りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2010-11-01から1ヶ月間の記事一覧

麦屋町昼下がり(藤沢周平)

『蝉しぐれ』や『たそがれ清兵衛』の翌年に書かれた、著者円熟期の作品群。藩内の「場所と時間」を組み合わせたタイトルの4つの中篇はどれも、先の2作品の雰囲気を保ちつつ、『隠し剣シリーズ』を髣髴とさせる決闘場面を合わせ持っています。これでおもし…

終わらざる夏(浅田次郎)

1945年8月15日は「終戦記念日」ですが、満州と千島ではソ連軍の対日侵攻という新たな戦争が始まっていました。その時、カムチャッカ半島に程近い千島列島の最北端・占守(シュムシュ)島に居たのは、輸送手段を失って島に取り残されたために、奇跡的…

フェッセンデンの宇宙(エドモンド・ハミルトン)

短編集である河出書房新社の「奇想コレクション」は、ずっと敬遠していましたが、読み始めてみたら、結構はまりました。一時代前のSF作家の秀作が多いのですが、これが楽しいんです。本書もそんな一冊。 「フェッセンデンの宇宙」実験室で恐るべき小宇宙を…

楊令伝13(北方謙三)

交易によって民の安寧な暮らしを実現した梁山泊には、荒れ狂う大海に浮かぶ小舟のような危うさがあります。周囲の民から羨望され、周囲の支配者からは敵視される中で、孤高を保つためには、超絶した武力が必要。民の支持さえあれば「唯一の国民軍」としての…

バッテリー 2~6(あさのあつこ)

正直に言うと、これは『バッテリー』だけで終えたほうが良かったという印象です。ピッチャーとしての天才的な能力に自信を持ち、ボールを投げることを全てに優先させ、それを理解しない親や周囲に反発する主人公の傲慢さと、その裏に潜んでいる弱さとが、本…

バッテリー(あさのあつこ)

佐藤多佳子の『一瞬の風になれ』や森絵都の『ダイブ』と並んで、青春スポーツ小説の傑作と呼ばれる作品ですが、今まで読む機会がありませんでした。野球という競技では『巨人の星』のイメージが強すぎて「根性やチームワークの物語」という先入観があったの…

夜更けのエントロピー(ダン・シモンズ)

河出書房新社が2003年に創刊した「奇想コレクション」の第1作です。ミステリ、SF、ホラー、現代文学のジャンルを超えて「すこし不思議な物語」の名作を集めるというシリーズのトップに『ハイペリオン』や『イリアム』の著者を持ってくるというのは、…

ウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン(ポール・トーディ)

若くしてIT企業を立ち上げて成功したウィルバーフォースは、ひょんなことから古城のような建物の地下に巨大なワインセラーを有するフランシス老人と知り合い、貴族や上流階級の人々とも面識を得ることになりますが、それは、転落のはじまりでした。まるで…

俺の後ろに立つな(さいとうたかを)

17歳で漫画家デビューしてから、75歳になる現在までの60年間近くを、劇画界のトップランナーとして走り続けてきた、さいとうたかをさんの「一代記+エッセイ」です。 さいとうさんの作品は『ゴルゴ13』しか知らないのですが、手塚修虫さんの漫画とは…

迷宮の将軍(ガブリエル・ガルシア=マルケス)

スペインのくびきから中南米諸国を解き放ち、独立へと導いたシモン・ボリーバル将軍の最後の7ヶ月を南米文学の巨匠が描いた作品です。以前読んだときには、恥ずかしながらこの人物のことを知らなかったのでピンとこなかったのですが、今度は予習済み。^^ …

シモン・ボリーバル(神代修)

かつてガルシア=マルケスの『迷宮の将軍』を読んだときには、この人の存在自体を知らなかったので、全然ピンとこなかったんです。読み返してみたくなりましたので、今度は予習しておこうと思い、この本を借りてきました。 世界一銅像が多く建てられているの…

いちばんここに似合う人(ミランダ・ジュライ)

岸本佐知子さんが編んだ『変愛小説集2』に収録されている「妹」を含む短編集。「人はみな孤独だ、だが孤独を通じてつながることができるのかもしれないという裏返しの希望」もあると、後書きで著者も述べているように、全ての作品を貫いて「孤独から逃れる…

続巷説百物語(京極夏彦)

「シリーズ中の最高傑作」と思っていましたが、再読してその感を一層強くしました。あやかし仕立ての仕掛けの大きさもさることながら、又市、おぎん、治平、小右衛門ら、二つ名を持って闇の世界に生きる男女の哀切が、ひしひしと感じられてくるのです。 「野…

