕里)
・そこにはいない男たちについて(井上荒野)
・踏切の幽霊(高野和明)
・ニッケル・ボーイズ(コルソン・ホワイトヘッド)
・百夜(高樹のぶ子)
・結婚のためなら死んでもいい(南綾子)
・ジャズ(トニ・モリスン)
・道連れ彦輔居直り道中(逢坂剛)
・ともぐい(河崎秋子)
・愉快なる地図(林芙美子)
・よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続(宮部みゆき)
2024/4/30