巷説百物語(京極夏彦)

シリーズ5作めの『西巷説百物語』を読んで、全盛期の又市の活躍を描いた、はじめの2作品を読み返してみたくなりました。 「小豆洗い」かつて姉弟を手にかけた僧侶が川で足を滑らせて死んだのは、小豆洗いのせいなのです。最初の一話ですから、どんな展開の…

西巷説百物語(京極夏彦)

「百物語シリーズ」5作めは、『前巷説百物語』で御行の又市とともに損料屋「ゑんま屋」の裏家業を手伝っていた靄船の林蔵を主役に据えて、江戸とは一味違う大阪での「仕掛け」を描く新趣向となっています。 著者は「又市が地方出身者なので京阪の都市文化に…

小太郎の左腕(和田竜)

1556年というと桶狭間の戦いの4年前であり、まだ戦国時代の中期。各地で小規模の国人が、大名の座を目指して地域の覇権を競っていたころの物語。勢力を拡大していた戸沢家は、領地を接するに至った隣国の児玉家に攻め込まれて篭城に追い込まれてしまい…

妻という名の魔女たち(フリッツ・ライバー)

公私ともに順風満帆な生活を送ってきた大学教授のノーマンは、最愛の妻タンジイの部屋で魔術道具を見つけます。科学者としては迷信に捉われているような妻の行為は認めがたいもの。妻を叱って全てを棄てさせのですが、それを境にノーマンの生活は不運にさら…

隠蔽捜査3 疑心(今野敏)

「合理主義の権化」であり、人並みの人間性を持ち合わせていないキャリア警察官の竜崎伸也を主人公とするシリーズ第3作。 第1作での息子の不祥事によって大森署署長に左遷されている竜崎は、異例の任命で米大統領訪日の方面警備本部長となります。自分のほ…

バッキンガムの光芒(ジョー・ウォルトン)

1941年にナチス・ドイツと単独講和を結んだという「歴史改変イギリス」を舞台に民主国家にしのび寄るファシズムの脅威を描く「ファージング3部作」は、最後まで極めて高い水準を保ってくれました。 完結編となる第3部は、『英雄たちの朝』と『暗殺のハ…

暗殺のハムレット(ジョー・ウォルトン)

1941年にナチス・ドイツと単独講和を結んだという「歴史改変イギリス」を舞台に民主国家にしのび寄るファシズムの脅威を描く「ファージング3部作」の第2弾。 前作『英雄たちの朝』は、イギリスにファシスト政権が誕生する前夜の物語でしたが、それから…

英雄たちの朝(ジョー・ウォルトン)

1949年のイギリス。史実とは異なって、イギリスは1941年のナチス副総統ルドルフ・ヘスの飛来を契機にドイツと単独講和しています。ナチスは欧州全域を支配しているものの、ソ連との戦争が泥沼化しています。日本は軍国主義を維持したままで、中国で…

雑学のすすめ(清水義範、西原理恵子 絵)

「清水ハカセが贈る雑学ウンチク」は目新しくもないし、ほとんど驚きもありません。でも、ハカセの語るウンチクに鋭いツッコミを入れる西原理恵子さんの絵が楽しみでしたので、この本を手にとってみました。 とりあえずタイトルでも並べてみましょうか。 ・…

新徴組(佐藤賢一)

フランス史を題材に取った小説では第一人者である佐藤さんが綴った、幕末の物語。不思議に思った人も多いでしょうが、佐藤さんは山形県鶴岡市の出身なんですね。鶴岡を城下とする庄内藩が、戊辰戦争で会津と並ぶ朝敵とされながら藩内での戦を免れ、藩自体も…

空高く(チャンネ・リー)

『最後の場所で』のハタは、「日本人として育ってアメリカに帰化した韓国人」でしたが、本書の主人公ジェリーはイタリア系移民の家系。 ただし亡くなった妻デイジーが韓国系、妻の死後につきあった恋人リタがプエルトリカン。さらに息子ジャックの妻ユニース…

シャーロック・ホームズの事件簿(コナン・ドイル)

新潮文庫版では、各短編集から割愛された作品を集めた『叡智』がこの後に続くのですが、実質的にこれがシリーズ最終巻となります。『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』でホームズを退場させたのに、読者はそれを許さなかったために書き継がれた作品群です…

2010/10 天啓を受けた者ども(マルコス・アギニス)

森見登美彦さん編集の『太宰治傑作選』に素晴らしい作品が揃っているのは当然ですが、今月読んだ本の中では、日本の小説に佳作が多かったように思います。 ただし1位には、現代社会の中で「天国の到来を声高に告げながら地獄を生み出している天啓を受けた者…